目次
序
彼は今ある戦場に出ていた。
いや戦場に変わったと言っていいだろ。
「いよいよ始まるのか……」
高校生ぐらいの年齢だろうか。
彼は腕にある機械を嵌め準備を終えていた。
先ほどある社長の開始宣言がされてから目をぎらつかせ闘志を燃やしていた。
街をあるけばそこかしこに彼と同様に腕にそれを嵌めていた。
彼らは今回の主人公にとって敵でありライバルである。
また彼らも意気込みの差はあれど熱量が一般人のそれとは違っている。
「おい!そこのお前ッ!」
チンピラ風の男だ。
昔のカーラーギャングと言えばわかりやすいだろうか、そんな男だった。
周りの空気感に浸っている彼に話しかける、いや捲くし立てるかのように大声で叫んだ。
それでもこの周りの喧騒にとっては一部だ。
そう戦場であれば銃撃の音などそれは一部に過ぎない。
ここでのその大声もまた一部と化していた。
「俺と決闘(デュエル)しろ!」
「ああ、いいぜ」
彼ら2人もこの喧騒に飲まれていくのだ。
そう『遊戯王』の大会。
ある大金持ちの会社が主催とする街全域を巻き込んだ大舞台である。
そこは一種の戦場と化したのだ。
彼は元々この世界の人物の一人ではない。
元々いた世界で彼はとくに何もないやつだった。
有り体にいえば「普通」のやつだ。
高校生になるまでの人生でこれほど「普通」のやつもいないだろう。
身長・体重はもちろん学校での成績や交友関係、あるいは家族構成など。
どれをとっても統計からとった平均値にかなり近い人物になっていた。
彼がそれを自覚したのは小学生の頃からだろうか。
意識してそうなったわけではない。
少し逸脱したくとも結局は今の関係性が壊れるのが怖いため実行できないでいた。
しかし彼にも一つ特技があった。
『遊戯王』がとても強かったことだ。
もちろん世界チャンピオンになった、といった肩書などはないが日本代表の一歩手前になるくらいには強い存在ではいたのだ。
そんな折彼が「普通」を脱したいと思ったのは気まぐれだろうか。
彼はトラックに轢かれた。
彼は先ほども言ったように『今の関係性が壊れるのが怖かった』。
だがみすみす道路に突如飛び出してきた子供を見逃すこともできなかった。
「普通」を脱したいと思ったのはそれこそ偶然かもしれない。
それは幸か不幸か、いや間違いなく不幸ではあるが夢を叶った。
そして彼はそれだけでは終わらなかった。
いわゆる「異世界転生」だ。
神様が言った。
「トラックに轢かれて、神様が出てきて、チート能力をもらえる?おいおい、どこの異世界転生ラノベだっていうんだ」
元の世界で行った最後の善行が認められ、彼がもう一度人生を謳歌できることとそれに加えて一つ能力をもらえるとのこと。
そしてそう彼が呟くのも仕方ないかもしれない。
アニメや漫画を人並みにしか見ない彼ですら知っていたのだ。
もはやテンプレートとなった『異世界転生』なのだから。
少し考えるそぶりを見せるがそれも些細な間だ。
「チート能力?――いや俺にはそんなものは似合わないから普通でいいよ。『今まで通り』の遊戯王をさせてくれれば……な」
彼の願いは叶った。
そして彼は転生したのだった。
そう『遊戯王』が普及している世界に。
そして現在につながる――――
破
「「決闘(デュエル)!」」
勝負に挑んできたチンピラ風の男――ここではAとしよう。
所詮彼はモブでしかないのだ。
それを転生した彼の名――遊哉との決闘が今始まった。
「先攻は俺のターンだッ!!」
どこまでも大きい声だけが特徴的なやつだと遊哉は心の中で思った。
遊哉はどちらかといえばもくもくと進めるのが好きだ。
もちろんフェイズの移行やカードの確認などでは声を出すがそんな声を張り上げるようなことはしない。
ショップなどでそんなことをすればむしろ迷惑行為になるが、ここでは周りのやつらは遊戯王をしているかそれを見ている野次馬だらけで騒々しいのだからそれが適切にも遊哉は思えてきていた。
だから次のターンでは自分も少し大きな声を出そうと考えていた。
「俺は《マハー・ヴァイロ》を召喚!」
とそんな間にもモブAは進めていたようだ。
彼が召喚したのは装備魔法を装備することで攻撃力が上がる昔ながらの魔法使い族のモンスターだ。
この時代のそのモンスターは《青眼の白龍》をも倒せるほどの能力を秘めており、また安価で手に入るということで庶民の味方とされていた。
(こいつが召喚された……ということは次は間違いなく……)
「《デーモンの斧》を《マハー・ヴァイロ》に装備するぜェ。これによって俺の《マハー・ヴァイロ》の攻撃力は3050だ!」
やはりな、と遊哉は思った。
デッキタイプ【装備ビート】にとっては鉄板コンボだ。
これであの魔法使いは《青眼の白龍》をも超える存在となった。
モブAもそのことに自信があるのか、相手に向かって嫌らしい笑みを浮かべていた。
「さらに俺は2枚魔法・罠ゾーンにセットしてターンエンドだ!」
ここまでの彼の所要時間は5分もかかっていない。
この時代において1ターンでできることは限られている。
遊哉もわかっていた。
だからモブAが知らないことであったとしても、それが本来あり得ぬ結果になったとしても全力でやると!!
