王来MAX最終弾『切札!マスターCRYMAX!!』をもって、新章デュエル・マスターズ――いわゆるジョー編は完結を迎えた。
競合コンテンツはもちろん、社会情勢にも振り回されることとなったジョー編。そんなジョー編のラスト1年半を飾った王来篇・王来MAXは、綺麗な幕引きと言えたのだろうか?
この『勝手にデザイン演説』記事では、王来篇・王来MAXのカード・製品デザインを2記事に分けて振り返っていく。
今回は前編として、王来篇の4セットをお送りする。やや辛口な評価も含まれるが、ご容赦いただければ幸いだ。
目次
『勝手にデザイン演説』について
アメリカ大統領が国の1年間を振り返る『一般教書演説』。
……を模して、マジック:ザ・ギャザリング(MTG)開発者がMTGの1年間を振り返ろうという『デザイン演説』という公式コラムがある。[参考:2021年の分]
そんな『デザイン演説』をさらに模して、デュエマの1年間――もとい1年半を勝手に振り返る企画がこの『勝手にデザイン演説』だ。
各商品について良かった点・問題点をそれぞれ振り返り、最後にシリーズ全体の総括をしていこうと思う。
※本記事内でのパッケージ画像はすべて、デュエル・マスターズ公式サイト内・商品情報ページより引用いたしました。
競技環境だけでなく、カジュアルプレイや入門者、世界観での視点も考慮するので、ベテランプレイヤーのみなさまは「そういう見方もあるのか~」と長い目で見ていただければ幸いだ。
公式の仕事を受けてない身だからな!こういうぶっ込んだ話も書かせてもらうぜ!
それではさっそく、時系列に沿って辿っていこう。
王来篇1弾『王星伝説超動』
まずは王来篇1弾『王星伝説超動』。
レクスターズとディスペクターを中心とした王来篇の幕開けであり、20thレアなどの新たな施策も行われた。
良かった点
①下準備から切り札につなぐデュエマが楽しめた!
進化元を用意して、切り札の進化クリーチャーへと進化するレクスターズ。
小型のディスタスでコストを軽減し、強大なクリーチャーを召喚するディスペクター。
王来篇の基本ギミックは、敵味方どちらの勢力も「準備をして切り札を出す」という、デュエマの――ひいてはカードゲームの根幹ともいえる楽しみを思い出させてくれた。
新しく始める人がデッキを組む導線にもなっており、良いコンセプトのデザインだったと言えるだろう。
②キングマスターがしっかり強かった!
《王来英雄 モモキングRX》《ボルシャック・モモキングNEX》《聖魔連結王 ドルファディロム》、3種類のキングマスターはすべて環境デッキでの活躍を見せた。
十王篇のキングマスター、それ以前のマスターレアにも強力なものはあったけれど、「すべてが環境入り」というのは前代未聞だ。
目玉カードが強いことはやっぱり大事だし、封入率の高いキングマスターなので極端な高騰を招きづらいのも嬉しいところだ。
③通常商品が売れることが示された!
社会情勢による部分も大きかったとはいえ、十王篇の売上は不調だった。
シングルが高騰しようが、高額商品が売れようが、商品の根幹であるパックが売れないのは望ましくない。
そんな中で、この『王星伝説超動』がしっかり売れたことは喜ばしかったといえる。
上述の①②のようなポイントに加え、20thレアやシリアル入り《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン》が当たる施策も後押しとなったのだろう。
「今回めっちゃ売れてるぞ!?」と店頭で感じた方も多かったのではないだろうか。
問題点
①前シリーズとの互換性に乏しかった
シンカパワー+スター進化、ササゲール+ディスペクター……という2つの新ギミックがセットを埋めていることもあり、十王篇のキーワードとシナジーするカードは非常に少ない。
こと暴拳王国なんかは、「アバレチェーンのデッキ」の形がイマイチ見えないままサポートが切られた形となってしまった。
前年のギミックでデッキを組んでいたプレイヤーには、やや残念な内容だったんじゃないかなあ……とは感じてしまう。
②オーバーパワーなスーパーレア
王来篇では、上位レアのカードパワーの水準が引き上げられたように見受けられる。
