【執筆ライター】イヌ科
目次
GP9thで優勝してしまった。
その翌日、僕はまたGP9thの会場であったツインメッセ静岡へと足を運んでいる。
会場内で知り合いや初対面の方に「おめでとう」と言葉をかけられた。
そりゃそうだろう。昨日の主役を見かけた人間なら、誰だってまず投げかけるのは賞賛の言葉だ。僕だってそうする。
図らずも昨日の主役という称号を得た状態で、この日行われるイベントの開会式が始まる………
………無性に居心地が悪い。
理由は明白。昨日の主役であるため無駄に注目を集めている僕は、今日は脇役として呼ばれているからだ。
この日はデュエル・マスターズ初のプロリーグ。その名の通り、今日の主役は華麗なる対戦を見せるプロプレイヤーたちだ。
僕はその熱戦を後世に残すべくカバレージライターとしてこの場に立っている。つまりは脇役だ。
僕が感じた違和感は本当だったらしい。カードラッシュプロかつ僕の師であるdottoによる証言がこちら。
「なんかイヌ科くんが入ったとき会場ざわついてたよ」
いや、ちゃうやん。dotto様を見て叫べよ。
開会式でライターとして僕の名前が読み上げられると「おめでとー!」と声が上がった。
声の方向を見るとWizards of the Coast社の真木さんやデッドマンさんがいた。いや、確かにおめでたいけどそうじゃないやん。
ああ、余計に視線が痛い。
今日の僕は対戦している横でなんかパソコンを叩いてる変な人であるべきなのに………
が、この被害妄想は杞憂に終わる。
僕が第2回戦で担当した4人のプロプレイヤー。
彼らにはプロであること以上に……人の目を惹きつける華があったからだ。
さあ、対戦席に座るのはおんそくとじゃきー。
2人とも公式大会で結果を残した点では同じだろう。おんそくはGP8thの2ブロックにて優勝、じゃきーは2016年度全国大会を制覇し、GP8thの殿堂構築でもベスト8に入賞している。
SNSでのキャラクター通り、コロコロと表情を変えつつ雑談を振りながら対戦準備を進めるおんそく。見ているこちらも楽しくなってくる。
対するじゃきーは常に笑顔を絶やさずにそれに対応する。眉目秀麗な容姿も相まって、爽やかな印象を受ける。
デュエルをしていなくても絵になるこの2人。まさしくプロとして、企業、ゲームの広告塔としてはお誂え向きだろう。
そしてもちろん彼らはデュエル・マスターズのプロプレイヤー。
横で見守るすめらぎとユウキングの眼差しを受けながら……
彼らが、プロたる所以を見せる時間がやってきた。
【第1試合】 じゃきー (緑t青ジョラゴンジョーカーズ) VS おんそく(赤単 B-我ライザ )
先攻:おんそく
最初の対戦席に座ったのは…【赤単B-我ライザ】を操るおんそく。
対するは新興戦力、【緑t青ジョラゴンジョーカーズ】を操るじゃきーだ。
さあ、おんそくはじゃんけんに勝利し意気揚々と…は、しない。
少しため息をつきつつ《龍星装者 “B-我”ライザ》をチャージし…2ターン目も《“罰怒“ブランド》をチャージして終えてしまう。 プロリーグ故にデッキは公開制。おんそくの使用デッキは【赤単B-我ライザ 】だ。
ユーリが持ち込んだ【赤単速攻】と比較されることもままあるこのデッキ。 その大きな違いはやはり《龍星装者 “B-我”ライザ》による破壊力。《爆熱天守 バトライ閣》を搭載していたころの【赤緑モルトNEXT】を彷彿とさせる盤面展開は、容易に食い止められるものではない。
そして何より、《龍星装者 “B-我”ライザ》からのビートジョッキー連打……見ていてここまで爽快感のあるデッキはなかなか存在しない。 プロリーグに臨むにあたって、魅せる勝ち方を何より重視したであろうおんそく。彼にとってこれ以上ピッタリなデッキはないだろう。
対するじゃきーの使用デッキは 【緑t青ジョラゴンジョーカーズ】 。おそらくは彼が所属する調整チーム、「Yamada Pros」謹製のものであろう。 新たに《ジョリー・ザ・ジョルネード》を相棒に加えた《ジョット・ガン・ジョラゴン》の最新型だ。
《ゴッド・ガヨンダム》による《ジョット・ガン・ジョラゴン》のチェイン、《マシンガン・トーク》による連続攻撃を可能にしたこのカードの登場は非常に大きく、《ガヨウ神》殿堂の傷跡を感じさせないほどの出力を発揮する。 《アイアン・マンハッタン》の通りがいいのも環境的には追い風だろう。