「私のターン!ドロー!」
モブAにつられてか自分でも驚くくらい大きな声が出てしまった。
しかし遊哉は止まらない。
「私はまず《苦渋の選択》を発動!効果で……《聖剣クラレント》《『焔聖剣-デュランダル』》《『焔聖剣-ジョワユーズ』》《強奪》《昇華騎士-エクスパラディン》を選択する。さあどれを選ぶ?」
「俺が見たことないカードばかりだと…!?ッ、仕方ねぇ《昇華騎士-エクスパラディン》ってカードだ」
彼がそれを選んだのは他の魔法カードが怖かったからだ。
この時代において魔法カードはとくに強力で《強奪》などされれば大ダメージを受けかねないと思ったからだ。
それを遊哉もわかっていたのだろう計画通りと大胆不敵に笑う。
「では、さらに手札から《大嵐》発動。これでお前のバック2枚と《デーモンの斧》を破壊だ」
ソリッドビジョンによって破壊され浮かび上がったのは《聖なるバリア -ミラーフォース-》とブラフとして伏せられていたであろう《地割れ》だ。
「――よし、これで準備は整った」
動く。
それがAにもわかった。
しかしこれが彼の最後になるとは思わなかった。
「《昇華騎士-エクスパラディン》を召喚して効果で《チューン・ナイト》を装備する」
「アアァ!?モンスターを装備だと!?インチキかエラーじゃねぇのか!?」
インチキやエラーなどでない。
それが正しい効果処理だと機械が答えを出していた。
「もちろんエラーなどでない。さらに《チューン・ナイト》効果でフィールドに特殊召喚、そして――」
遊哉が一呼吸を入れるといった。
「私は《昇華騎士-エクスパラディン》と《チューン・ナイト》をリンクマーカーにセット、サーキットコンバイン!リンク召喚!《聖騎士の追想 イゾルデ》!」
今度はAだけではなかった。
様々な人が観戦をしていたがその光輝く光景に誰しもが目を奪われ、振り向いた。
しばしの静寂が流れる。
その静寂を破ったのはまたしてもAであった。
「ハアァァ!?」
っと同時に歓声が沸いた。
まだ見ぬモンスターに観客が一堂に喜んだ。
対戦相手からすればたまったものではないが観客からすればエンターテイメントでしかないのだ。
歓声に溢れる。
「《聖騎士の追想 イゾルデ》効果で《ゴッドフェニックス・ギア・フリード》をサーチ。さらに効果でデッキの装備魔法……《月鏡の盾》を墓地に落として《焔聖騎士-リナルド》を特殊召喚する。そして《焔聖騎士-リナルド》の効果で墓地から《『焔聖剣-デュランダル』》を手札に加える」
ここまでで何体モンスターが動いただろうか。
相手も何が起こっているかわからないかのようで唖然としているかのようだ。
しかしここでは終わらない。
「《『焔聖剣-デュランダル』》を装備してそのまま効果発動し、デッキから《焔聖騎士-オリヴィエ》をサーチする。そして《ゴッドフェニックス・ギア・フリード》を捨てて《焔聖騎士-オリヴィエ》を特殊召喚。さらに《聖騎士の追想 イゾルデ》1体でリンク召喚、来い!《リンクロス》そして《リンクロス》効果でフィードにレベル1のトークンを2体特殊召喚する」
動く、動く。
過去の出来事を置き去りにする動きだ。
「動きが早いか?だが私にはまだ上の速さがある!《リンクロス》トークンに《焔聖騎士-オリヴィエ》をチューニング!顕現せよ!《焔聖騎士導-ローラン》をシンクロ召喚!」
またもやここで時代超越した召喚方法が出た。
シンクロ召喚だ。
さらに観客が湧いた。
どういう仕組みなのか。
フィールドが光り輝くとそのモンスターは現れるのだ。
想像を超えている。
「さらに手札から《リビング・フォッシル》を発動!墓地の《昇華騎士-エクスパラディン》を蘇生する」
だが終わらない。
いや違う相手を終わらせるのだ!