顕著なのは、環境でも存在感を見せた《ザーディクリカ》《「正義星帝」<鬼羅.Star>》といった強力なスーパーレア。
もちろん、スーパーレアが強いこと自体が一概に問題というわけではない。
ただ、スター進化もディスペクターも、低レアリティと上位レアのスペック差が開きすぎていた感はある。
後述する品薄の影響から上位レアが集めづらかったこともあり、「デュエマは高い」という印象を強めてしまったのは大きなマイナスだった。
③品薄期間が長かった
カードデザインの問題ではないので、ここで挙げるのもちょっとずるいのだけれど。
20thレアの高騰やシリアル《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン》の影響もあり、本セットはよく売れて……店頭から消えてしまった。
②でも述べたように、そもそもパックがないからカードが流通せず、実用的なスーパーレアはますます高騰するという悪循環に陥った。
それでなくともせっかくの新シリーズなのに、パックを買えないというのは致命的だ。メーカー的にもショップ的にも、手痛いチャンスロスだったと言える。
……前年の状況から生産数も入荷数も絞ってたんだろうから、仕方ない面もあるんだけどねえ……
王来篇2弾『禁時王の凶来』
通常セットの2弾は『禁時王の凶来』。
だいたいシリーズ2弾は手堅い構成になる傾向があり、今回もそのジンクスに従っている印象だ。
良かった点
①ロックの適正なカードパワーを見つけた
《アルカディアス・モモキング》《禁時混成王 ドキンダンテXXII》はいずれも強固な盤面を形成できるフィニッシャーだ。
ただ、どちらも「出された側がまるっきり何もできない」というカードではない。
これは筆者個人の見解なのだけれど、強い・弱い以上に、「負けないけど勝てない」状況を生み出すカードはあんまり望ましくないのかなあ・と考えている。
読者のみなさまのような慣れたプレイヤーはまだしも、投了のタイミングが分からないビギナーにとって「負けていないけれど行動できない」状況は楽しくない経験になるから……というのが理由だ。
その点で今回の2枚は、「がっちり盤面を固めるが、完全にはゲームを終わらせない(少なくとも、何かしら行動の余地が残る)」という、良い調整だと感じられる。
②低いレアリティにも良カードが多かった
《アルカディアス・モモキング》《我我我ガイアール・ブランド》という環境を牽引するキングマスターはもちろんのこと、このセットは光らないカードも優秀だった。
《赤き稲妻 テスタ・ロッサ》や《ブンブン・チュリス》のように、一線級のデッキで活躍する面々は言わずもがな。
《Re:チャージャー》サイクルやアタック・チャンス呪文、死亡誘発持ちのササゲールのように、デッキの戦略を深めるカードが登場し、構築の楽しみが広がった。
少し個人的なことを言うと、格安デュエマ研究所の企画を始めるきっかけとなった《飢動混成 ガリィングマール》は、個人的にも思い入れの深い存在だ。
いやほんとに、このセットが無かったら格安デュエマ研究所存在してないからね!
問題点
①レクスターズの変化に乏しかった
上位レアこそ充実していたものの、下位レアリティのレクスターズは前回に引き続き、ちょっと淡白だった印象。
前述のように、ディスペクター側はアタック・チャンスや呪文のディスタスといった新たな要素が登場していたからこそ、余計に勿体ないところだ。
②光ジョーカーズはもっと掘り下げられたのでは
①にも関連するのだけれど、新要素である光ジョーカーズはちょっと物足りなかったのではないか。
王来篇すべてを見渡しても、光単色のジョーカーズは本セットの《ハッピーたん》《いさマーシー》《よろこVIP》の3種類のみ。
3種類とも、これまで環境を引っ掻き回すカードを輩出してきたジョーのカードとは思えない無味無臭なスペック。ジョーの感情から生まれたという設定を踏まえると、切札ジョーは情緒に問題があるのではないかと心配になってしまう。ジョー緒不安定。
次弾では《うしおこまる》が登場してるわけなので、《アルカディアス・モモキング》のタネに相応しい火・光の多色クリーチャーくらいあっても良かったんじゃないかなあ……?