さあ、じゃきーにとっては初動となる後手2ターン目。 《ヤッタレマン》や《タイク・タイソンズ》による初動を行う…
いや、それを敢えてしなかった。このターンのじゃきーのプレイはとても興味深いもの。 《ヤッタレマン》をチャージして《ジョジョジョ・ジョーカーズ》→《ソーナンデス》回収。 おそらくはおんそくのデッキに搭載されている《DROROOON・バックラスター》を警戒した動きだろう。リスト公開制ならではの駆け引きがなされている。
さあ、おんそくの3ターン目。最速キルには《一番隊 チュチュリス》が必要なため、ここは我慢のターン。 とはいえついに初動となるクリーチャーを引き込むことに成功。《こたつむり》を出してターンエンド。 対するじゃきーは《ヤッタレマン》をチャージするほどの余裕がある…ということは、《メイプル超もみ人》を出してエンド。マナブーストには成功する。
これがじゃきーの最後のターンになるとは、誰が予想しただろうか。
急転直下の4ターン目、すでにその手には3枚の爆弾。
射出準備を整えたおんそく、一気にゲームを終わらせにかかる。
4マナ目をチャージしたおんそくは、まず《ダチッコ・チュリス》。「何かをしでかす」という宣言であるこのカードのプレイ、一気にバトルゾーンに緊張が走る。
3軽減され出されたカードは…《HAJIKERO・バクチック》!!
効果で呼び出されたのは《グッドルッキン・ブラボー》。 これだけには終わらない。ここまでため込んだおんそくの手札には"ヤツ"が控えていた…… そう、マスターB・A・Dにより1マナとなった《“罰怒“ブランド》!!
全体SA効果により、《HAJIKERO・バクチック》がさらに火を噴く。攻撃時の効果まで発動し、出てきたのはなんと《ドドド・ドーピードープ》! 先のターンに出ていた《こたつむり》と合わせて、もはや致死打点には十分すぎる。《“罰怒“ブランド》、《ドドド・ドーピードープ》がシールドに突撃!!
じゃきーの青緑ジョーカーズには8枚のトリガーが採用されていたが、どうにもこの打点は受け止めきれない。 ラスト2枚に《バイナラドア》があるのみで、おんそくがその名の通り4ターンで走り切った。
WINNER:おんそく
じゃきー×ユウキング コンビ、試合が終わるや否やすぐにプレイの検討を行う。 《ガヨウ神》を持つか否か、《ヤッタレマン》を出さないプレイは正解だったか…… プロチームである所以を試合の外でも見せる。
ユウキング「まあ結局《バイナラドア》踏むところが悪かったね」 じゃきー「確かに」 ……辿り着いた結論は存外あっさりしていたが。
方やCardRushPros。
おんそくからバトンを受け継いだすめらぎが登場する。
YouTuberという言葉ができる以前より対戦動画を積極的に投稿していた男…
それがすめらぎ。いわゆるDMYouTuberの中でも先駆者にあたる存在である。
その発信力、そしてコンボデッキを非常に好む本人の性格。
「自分らしいデッキ」での勝ち方を信条に掲げてプロリーグに臨む以上、おんそくとの相性はバッチリだろう。
さて、おんそくは幸先よく勝利を勝ち取った。
自らの大得意分野である環境を代表するコンボデッキ、【緑単ネイチャーミッツァイル】を操るすめらぎは続くことができるか。
【第2試合】 じゃきー(緑t青ジョラゴンジョーカーズ) VS すめらぎ(緑単ネイチャーミッツァイル)
先攻:じゃきー
負け先ルールによりじゃきーが先攻となる。
「バイナラバイナラジョラゴンジョラゴン……」と大事故を祈るすめらぎの祈りは当然届かず。
それどころかじゃきーにとっては絶好のスタート。 2ターン目に《メイプル超もみ人》をセットしながらの《タイク・タイソンズ》。 対するすめらぎは…痛恨の2ターン目までチャージエンド。
となればじゃきーを咎めるものは何もない。 《ジョジョジョ・ジョーカーズ》から《ジョリー・ザ・ジョルネード》を加え、《タイク・タイソンズ》を《メイプル超もみ人》にチェンジし2ブーストに成功。 緑ジョーカーズ時代から続く最強の初動を先攻で決める。
すめらぎは3ターン目、ついにブーストを引き込み、《霞み妖精ジャスミン》。いったん《生命と大地と轟破の決断》発動圏内の5マナに到達する。
が、本来なら2→4のタイミングで《バングリッドX7》を投げ、相手の盤面を少しでも減らしたかったターン。 そして、それができなかったことはあまりに致命的で…
《メイプル超もみ人》を戻し、6マナ全てを捻る。《ジョット・ガン・ジョラゴン》!!
