【第5回TWC】再び選ばれた遊戯王――20年ぶりに遊戯王に復帰するまで

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【第5回TWC】再び選ばれた遊戯王――20年ぶりに遊戯王に復帰するまで
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駅から降り立つと、どこからかウミネコの鳴き声が聞こえた。

出典:遊戯王OCG公式カードデータベース

海沿いには、ところどころ更地があり、海と陸の境には立派な堤防がそびえる。

借り家の鍵を受け取るために寄った不動産屋は、「何もないところでしょう」と言った。

二年の予定の長期派遣で訪れたのは、岩手県の沿岸部。

風光明媚で、食事のおいしいこの地域には、一つ、困った特性があった。

娯楽が、なかったのだ、

目次

●その①:娯楽として再発見

岩手県沿岸部は、山と海に挟まれた村や集落が点在する地域だ。

当然、専門店の絶対数が少なくなり、娯楽と言えば、飲み屋とパチンコぐらいしかなくなってしまう。

それでも最初の数か月は、名勝を訪れ、登山に挑戦し、ダイビングもしたが、やがてそのどれにも不向きな冬が訪れる。

「室内でできる娯楽が必要だ!」

と考えた。

幸い、車で行ける距離に、おもちゃ屋があった。

雪道を、ノロノロと進む。車のスピードに反比例して、やる気は上がる。

「よーし、二〇年ぶりにミニ四駆をやるぞ!