「《リンクロス》トークン、《昇華騎士-エクスパラディン》に《焔聖騎士導-ローラン》をチューニング!今時を超えし歴戦たる猛者の剣戟ここに現れよ!シンクロ召喚!《焔聖騎士帝-シャルル》!!」
現れたのは過去に存在したフランスの国王にして十二勇将を従えた将である。
焔に纏った彼は騎士であった。
そしてそれは一番の熱狂に包まれた。
観客もわかったのだろう。
これが、このカードがエースモンスターであるということを。
モブAも声を発さない、驚きのあまり発せないのであろうか。
ただ驚きの顔と恐怖の顔が半々といった感じで青くなっている。
「墓地の《焰聖騎士導-ローラン》の効果発動。《焔聖騎士帝-シャルル》に装備する。そして装備された私の《焔聖騎士帝-シャルル》の効果発動!フィールドのカードを破壊する!破壊するのはもちろん《マハー・ヴァイロ》だ」
「何ィ!?」
これで相手の場ががら空きとなった。
「さらに手札の《焔聖騎士-ローラン》の効果で《焔聖騎士帝-シャルル》に装備。こいつの効果で攻撃力を500アップ、先ほど説明し忘れていたが《焔聖騎士導-ローラン》も同様に攻撃力を500アップする」
「こ、攻撃力が4000だと!?――だがまだ終わりじゃねぇ!俺にはブラックホールを握っている!返しのターンにはやっつけてやる」
もはや小物となり下がったような台詞を吐く者にもはや苦笑いしかでない遊哉。
こんな台詞を言うやつが本当にいるのだな、と。
だから言ってやったのだ。
あのお馴染みの台詞を。
「それはどうかな?《『焔聖剣-オートクレール』》を《焔聖騎士帝-シャルル》に装備してそのまま効果発動!こいつの効果は――そのモンスターに2回攻撃の付与だ!」
「なんだとォ!?」
「バトルフェイズ!《焔聖騎士帝-シャルル》で2回攻撃!悦喜戦戟(エペ・ハルバ・ジュワユーズ)!」
「ぐわぁぁぁ!!!」
ソリットビジョンとはいえ、風撃によってモブAは吹き飛ばされる。
それは一撃、いや正確には二撃だが一瞬の攻撃だった。
モンスターを並べ、相手を一瞬で削り切る。
時代を超越したモンスターのオンパレードであった。
急
「ガッチャ楽しいデュエルだったぜ……なんてな」
遊哉が普段言わないであろう気障な台詞を言い放つと同時に周囲が湧いた。
遊哉が見渡すとここ一帯では遊哉たちしか決闘をしていなかった。
誰しも遊哉たちの動向に気を向いていたのだ。
テレビの報道陣も同様で今日の決闘の中では一番の注目となったであろう。
普通でありたい遊哉はここで改めて気恥ずかしさが増し、耳が赤くなってきた。
と、この場にいるのが居た堪れなくなり遊哉は道脇の路地裏に走り出してしまった。
『今まで通り』の遊戯王をした遊哉は一つ前の大会でも注目されたが、ここでも鮮烈なショーで一日目を飾った。
それは他の者たちに注目を集め、同時に恐怖を与えたといえるだろう。
遊哉を追い詰める人物がこの時代にいるのだろうか。
と遊哉自身が思っていたのであった。
彼の戦いは始まったばかりである。
後語り&設定
くぅ~疲れましたw これにて完結です!
※注意 この作品は「イヌ科様」の二番煎じです。
遊哉設定:異世界転生者
もちろんチート能力者。
神様チートによって元いた世界の最新のカードプールまでも使うことができ、さらにそれらのカードを取り寄せることができる。
さらにその応用によって過去の禁止・制限を使うことによって夢の競演ができるようになっている。
本作品のきっかけ:あるdiscordのサーバーにて「現代遊戯王のパワーを持ってなろう系を書けば面白いんじゃね?」
即採用しました(笑)
また対戦カードも第2期の装備ビートと11期の装備ビートと決めておりました。
最後に小説を書いたのは10年ぶりくらいかな?っていうくらいですので拙い文章だったかもしれません。
とくになろう系はアニメしか見たことがないのでこれであってるかわかりませんので…(笑)
それではここまでご愛読ありがとうございました。
もう二度と書きません。