ここまで1枚しか減っていない手札、込められた弾丸は潤沢。 《ジョット・ガン・ジョラゴン》攻撃時に《キング・ザ・スロットン7》を捨て、その効果を発動。 その効果で場に放たれたのは…《ソーナンデス》!!
《ソーナンデス》が《ジョット・ガン・ジョラゴン》にチェンジし、手札の《ジョリー・ザ・ジョルネード》を捨てる!
「頼む~」と祈りを捧げるすめらぎだが、6回のGR召喚相手にその祈りが届くはずもない。《マシンガン・トーク》《The ジョラゴン・ガンマスター》《ゴッド・ガヨンダム》といった過剰打点を作るGRクリーチャーが大量発生!!!
となると、トリガーがないすめらぎの《生命と大地と轟破の決断》ループでそれを受けきるのはできるはずもなかった。
WINNER:じゃきー
さあ、星は五分に戻った。
そしてじゃきーは"最強"の相方にバトンを渡し……
「やりたくないよぉ…相手不利対面だもん……」
悪態を吐きながら、「王」がその席に着いた。
おおよそ5年前からのことだ。
当時最先端を走るdotto、pride1stとともに、競技デュエマの一時代を築いた中学生の少年がいた。
年齢不相応の大胆不敵かつ緻密なプレイングを以て、 DM:Akashic Recordにおける非公式ランキングにて若くして生涯1位。
当時の最強プレイヤー候補を何人か挙げろ、と言われればすぐ出てくるほどの足跡を残した。少年の歩みはこれほどまでに力強かったのだ。
そして5年後。
当時の少年は、今や20歳を超えた。あどけなさが残る顔に年齢相応の風格。
しばらく離れていた競技DMへの復帰。ほどなくして、TEAMNextProからのプロプレイヤー第1号となる。
その実力は圧倒的だった。5年前から得意としていた【青黒ハンデス】、さらにハンデスコントロールに寄せ切った【デッドダムド】といった新デッキも作り、CSでは連戦連勝。
当時肩を並べたdottoと共に、今もDMPランキングのトップを突っ走る。
その名は…ユウキング。
かつて王と呼ばれた少年は、再び王を目指して最終試合に臨む。
……だが、相手が悪すぎる。
席に着くなり「やりたくない」と言わせるほどに、すめらぎのデッキはユウキングの使うデッキを強烈に意識したものだったから。
【第3試合】ユウキング(シータミッツァイル) VS すめらぎ(緑単ネイチャーミッツァイル)
先攻:すめらぎ
運命のじゃんけんに勝利したすめらぎ、これだけで大きくガッツポーズを繰り返す。
それもそうだ、ユウキングの使用デッキは環境最強、しかしすめらぎにとっては"最高のお客様"。
キルターンの関係上後手でも有利マッチとなる【シータミッツァイル】だからだ。
それが先手となればなおのこと。すめらぎは《レッツ・ゴイチゴ》で初動を成功させる。
すめらぎにとっての幸運、そしてユウキングにとっての受難は続く。 ユウキングの2ターン目の行動は…《フェアリー・シャワー》チャージのみでのターンエンド!! 直前に《κβバライフ》から変えたカード。 マナドライブの関係上多色であることのメリットを享受できるデッキだが、ここで裏目に出てしまった。
それを見たすめらぎの3ターン目、ループ準備を一気に整えにかかる。 まずは《霞み妖精ジャスミン》でさらにブーストを重ね、《トレジャー・マップ》。これの回収は《侵革目 パラスラプト》!!
すでに《生命と大地と轟破の決断》と《バロン・ゴーヤマ》がマナに見えている…ということはコンボパーツが全て揃ったということ!
さらに余った2マナで《クリクリ・イガラーズ》、マナから《ラ・ズーネヨマ・パンツァー》を回収。誰の目から見ても準備は万端だ。
それを分かっているからこそ、ユウキングはもう渋い顔をして《霞み妖精ジャスミン》を出すことしかやることがない。 仮に2ターン目の初動に成功していたとしても結果は変わらなかっただろう。【シータミッツァイル】よりも早い速度で相手を殺すことこそが、すめらぎ操る【緑単ネイチャー】の真骨頂なのだから。
さあ、最後の総仕上げだ。 まずは《逆転のオーロラ》で5枚のシールドを全てマナに送り込む。 そして送られたシールドを全てタップし……
"彼らしい"、高速チェイン・コンボの幕開けだ。
《生命と大地と轟破の決断》から《バロン・ゴーヤマ》と《侵革目 パラスラプト》!!
