目次
・サクリファイス・エスケープとは?
みなさんはサクリファイス・エスケープを知っていますか?
生け贄という意味のサクリファイスと、回避するという意味のエスケープを組み合わせた言葉です。
なんとかっこいい言葉でしょうか。サクリファイス・エスケープ。ああ、思わず口に出したくなります。もし、こんな美しい名前のカードがあったら、無意識にデッキへ入れてしまいますよね。厨二心をくすぐる、ちょっと大人っぽい文字列が心をつかんで離さない。誰が考えたのか、あまりにも素晴らしい言葉です。もし名乗りを上げてくれたら、感謝状を贈りたいくらいです。
しかし残念ながら、サクリファイス・エスケープという名前のカードは、2019年8月現在、遊戯王OCGに存在していません。
落胆したそこのあなた。まだ気落ちするには早いです。実はこのサクリファイス・エスケープ。かっこいいのは名前だけではないんです。
サクリファイスというと、デュエリストの多くが思い浮かべるのは、
【
儀式モンスター 】
星
1 /
闇 /
魔法使い族 /
攻0
/
守0
相手モンスター1体の攻撃力・守備力を得る。吸収モンスターがいる時、超過したプレイヤーダメージは相手プレイヤーも受ける。この効果は1ターンに1度しか使えず、吸収モンスターは1体まで、対象モンスターは「サクリファイス」の装備カード扱いとする。
この《サクリファイス》でしょう。青緑色の奇怪な体躯に浮き上がった血管のようなライン。飛び出るウジャト眼。不気味でいて芸術にすら感じるナイスデザインですよね。
脱線しました。話を戻しましょう。この《サクリファイス》とサクリファイス・エスケープは一切関係ありません。七文字中七文字ヒットしているのに、そんな馬鹿な。そう思う方もいるでしょう。わたしも思います。
大切なのは、サクリファイス(生贄)という単語そのものなのです。
カードゲームにおけるサクリファイス・エスケープとは、とってもかっこいい魔法カードなどではありません。数ある戦術(プレイング)の一つなのです。
その戦術は文字通り、生け贄(現代遊戯王語ではリリース、バウンス、除外など)を利用して相手の除去を回避する、というものです。
それを行う方法はいくつかあり、モンスター自身の効果でフィールドから逃げる、魔法や罠などのコストにして利用する、の二つが代表的です。
まずは、その一例をご紹介しましょう。例に使うのはこちらのカードです。
【
通常罠 】
①:自分フィールドの攻撃力1000以下の闇属性モンスター1体をリリースして発動できる。相手フィールドのモンスター及び相手の手札を全て確認し、その内の攻撃力1500以上のモンスターを全て破壊する。その後、相手はデッキから攻撃力1500以上のモンスターを3体まで選んで破壊できる。このカードの発動後、次のターンの終了時まで相手が受ける全てのダメージは0になる。
【
速攻魔法 】
表側表示のモンスター1体を破壊する。次の自分のドローフェイズをスキップする。
自分フィールドに《闇・道化師のサギー》が存在し、《死のデッキ破壊ウイルス》が伏せられているとします。相手のフィールドには攻撃力2400を誇る《真紅眼の黒竜》が存在しています。攻撃力600の《闇・道化師のサギー》だけのこちらは、一刻も早く《死のデッキ破壊ウイルス》で《真紅眼の黒竜》を破壊したい。そう思うでしょう。
しかし問題がありました。このままウイルスに感染させても、こちらの消費枚数2枚に対し、相手が失うのは1枚(手札にも対象があれば別ですが)なので、必然的に2:1交換(2枚のカードで1枚のカードを除去する)となり、ディスアドバンテージを背負ってしまいます。
このとき相手プレイヤーが《死者への供物》を発動し、《闇・道化師のサギー》の除去を試みます。きっと棒立ちの道化師を怪しんだのでしょう。なにより顔が怖すぎます。
ここでサクリファイス・エスケープのチャンスが到来しました! 伏せてある《死のデッキ破壊ウイルス》は攻撃力1000以下の闇属性をリリースすることさえできれば、ほとんどのタイミングで発動することができます。なので《死者への供物》に破壊される前にチェーンを組み攻撃力600の《闇・道化師のサギー》をリリースして、《死のデッキ破壊ウイルス》を発動します。これで相手フィールドの攻撃力1500以上のモンスターはめでたく全滅です! 《真紅眼の黒竜》を破壊しました!