王来篇3弾『禁断龍VS禁断竜』
シリーズ3弾で新要素を大きく打ち出す傾向があるジョー編だけれども、変化はやや小さめ。
目新しい点だと、闇のジョーカーズが登場した点がトピックだろうか。
良かった点
①侵略の再登場
レクスターズ側に配られたキーワードが、まさかの侵略。
当たり前なのだけれど、進化というギミックは「進化クリーチャーのコストを支払う」という部分でテンポを失っている。
そのあたりをクリアする手段の一つが《王来英雄 モモキングRX》だったわけなのだけれど、シリーズ後半を迎え、違ったアプローチが実装されたのは面白いところだ。
新ギミックではなく、「過去の英雄の力を纏う」というフレーバーと合わせて、往年の名キーワードを復活させた点も良いセンスといえる。
②《Re:奪取》《GS》サイクルによるアップデート
低レアリティに汎用カードが収録されたことも見逃せない。
これまでも実績のあった初動カードたちが、G・ストライクを得て受け札としての機能も持つようになった。
……見たまんま言っただけなのだけれど、構成上受け札を搭載できなかったデッキがシールドを頼れるようになったのは大きな変化。
それこそ赤単における《斬斬人形コダマンマGS》なんかは分かりやすいところじゃないかな。
問題点
① 《モモキングダム》の使われ方
案の定というかなんというか、《禁断英雄 モモキングダムX》がバグめいた挙動を見せた。
一応解説しておくと、《禁断英雄 モモキングダムX》は山札に適正な進化元が存在しなくても着地できる。
そこに進化元を仕込んで、一番上の《モモキングダム》を破壊すれば好きなクリーチャーが残せる……という使い方だ。
「ルールの穴をついた裏技」と言えば面白そうだけれど、ちょっと理不尽が過ぎるかなーというのが正直なところだ。
タマシードが登場して以降、本来の使い方も見られるようになったのは救いかな……
②設定・世界観
ここまで述べたように、本セットはレクスターズに禁断や侵略が与えられ、ジョーカーズは闇の力を得た。
本来は悪役の能力である「禁断」「侵略」や、これまで存在しなかった闇のジョーカーズ。もっと「危険と隣り合わせ」的なデザインが与えられるのかな?と想像していたのだけれど、蓋を開けてみると特にそんなことはなかった。
些細なことではあるけれど、こうした「ゲームプレイの没入感」は、楽しいプレイ体験に繋がるのでこだわってデザインしてほしかったところだ。
プレイ感に限らず、王来篇は全体的にフレーバーの掘り下げが弱いなあという印象が強い。
ディスペクターやディスタスにされてしまったクリーチャーたちの自我はどうなってしまったのか?《魂の絆》の面々はどんなコンビなのか?などなど。
せっかく歴代キャラクターが集っているのに、惜しい限りだ。(このあたりについては『終末王来大戦』の項でもう少し述べたい)
王来篇4弾『終末王龍大戦』
王来篇のトリを飾る『終末王龍大戦』。
良かった点・悪かった点は以下で述べるとして、発売日にコンビニプロモを巡ってバタバタしたのは苦い思い出だね……
良かった点
①3枚リンク&5色カードをうまく実装した
ラスボスである《Volzeos-Balamord》は、ゴッドリンクや覚醒リンクとは違った形での3枚連結カードを見事に成し遂げた。
と同時に、「マナにおいても0マナなので事故要因」という問題を抱えていた5色カードを、「単体では3色カード」という力技で解決している。
合体カードも5色カードも、特別感はあれど実際のゲームだと使いづらい……という印象だったのを覆す見事なデザインであり、事実『終末王龍大戦』発売後は5c《Volzeos-Balamord》の入賞報告が複数聞かれたほどだった。
また、すっかりお馴染みとなっているものの「合体カードは1つのパックからまとめて出る」という仕様も有り難いところだ。
②最終決戦にふさわしいキャラクター達
《Volzeos-Balamord》こそ新キャラクターだったものの、最終決戦に臨む他のキャラクターたちは歴代の華々しい面々が揃っている。
モモキングは《無双竜機ボルバルザーク》の力を纏い、ダイナボルトはまさかの《ドギラゴン》、ディスペクターも歴代の主役やラスボスが融合した姿で登場した。
光らないカードにゴッドやフェニックスが登場しているあたりも、総力戦っぽさが感じられないだろうか?
