???「ようやくだ……ようやくアイツを……。」
序章
突然だが、ここは最近寒すぎて他にシチュエーションが思い付かなかったといういわく付きの山奥の山荘だ。「ガチまとめ」というらしい。どんな名前だ。
こんなところに泊まるくらいなら吹雪の中を無理してスキーするんじゃなかったな。せっかくの休暇が台無しだ。
Kムカイ「やぁどうも、この度は災難でしたね。」
……彼はこの山荘の管理をしているらしい。名前は「Kムカイ」だったか。凍傷になりそうだったが、到着したときに献身的に介護してもらった。お陰ですっかり温まった。今では変化球も投げられる。
「山の天候というのは怖いものですね。いやしかし今晩泊めてくださりありがとうございます。」
Kムカイ「いいのですよ。そのための山荘なんですから。それに今日はちょうど団体さんも入っていて一人二人増えたところで変わりませんから。」
どうやら今日は「カーナベル大学遊戯王部」というサークルが入っているらしかった。団体といっても4人のようだった。それほど多くないのでやっぱり御園さんの好意からの申し出なのだろう。
Kムカイ「朝には吹雪も落ち着くようですよ。食事もお風呂も用意していますのでごゆっくりお過ごしください。」
他に選択肢もない。Kムカイさんにもう一度感謝を述べ今夜はゆっくりさせてもらおう。とはいえ申し訳ないので大学サークルの人達には挨拶だけして食事の場所は別々にさせてもらう事にしようか。
~
例のサークルの代表、「御園」さんと話をさせてもらった。何故かヒーローの仮面を被っているがあまりに自然なので聞くに聞けなかった。どうやらこのサークルは遊戯王についての記事をサイトにアップしているらしく、勉強合宿していると聞いた。なるほど、面白そうなメンバーだった。
ガツガツ展開ルートを研究し続けてたのが「波見」さん。
【プランキッズ】を愛でていたのが「日向吾」さん。
中身のない話をべらべら喋るのが好きらしい「屋根陸」とかいうヤツ。
この4人が参加していた。
あまり長く世間話しているのも悪いので、今は挨拶だけ済ませ用意してもらった部屋に戻った所だ。
それにしても気のいい人ばかりで本当に助かった。食事と風呂もさっさと済ませたものだし早く眠ろう。
私は今日のこの長く暗い夜がまだ続くとは思いもしなかった……。
「うっ……うわぁァァ!!」
その悲鳴で目を覚ました。一体なんだ!?時計を見る午前1時まだ深夜だ。しかし今の悲鳴は尋常ではない!とにかく声のもとへ向かうべきだろう、スリッパも履かずに声のする方、ホールへ駆け出した!
「どうかしましたか!?なにかあったんで………ッッ!?」
人が倒れている!Kムカイさんが揺すって声を掛けていた。
Kムカイ「屋根陸さん!聞こえますか!」
反応は無い。
床に突っ伏して動かない屋根陸。
辺りに散乱したカード。
0を表示しているデュエルディスク。
これは誰が見たって明らかだ。
「……死んでる。」
彼は、デュエルで死んでいた。
事件発覚
その死に様はあまりにむごたらしく、どれほどデュエルで圧倒的に惨敗すればここまで死ねるのかというほどだった。
Kムカイ「屋根陸さん!屋根陸さん!」
Kムカイさんはいまだ叫び続けている。死んでいるのはもう分かっているのかもしれないが受け入れられないのだろう。
ここは刑事として私が動かねばなるまい。
「Kムカイさん、落ち着いてください、彼はもう……。とにかく離れて、通報してください。それと、みなさんを別の部屋に集めてもらえますか?ここは私がなんとかしますから。」
Kムカイ「あぁ……刑事さん……そうですね、お願いします……。ではダイニングにみなさんを集めておきます。……どうしてこんなことに。」
かなり動揺しているがパニックにならずにすんだ。
さぁ、彼を弔わなくては。必ず犯人を見つけ出すんだ。捜査開始だ。
~
御園「どうしたんですか?Kムカイさん。さっきの悲鳴は?」
波見「それに屋根陸くんの姿がありませんが……。」
Kムカイ「遊戯王サークルのみなさん。落ち着いて聞いてください。……屋根陸さんが死んでいたんです。状況から決闘死だと思います。」
御園「………」
波見「………」
日向吾「………」
Kムカイ「み、みなさん揃ってどうしたんですか?」
御園「いや…、反応しにくくて。」
波見「関係があまりに薄くてつい……。」
日向吾「かわいそう。」
……
…………
………………バンッ!