実は最初、ミニ四駆を買いに行ったのだ。

そのおもちゃ屋にはサーキットがあり、日々おっちゃんたちがチェーンと肉抜きにいそしんでいると、ツイッターで情報を得ていた。

初めての凍結した路面の中、教習所以来五年ぶりのバック駐車を敢行する。←西日本出身のペーパードライバー

四苦八苦しておとずれたおもちゃ屋の、入ってすぐのところに、案内があった。

「カードゲーム大会日程」
・遊戯王 
・デュエルマスターズ
・ヴァンガード
・ヴァイスシュバルツ

「ああ、ヴァイスシュバルツやってるのか

何を隠そう、少し前にヴァイスシュバルツを始めていたのだ。

デッキは持ってきていなかったものの、本来の住み家に戻ればある。

次の長期休暇で家に戻った時、当然、真っ先に手に取ったのはヴァイスシュバルツのデッキだ。ちなみに「艦これ」と「ごちうさ」だ。

そこで、ふと、思い立つ。

「ヴァイスシュバルツの大会は月一回しかない」

もう一種類、デッキを用意すべきだろう。

デュエマも、ヴァンガードも、触ったことがあるぐらいのレベルで、デッキを持っていなかった。

となれば、「遊戯王」に白羽の矢が立つのは成り行きであった。

私は、クローゼットの奥、小学校の「工作」の授業で作った木製のトランクから、デッキを二つ、取り出した。

【青眼の白龍】と、【デッキ破壊】だ。

●その②:小学生デッキの完敗

次の遊戯王のショップ大会に臨んだ時、私の頭脳は完全に旧式だった。具体的に言うと、遊戯王2期で止まっていた。

初代のアニメの終了とともにプレイする機会が消滅し、その後5D'sのアニメは少し見たものの、デッキを扱うのは久方ぶりだ。

ほぼ十数年ぶりに、遊戯王OCGに復帰しようとする自分の知識は、以下のものだった。

・「禁止カード」という概念が設定されているらしい。

・攻撃力3000の《青眼の白龍》を超えるカードが、ごろごろいるようだ。

・モンスターと魔法を合体させた「ペンデュラム」カードが強い。

・通常モンスターは、あまり(というかほとんど)使わないみたいだ。

以上をかんがみるに、守備力2000の強固な守備力で盤面を維持して、生け贄召喚を狙う【青眼の白龍】では、時代についていけない可能性が高い。

「しかし、デッキ破壊なら・・・」

出典:遊戯王OCG公式カードデータベース

地雷デッキとして、ワンチャンあるかもしれない。(なお、《ワンチャン!?》の存在も知らなかった)。

「もちろん、無強化では無理だろう」

さっそく、小学生の頃には使えなかった手段――インターネットを使い、【デッキ破壊】に相性のよさそうなカードを調べ始める。

「ふむ。俺が使い続けている《墓守の使い魔》は、《マクロコスモス》と相性がいいのか――」

「お、リバースモンスターをデッキから持ってこれるカードがある! こりゃ、勝ったな!」

途中、なつかしいが関係のない通常モンスターのページばかり読む欲求にとらわれたが、なんとか完成させる。

当然、時間をかけたのだから、無条件に愛着がわく。

「昨今はドローするカードが多いと聞く。つまり、俺のデッキにとって至極有利な時代と言うわけだ!」

一人壁に向かって回し始める。愛着が意気へと変わる。

「こりゃあ、優勝は無理でも準優勝ぐらいはしちゃうかもな!?」

意気は揚々と高まり、おもちゃ屋へと向かう。

最初の相手は―― 

出典:遊戯王OCG公式カードデータベース

【オルターガイスト】とやらか。

お互いのデッキをカットし、手札を五枚引く。

もちろん、可能な限り予習をしてきたから、先攻ドローがなくなっていることも知っている

「よろしくお願いします!」

今まさに、東北の地に、新時代のデッキが――デッキを破壊するデッキが――爆誕するのだ!


予定されていた戦術は、こうだった。

まず、《光の護封剣》で相手の攻撃を防ぎつつ、場に《墓守の使い魔》《マクロコスモス》をそろえる。 → これでロックが完成する。

《墓守の使い魔》は、墓地に送らなければ攻撃宣言できないが効果だが、《マクロコスモス》のおかげで「墓地に送る行為」そのものができない。 → ロックの完成。

ロックが完成したら、《メタモルポット》《月の書》《月読命》で何度もひっくり返し、相手のデッキを削る。

→ 最後は《ニードルワーム》で相手のデッキだけを削り、無事勝利。

・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・うん、まあ、デュエルの結果は明らかだと思う。

いちおう、ダイジェストだけ、お送りしておこうかな。

相手「《メタポ》の反転召喚成功時に、《灰流うらら》。なにかありますか?」俺「ファッ!?」

相手「《ツイツイ》を使います。手札一枚切って、《マクロコスモス》《墓守の使い魔》を破壊したいです」俺「なにその、《サイクロン》の上位兌換」

相手「あ、ならないよ。リンクモンスターなんで、守備表示にならないよ!」俺「え――(伏せた《月の書》をドヤ顔で発動しつつ)」

せめてもの慰めを言っておくと、あまりにも珍妙なデッキのため、デュエルでみんなを笑顔にできた。

むろん、笑顔にしている方は不本意もはなはだしかったけどな!