鋭い人、熟練の人はもうお気づきでしょう。なんと、相手の《死者への供物》にチェーンする形で《死のデッキ破壊ウイルス》を発動したことで、《死者への供物》を無駄撃ちにし、自分の《闇・道化師のサギー》は除去されずに無事コストに変換できたのです。
アドバンテージに換算すると、自分が失ったカードは《闇・道化師のサギー》と《死のデッキ破壊ウイルス》の2枚。対して相手は破壊された《真紅眼の黒竜》と無駄撃ちに終わった《死者への供物》の2枚。なんということでしょう。本来は2:1の不等価交換になるはずだったのに、相手の一手を利用することで、2:2の等価交換を実現させました(《死者への供物》はドローロック効果もあるので厳密には2:3ですが)。しかもサクリファイス・エスケープというかっこいい名前の戦術を用いて。もう大満足というほかありません!
これは除去ならば魔法だけでなく、モンスターにも罠にも言えることです。例えば《サクリファイス》の効果に併せて対象となったモンスターをリリースすれば、対象を失った効果は不発となり、《サクリファイス》の攻撃力が上がることもありません。使い方によっては、テキスト以上の妨害も可能なのです。
・サクリファイス・エスケープの仕組み
ここで、つまりなにが起こったの? と思った方もいるかもしれません。なので軽く解説をします。
サクリファイス・エスケープはまず、相手がこちらのモンスターを対象に取るところから始まります。このとき対象にされたモンスターがいなくなった場合、対象を取った効果、先ほどの例で言えば《死者への供物》ですね。これで相手が狙いをつけたモンスターがいなくなったとき、どうなりましたか?
はい。対象を失って不発になりました。対象がいなくなったカード効果は空振りに終わります。食べようとして狙っていたプリンが食べられてしまったら、そのプリンを食べることができないのと同じです。
わかりづらければ、単に攻撃を避けた、と解釈してもよいと思います。
どうして相手の攻撃(除去)から逃れられたのか? という疑問には、チェーンの処理が絡んできます。先の例で言うと先に発動した《死者への供物》がチェーン1。《死のデッキ破壊ウイルス》がチェーン2ですね。このときチェーン1の《死者への供物》が効果を発揮し対象を破壊するのはチェーン2の処理が済んだあとになります。だから《闇・道化師のサギー》はチェーン1で起こそうとした破壊を受ける前に無事チェーン2の《死のデッキ破壊ウイルス》の媒体となり、結果として破壊を免れるのです。
・注意点
とっても便利でかっこいいサクリファイス・エスケープですが、いくつか注意すべきポイントがあります。
まず、こちらのカードをご覧ください。
(準制限カード)
【
シンクロモンスター 】
星
9 /
水 /
ドラゴン族 /
攻2700
/
守2000
チューナー+チューナー以外のモンスター2体以上
このカードがシンクロ召喚に成功した時、相手の手札・フィールド上・墓地のカードをそれぞれ1枚までゲームから除外する事ができる。
【
エクシーズモンスター 】
星
8 /
闇 /
機械族 /
攻2600
/
守2100
レベル8モンスター×2
自分は「宵星の機神ディンギルス」を1ターンに1度しか特殊召喚できず、自分フィールドの「オルフェゴール」リンクモンスターの上に重ねてX召喚する事もできる。①:このカードが特殊召喚に成功した場合、以下の効果から1つを選択して発動できる。●相手フィールドのカード1枚を選んで墓地へ送る。●除外されている自分の機械族モンスター1体を選び、このカードの下に重ねてX素材とする。②:自分フィールドのカードが戦闘・効果で破壊される場合、代わりにこのカードのX素材を1つ取り除く事ができる。
この2枚、とてもかっこいいですね。色は銀や金を使うことで荘厳さが演出され、バランスもいい。
ところで2枚の持つ除去効果、なにか違和感を覚えませんか?
違和感の正体は、効果発動後に除去するカードを選んでいる、対象を取らないところでしょう。なんと、こうなると(状況にもよりますが)サクリファイス・エスケープで避けきれないのです。
ただ説明してもわかりづらいので、実際の動きを見てみましょう。
自分の場に《闇・道化師のサギ-》《ネクロ・ガードナー》伏せられた《死のデッキ破壊ウイルス》。
相手の場に《氷結界の龍トリシューラ》がシンクロ召喚されたところです。
シンクロ召喚されたことで《氷結界の龍トリシューラ》の効果が発動しました。このままだと手札・墓地はおろか、フィールドの《ネクロ・ガードナー》まで除外されてしまいます。彼には墓地で発動できる効果もあるというのに。このままでは大損害です。
ここはサクリファイス・エスケープだ! 《死のデッキ破壊ウイルス》!