問題点
①通年ギミックの拡張が物足りなかった
王来篇を通してのメインギミックだったシンカパワーやササゲールは、最後に新たな形を見せてくれる……と期待したのだが、特にそんなことはなかった。
一応、新たな要素として「選ばれたとき・殴られたときにも効果を発揮するシンカパワーサイクル」「ササゲール3を持つディスタスサイクル」が登場はしているものの……
まぁ、目新しいというほどではないし、これでデッキが新しくなる類のカードでもないよね……
特にディスタス&ディスペクターは、翌年から姿を消す種族。
最後にもうちょっとお土産をくれても良かったのではないだろうか。
②物語の結末
『禁断龍VS禁断竜』の項でも述べたように、王来篇はサブキャラクターの設定が語られていないのが勿体ないところ。
そのかわり、メインストーリーはフレーバーテキストで詳しく語られている……のだけれど。
肝心のディスペクターやディスタスの出自もあやふやなのだ。そんなバカな!
一応《龍魂珠》がディスペクターを生み出した黒幕であるとは述べられているものの、じゃあ《龍魂珠》が何者で、このあとどうなったの?という点は謎。
しかも詳細を述べている《寅年の演上者 プージョ》はややネタ交じりのフレーバーなので、どこまでがガチな設定なのか判断に困るんだよね……
これ、十王篇以降で世界観が変更されて、ジョー達が背景世界に登場しなくなったことが原因なんじゃないかなーと考えている。
漫画やアニメでディスペクターを作り出していたジェンドルは、背景世界には存在しない。
そのため「ディスペクターは誰が何のためにどうやって生み出したの?」という設定の根幹がブレてしまったんじゃないかなあ。
ゲームに関わる部分ではないとはいえ、黒幕の存在だけ示して、その出自も末路も曖昧……というのは、あんまり気持ちの良い幕引きじゃないなぁ、というのが個人的な感想だ。
王来篇総括
より詳しい総括は後編で取り扱うとして、まずはここまで見てきた王来篇をざっとまとめてみよう。
全体として良かった点
王来篇全体の良かった点は、まず何より「売上が回復した」ことだろう。
身も蓋もない話だけれど、デュエマの次の20年に向けて、ひとまず先に繋がったのではないだろうか。
もう少しカードデザインめいた話に踏み込むなら、以下の点を挙げたい。
デュエマの根幹たる楽しさを磨き上げた
「花形クリーチャーに繋ぐデュエマ」という、ある意味での原点回帰を成し遂げたのは『王星伝説超動』で述べた通り。
また、G・ストライクやEXライフの登場も大きなトピックだ。
これにより、デュエマの大きな魅力である「シールドを巡るやり取り」に新しいアプローチが与えられた。
特にG・ストライクの登場は、トリガーケアという概念から離れた新たなシールドの形として、非常に優れたデザインだと感じている。
全体としての問題点
高騰やストーリーといった点も気になるのだけれど、ギミック面に絞るのならば問題点は大きく2つ。
①進化サポートが中途半端だった
《王来英雄 モモキングRX》は強かった。《「正義星帝」》は良い進化元だった。
……その一方で、コモン・アンコモンの進化元クリーチャーとして何がいたか覚えているだろうか。
各弾でもちょこちょこ述べたけれど、とにかく下位レアリティのレクスターズがこと進化元としては力不足なのだ。
そもそもシンカパワーは、進化できなければバニラと同じ。
「進化クリーチャーを引いてくる」とか「進化クリーチャーのコストを下げる」みたいな効果を併せ持つカードを、低レアリティにも配ってほしかったところだ。
②レクスターズとディスペクターに接点がなさ過ぎた
シンカパワー+スター進化、ササゲール+大型ディスペクター。
メインとなる2つのギミックが、それぞれ「入力+出力」のような関係となっているせいで、これら2つのギミックを混ぜて遊びにくい……というのは勿体ないところだ。
これが十王篇だと、たとえば月光王国のオシオキムーンは鬼タイムともギャラクシールドとも噛み合う……というように、他の勢力と組み合わせを意識してデザインされていた。
敵味方ともにレクスターズとなる王来MAXではこの点が改善されているので、後編でもう少し詳しく触れていきたい。
……あと問題点というわけじゃないけど、コロコロレアはもう少しうまいやり方があったんじゃないかなぁ……という点は書き添えておこう。
おわりに
というわけで『勝手にデザイン演説』前編をお送りした。
個人的にカードデザインの話が好きゆえにやってみた記事なので、本っ当ーに読者のみなさまの反応が気になっている。
ご意見ご感想、もっとやれ・もうええわ等々、いつも以上にお声をお寄せいただけると嬉しい。
好評なら特殊セットや過去のシリーズもやりたいね……
ひとまずはまた次回、後半戦たる王来MAX編をお楽しみに!