「みなさん!捜査が終わりました!」
Kムカイ「あぁ!刑事さん!助かりました!」
一体なんのはなしだ?まぁいい。
「とりあえず屋根陸さんの死亡時のデッキ、手札、墓地、場のカードを確認してきました。手がかりになるでしょう。」
御園さんが聞きたいことがあるようで(多分)口を開いた。
御園「刑事さん。この状況で決闘死っていうことは、もしかして……。」
そうだ。混乱は避けたいが言うしか無いだろう。
「はい……。この吹雪の中です。この山荘には他の人は入れません。犯人は、この中に居ます!」
言ってやったぞ!私はこれが言いたくて刑事になったのかもしれない!やった!……いや待て!顔に出すな!
ん?3人が顔を見合わせている?
3人が何らかのアイコンタクトをして、代表として日向吾さんが口を開く。
日向吾「だれも殺しなんてしないよね。全く関わりも無いのに。」
え?
~
参った。誰も動機は無いようだ。そしてアリバイも全員揃って、無い。
「こうなったらみなさんのデッキと擦り合わせて、デュエルで殺せる可能性のあった人から犯人を絞りこみましょう。みなさん専門家のようですし全員で推理しましょうか。」
まず屋根陸さんのデュエルディスクにあったデッキを見せた。
Kムカイ「何ですかコレ!?」
【ワンターンズシン】。
その名は聞いたことがあったが……。まさかこんなデッキを人前に出す人間が居たなんて……。
波見「ちょっ…ちょっと待ってくださいよ!!こんなデッキなら、誰だろうが殺せるんじゃ!?」
波見さんが大声で正論を吐いた。他の人も同じ気持ちのようだ。というか私だって同じ気持ちだ。だが……、
「それが……、ディスクのモンスターゾーンにこのカードがあったんです。」
眠れる巨人ズシン。
信じがたい事だが、
「墓地のトップに置かれた右足…。その下に積もった大量の魔法…。状況から先攻1ターン目に召喚に成功していたとしか思えないのです。」
御園「なんという確率……。ならば召喚したズシンに勝てるデッキを持ってる人が犯人ということになりますね。」
「そのとおりです御園さん。ズシンを倒せるカードはそうそう無いはずです。どうかみなさん、デッキを見せてください!」
「「「「……ッ!!?」」」」
「「「「わ、分かりました!ここでちょっと待っててくださいね!」」」」
なんだ?全員が大慌てでここから出ていったぞ。尋常ではない慌てようだ。
~
少しして全員戻ってきた。しかし揃って目が泳いでる(一人分からない)のが気になるが……。
「大丈夫ですか、みなさん?まぁいいか。ではまず御園さんのデッキを見せてください。」
御園「分かりました。私のデッキは、【ジャンク】ですね……。」
………ん?なにか違和感を感じる?
御園「作りたてでして!未完成なんです!エクストラもホラ!まだ足りてないでしょう!?」
慌てて入れ替えたのか、明らかにおかしいカードがあるな。それにこのエクストラ。
あのカードならズシンを仕留めるのは容易だな。
「……分かりました。次に波見さん。お願いします。」
波見「はい。私のデッキは【クロノダイバー】ですね。」
波見「クロノダイバーをベースにメタルフォーゼを混ぜて、回していこうと思ってます。まだ調整中ですけどね。」
なるほど。サイキック族ベースは変ではあるがズシンを倒せるギミックでは無いか。
……しかしエクストラに証拠があるな。
「……なるほど。それじゃあ日向吾さんも。」
日向吾「そうですね。私のデッキは【ダストン】です。私もまだエクストラは組んでいないんですけど。」
日向吾「ご覧の通りですよ。まだまとまったデッキでもなくズシンに勝つなんてとても……。」
確かになんとかやりたいことは見えるがまとまってはいないな。コレでは……。
いや、簡単にズシンに勝つ手段はある。そしてズシンの弱点を利用すれば手札に引き込む事も。
「では最後にKムカイさんもよろいでしょうか。」
Kムカイ「は、はい。その、コレです。」
Kムカイ「キャラデッキが好きでして。レアリティも良さげにしてあるのが自慢です。」
なるほど、このデッキは漫画のキャラのものだったな。
しかし……、明らかに足りないものがある。気づかないはずがない。
そして──
──やがて朝が来る。
吹雪の後の、一点の曇りもない澄んだ朝が。
ようやく警察も到着でき、そして犯人は(デュエルで)拘束された。
後に聞いた話によれば、殺害動機は「被害者のクソリプに耐えかねてやった」らしい。
妥当だ。
(エンディングテーマが流れ出す)
こうして全員が被害者を殺しうる可能性を持った、恐ろしい恐怖の夜は明けた。
亡くなった彼のためにも私はデュエル殺人を許してはならない。そして、闇のゲームをもたらす改造デュエルディスク「DARK DISK」をばらまく謎の組織「グルーズ」をかならずや壊滅させてみせる。
あの歴史に葬られた伝説の大会「DDDT(ダーク・ドキドキ・デュエル・トーナメント)」で散っていった我が息子の為にも……!
──デュエル刑事(デカ)の物語はこれから始まる──
が、多分書かない。