これで《ネクロ・ガードナー》をウイルスの媒体にしました。無事逃げられたはず……しかし残った《闇・道化師のサギ-》は除外されてしまいました。それどころか、墓地に逃げた《ネクロ・ガードナー》まで除外さてしまう有様。なぜ?
その答えはテキストの中にあります。《氷結界の龍トリシューラ》は除外するカードを自分の効果が解決される瞬間、つまりチェーンして発動されたカードの効果全てが終わったあとに選ぶのです。このタイプのカード相手には、サクリファイス・エスケープも充分な効果を発揮できません。特に《氷結界の龍トリシューラ》は逃げ場の少ない除去です。
一応、自分モンスターゾーンを空にすることで回避可能です。そこまでくると全滅同然ですが。
もうひとつ、サクリファイス・エスケープは成功したからといって確実にアドバンテージに繋がるとは限りません。なので、これだけを狙っていると悪手になりやすいです。
サクリファイス・エスケープに利用する速攻魔法・罠カードを温存することが勝利へ繋がる可能性もありますし、無意味に発動することになってもお得感はありません。また、単体でサクリファイス・エスケープを行えるモンスターの場合、無理に場に残したことが負けに繋がることもあります。他にも、コストになるモンスター+魔法・罠で行う場合は必然的にこちらが2枚消費するため、その後の守りが薄くなりがちです。
サクリファイス・エスケープは魅力的な戦術ですが、状況をしっかり見て、判断することも大切です。ついつい狙いたくなっちゃうのですけどね。
・どんなカードで狙える?
前述のとおり、サクリファイス・エスケープは自分の効果を通しつつ相手のカードを不発にできる非常にお得な戦術です。ただ、どんな戦術でも、これはカードゲーム。戦術を成り立たせるカードがなければ使うことはできません。
そこで、サクリファイス・エスケープを狙えるカードを一部まとめてみました。ご参考にどうぞ。
・《エネミーコントローラー》
原作でも存在感たっぷりの速攻魔法。リリースをせずに相手モンスターを守備表示にする効果は単純な守りや戦闘補助にも使え、汎用性バッチリ。自分のモンスターをリリースする効果ではコントロール奪取をするので、サクリファイス・エスケープの他にも様々な用途で使用できる。
・《星遺物を巡る戦い》
自分のモンスター1体をエンドフェイズまで除外することで相手モンスター1体のステータスを除外したモンスターのステータス分下げられるカード。こちらも戦闘補助に使え、《星杯の神子イヴ》などでサーチすることもできる。攻守を変動させるカードなので、ダメージ計算時に発動できるのも大きな利点。
・《神秘の中華鍋》《デストラクト・ポーション》
どちらも自分のモンスターをリリースまたは破壊することで、その攻撃力分(神秘の中華鍋は守備力も可能)ライフを回復するカード。ライフ回復というと直接アドバンテージに繋がらず、いいイメージが少ないが、リリースや破壊をトリガーとするカードとの併用にピッタリなカードでもあるので、是非覚えておきたいカードだと思う。前者は速攻魔法のため即座に使える点、後者は通常罠のため《悪魔嬢リリス》や《トラップトリック》でのサーチが可能なのが強み。
・《死のデッキ破壊ウイルス》など、ウイルスカード
こちらは闇属性専用でそれぞれステータスに縛りがあるものの、どれも手札にまで干渉する強力な効果を持っていて強い。サクリファイス・エスケープを狙わず、《マインド・クラッシュ》のように相手のサーチを潰したり、制圧に一役買うのもあり。《デストラクト・ポーション》同様、サーチ可能なのも○。
・《ゴッドバードアタック》《毒蛇の供物》
前者は鳥獣族、後者は爬虫類族1体と相手のカード2枚を道連れにさせる強力な罠。シンプルゆえに強く、様々な状況に対応できる。前者はリリース、後者は破壊と、コストとなるカードへの対応が違うので注意。
◆自身の効果でエスケープできるカード
この広い遊戯王界の中には自分の力だけでサクリファイス・エスケープを成功させるエリートエスケープモンスターも存在します。主に相手ターンにも発動できる。の一文が記されているモンスターです。ただし、これらのモンスターは相手に狙われることも少ないので、無理に狙うとかえって痛手を負うこともありのでご注意を。