●その③:インターネットの活用

つまずいたどころか、各座して炎上した復帰後の第一戦だったが、得るものはあった。

なにもかもが足りないことに、気がついたのだ。

知識と、そしてカードだ。

最新の記事を読み、動画を研究し、ネット通販を駆使するのだ。

カタカタカタッターン! と調べた結果、以下の情報を仕入れた。

・もうずいぶん前から、遊戯王のトレンドは「ワンキル」である。
 →ロックデッキは絶滅寸前

《灰流うらら》《増殖するG》を持っていない人間に、人権はない。  →持っていない

・罠カードは、対策カードが増えすぎたため、特殊なテーマを除いて使われない。
 →自分のデッキ罠カードが多め

・「テーマデッキ」が、主流。
 →テーマうんぬん以前に、ほとんど通常モンスターしか手元にない

「テーマデッキ、か・・・」

なるほど、確かに自分の持っているカードのほとんどは、ルール的には使えるに過ぎないカードなのだろう。

だが、自分もかつてはデュエリスト。かつては誰もがあこがれて、一枚は持っていたカードを、三枚持っている。

出典:遊戯王OCG公式カードデータベース

《青眼の白龍》だ。

「やっぱり、小さいころから使っているカードを使いたいよな!」

幸い、【青眼の白龍】は、公式に愛されたテーマだ。

20年たった今なお、新たなカードが追加され続けて、かつてのデュエリストたちの購買意欲をそそっている。俺もそそられた一人だ。

「よっしゃ。ネット通販で、買いそろえたるで!」

《増殖するG》  980円 《灰流うらら》  1050円 《青き眼の賢士》 1500円 《青眼の亜白龍》 キズあり、5000円から

「う・・・高いね、君たち・・・」

当時、自分が一か月あたりにホビー(カードだけでなく、ゲームソフトとかプラモデルとか)に使える予算を、5000円と決めていた。

ゴキブリと幼女の人権セットを買ったら、なんぼも残らないではないか!」

いったい、一つのデッキを作るのに、何か月かかるというのだ?

こうして、遊戯王熱の再燃は起りつつも、動画で気を紛らわせる日々が、続くのだった・・・

●その④:現地の友人との研鑽

きっかけは、仕事先が岩手県の内陸部へ、うつったことだった。

近くにいくつかホビーショップがあり、機会が増えたのだ。

そうしてやってきたとあるショップ。

自分の手持ちは、《トリックスター・キャンディナ》+《トリックスター・リンカーネーション》+《ドロール&ロックバード》を追加して、いくぶん害悪度を増した【デッキ破壊】だった。

常連の人々に一発で、顔とデッキを覚えられてしまった。

流行りのテーマをとりいれつつもなお、古さを隠しきれていないインパクトは、デュエル以外で発揮されたのだ

SNSのアドレスを交換し、次の週末にも会うことを約束する。

それからは、毎週末、どこかのショップに集まってデュエルをする日々だった。

新しいテーマを試し試されして研鑽を積み、時にはデッキを交換して対戦した。

デュエルだけでなく、カードに関係したいろいろな交流もあった。

新パックの開封を見守り、20年ぶりにカードのトレードを行った。

出戻り組のためにルールの解説をしてくれたし、時にはカードを(テーマを丸々一つ分)くれることもあった。

あるいは、アニメキャラの声マネ動画の話題で盛り上がった。

ありがとう【デッキ破壊】。キミはデッキは半端にしか破壊できないけど、かわりに友情をはぐくんでくれた。

そんなある日、声をかけられた。

「いっしょに店舗代表戦に出ないか?」

●その④:初めての店舗代表戦

「店舗代表戦」というのは、うわさでは聞いていた。なんでも、時にジャッジキルさえ行われる弱肉強食の世界だという。

いまだ私は身内でのエンジョイ勢にとどまっており、参加したことはなかった。

だが、ぜひ参加したいという意欲はあった。

自分がどの程度か、というを知りたかったし、それにお世話になった彼らと何か、思い出を作りたいとも思っていた。

東北に来てすでに二年がたち、数か月後には私は元の場所へ帰ることになっていたのだ。

【デッキ破壊】は「トリックスター」要素のみを残し大改修され、【トリックスター】デッキになった。

すでに遊戯王のみに使っていた月5000円の予算は3倍に増えていた。

私は「人権」をまんべんなく手に入れ、さらにデュエリストとしの高みを目指した。

私は20年ぶりに、本気で考え、可能な限りよいと思うデッキを組みあげた。


そして迎えた店舗代表戦。

ピリピリする気配。遠方から来た、未知のデュエリスト。そして約束の時間。

「よろしくお願いします!」

相手は、【サンダードラゴン】だった。

※ ※ ※

私は一回戦目で敗れた。1勝2敗だった。

同じく参加した友人のうちの一人は二回戦目で敗れ、決勝まで残ったもう一人は、私を降した【サンダードラゴン】にひざを折った。

全力を出したので、後悔はなかった。

「地元に戻っても、遊戯王続けてくださいね」一人が言った。

「続けるよ」そう答えた。

こうして私は、本来の住み家へと帰還した。

カードと、思い出と、「遊戯王に20年ぶりに出戻った」という事実を残してだ。

そうして今、こうやって記事を書いている。ぜひに、文として書き起こしてみたかったからだ。

このような形で、「遊戯王OCG」の記事を書くのは初めてだ。

つたない文章を読んでくれたデュエリスト諸賢に、感謝したい。


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