とはいえ、実はここではプランが全て整っているわけではなかった。マナに2枚目の《生命と大地と轟破の決断》が存在しなかったのだ。 しかし、そこはこのデッキを練り続けたコンボの名手。今までの経験からプレイを熟考し…
まずは《バロン・ゴーヤマ》から《カラフル・ナスオ》をチャージ。悩みに悩んだ末に《霞み妖精ジャスミン》を墓地へ落とし… いざ決断、《カラフル・ナスオ》を出し…
その効果で、《生命と大地と轟破の決断》を2枚落とす!
すめらぎはここで「よし」と一声、墓地に落としたクリーチャーたちが《侵革目 パラスラプト》の効果でアンタップマナとして舞い戻る。
そこからは《生命と大地と轟破の決断》からの《バロン・ゴーヤマ》、《カラフル・ナスオ》、《侵革目 パラスラプト》の効果を連打連打連打、みるみるうちにデッキが減っていく。 気付けば《ノーダンディ・ネギオ》を絡ませてタップされた赤マナが墓地を経由してアンタップされ…
満を持して、"赤い悪魔がタップされる"。 《侵革目 パラスラプト》の革命2により、マナから《BAKUOOON・ミッツァイル》を召喚!
10回のGR召喚、その中にある2体の《マリゴルドⅢ》効果により《侵革目 パラスラプト》! まずはたった今破壊したクリーチャーを全てマナとして再展開する。
2回目の《マリゴルドⅢ》で《バロン・ゴーヤマ》、タップされている《BAKUOOON・ミッツァイル》を墓地へ送り《ノーダンディ・ネギオ》がアンタップ状態でマナに戻す。
これによって2体の《BAKUOOON・ミッツァイル》が回せる状態になった。 さあ、総仕上げ。すめらぎの代名詞、美しいループ証明が始まる。
まずはマナアンタップループ。 マナに《BAKUOOON・ミッツァイル》、《侵革目 パラスラプト》がある状態から。
1.《侵革目 パラスラプト》効果でマナから《BAKUOOON・ミッツァイル》。 その効果で《ノーダンディ・ネギオ》《侵革目 パラスラプト》《パキラキⅡ》《マリゴルドⅢ》2枚を破壊。GRゾーンに戻った3枚がGR召喚される。
2.《マリゴルドⅢ》効果で《侵革目 パラスラプト》。 マナゾーンに《侵革目 パラスラプト》《ノーダンディ・ネギオ》が戻る。
3.《マリゴルドⅢ》2回目で《ノーダンディ・ネギオ》。 墓地の《BAKUOOON・ミッツァイル》をマナに送り、タップされたマナをデッキトップに送る。
4.《パキラキⅡ》で手順3でデッキトップに送ったカードがマナゾーンに送られ、初期盤面に戻る。
これを繰り返すことで無限にマナがアンタップされる。 そしてそれを利用した《ツタンメカーネン》ループ。《ラ・ズーネヨマ・パンツァー/逆転のオーロラ》を手札に抱えた状態からスタートだ。
1.5マナをタップし、手札から《逆転のオーロラ》を撃つ。
2.《侵革目 パラスラプト》効果でマナから《BAKUOOON・ミッツァイル》。 その効果で《ノーダンディ・ネギオ》《侵革目 パラスラプト》《ツタンメカーネン》《マリゴルドⅢ》2枚を破壊。GRゾーンに戻った3枚がGR召喚される。
3.《マリゴルドⅢ》効果で《侵革目 パラスラプト》。 マナゾーンに《侵革目 パラスラプト》《ノーダンディ・ネギオ》《ラ・ズーネヨマ・パンツァー/逆転のオーロラ》が戻る。
4.《マリゴルドⅢ》2回目で《ノーダンディ・ネギオ》。 墓地の《BAKUOOON・ミッツァイル》をマナに送り、《逆転のオーロラ》をデッキトップに送る。
5.《ツタンメカーネン》で手順4でデッキトップに送ったカードを手札に戻す。
6.アンタップループを用い、手順1で支払ったマナを全てアンタップ。初期盤面に戻る。
これにて証明終了。すめらぎは自身の山札を減らすことなく《ツタンメカーネン》をループすることで、ユウキングがライブラリアウト。
自分らしい、"魅せる"勝ち方を持つコンビが見事勝利を掴んでみせた。
WINNER:すめらぎ
リーグA2回戦 勝利コンビ:おんそく×すめらぎ