・《ウィングド・ライノ》
罠カードの発動に反応し、手札に戻ることのできるモンスター。風属性、獣戦士族なので《炎舞―「天キ」》や《炎舞―「天枢」》、《霞の谷の神風》などとの相性も良い。
・《ヴェルズ・サンダーバード》
魔法・罠・モンスター、なんでも効果が発動したとき、次のスタンバイフェイズまで除外できる雷族のモンスター。恐らくサクリファイス・エスケープ界隈ではかなりの有名モンスターだろう。ヴェルズの名前を持っているため、《ヴェルズ・オピオン》の素材になれるのも高評価。ちなみに、自分の効果でかえってくると攻撃力が300上がる。
・《ゼンマイ・ラビット》
フリーチェーンで自分のゼンマイモンスターを次のスタンバイフェイズまで除外できる。カテゴリ共通の、フィールドに表側表示で存在する限り1度しか使用できない、があるが、自分をエスケープさせてしまえばリセットされるので関係ない。発動条件やタイミングがほぼ関係ないので、使い勝手はピカイチだ。
・《インフェルノイド》モンスター
自分モンスターをリリースし、相手の墓地から1枚除外することのできる少し特殊なモンスター群。下級は相手ターンのみ発動可能と縛りがつくが、上級の《インフェルノイド》は任意のタイミングでリリースできる。うまく扱えば相手にとっては非常に厄介で、じわじわとアドバンテージを広げられる。
・《水晶機巧》チューナー、《水晶機巧―ハリファイバー》
相手メインフェイズ及びバトルフェイズに特定のゾーンからモンスターを呼び出しシンクロを行う《水晶機巧》チューナーと、同じタイミングに除外することでシンクロチューナーを呼び出すリンクモンスターの《水晶機巧―ハリファイバー》。うまくやれば相手に損害を与えることすら可能な強力な効果だ。
・《PSYフレームロード・Z》、《PSYフレームロード・Ω》
レベル7、8の汎用シンクロでもある2枚。《PSYフレームロード・Ω》の方はメインフェイズ限定という条件つきだが、相手の状況にほとんど依存しないで使える効果なので、サクリファイス・エスケープにはピッタリだろう。
これ以上紹介するとヴァリュアブルブックのようなものができあがりそうなので、今回はここで打ち止めにします。
ここで紹介したカードはほんの一部です。まだまだサクリファイス・エスケープを狙えるカードはあります。例えば相手ターンに融合するカードとか、変わったところだと自分のカードを敢えてバウンスし、手札に確保する戦術もあります。そうやって、ただの妨害罠が自分を守るカードになったり、遊戯王とはなにが起こるかわからないものですね。
・まとめ:仕上げは実戦で使ってみよう
サクリファイス・エスケープのこと、知っていただけたでしょうか?
色々言われて余計ごちゃごちゃした! という人もいるかもしれません。その助けになるかはわかりませんが、ひとまず今回の話を箇条書きにしてまとめました。
1,サクリファイス・エスケープ=狙われたモンスターをリリースやバウンスなどで処理して相手の効果を回避する
2,対象を処理で相手効果の不発を誘えてお得
3,《氷結界の龍トリシューラ》や《宵星の機神ディンギルス》など、対象を取らない効果には効き目が薄い
4,状況やタイミングを考えることが大切
5,モンスター単体なら相手ターンに使える、の記述がある効果が目印
知っていると使いたくなるのが人のサガ。是非、実戦で試してみましょう。上で判断が大切、などと偉そうな言説を説いていますが、もし失敗しても大丈夫です。カードゲームも失敗を積み重ねることでプレイングを向上させ、過去を反面教師にして最適な行動を選び取っていくもの。かくいう私も、プレイミスは度々起こします。
サクリファイス・エスケープというと随分仰々しく、難しそうなテクニックですが、1度実際に使ってしまえばなんてことありません。プリン食べるくらい簡単なことです。
さあ、サクリファイス・エスケープを知らなかった人も、知っていた人も、遊戯王しましょう! そして終わったら自分のプレイを見直し、こう思うのです。
あ、ここ、サクリファイス・エスケープを使えばもっとよくなるぞ。