【第5回TWC】深淵なる電波デッキの世界

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【第5回TWC】深淵なる電波デッキの世界
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目次

はじめに

 流浪のライター、バートレットの記事へようこそ。さて、早速で恐縮だがひとつ断りを入れておかねばなるまい。私がこの場においてガチまとめ読者諸兄に披露する文章は、「デュエル・マスターズの環境デッキの解説」ではなく、「デュエル・マスターズで強くなるための秘訣」でもない。「デュエル・マスターズで如何にしてStylishかつBeautifulでCrazyな勝利をするか」という価値観、そしてその価値観を重視する奇人変人たちについての説明だ。

 ここで嫌な予感がした貴方、実にいい反応だ。電波デッカー──うっかり開いてしまったこの記事の最初の段落でこれまたうっかり頷いてしまった、そこの君のことだ──はただ勝ちたいのではない。もちろん勝利は前提にある。デュエル・マスターズは対戦ゲームだ。相手に勝つことを目的とするゲームである。そのために人は強いデッキが何かを追い求め、Tier1、Tier2と呼ばれるアーキタイプを使用するのだ。それ自体は否定されるべきことではない。その大会がデュエマフェスであろうが、CSであろうが、グランプリであろうが、野良試合であろうが、勝つためだけであれば強いデッキを使うことは別段否定されるべきことではない。だが、しかし、電波デッカーたちはそこにプラスアルファを求める。そう、美しい勝利をしたいのだ。

 付け加えると対戦相手が不審そうな表情で首を傾げたり、1,2ターンに1回くらいの頻度でこちらがマナゾーンに置いたり使用したカードを見て「効果確認してもいいですか……?」と恐る恐る聞いてきたり、挙げ句発生した事象に悲鳴を上げて右往左往したり、こちらが構築した美しすぎる盤面の状況に思わず呆然と見惚れてしまったり、自信満々に組まれたトップメタのデッキが私の美しいコンボの前に敗れ去るのを見て「お前次の試合では覚えてろよ!?」と捨て台詞を吐いて離席する姿を見たい。そしてそんな状況を作り上げてしまったことへの愉悦に浸りたいのだ。最悪「試合に負けても勝負に勝ちに行く」くらいの気概くらいは持っておきたいと考える。

 誤解を恐れず言うならば、そんな欲望を持つデュエマプレイヤーは得てして奇人変人の類である。街のショップで行われるデュエマフェスならいざ知らず、競技性の高い公認CSやグランプリにおける参加者の大多数は普通のデッキを使い、普通に勝ちたいと思っているはずだ。そしてそれこそが普通の楽しみ方のはずなのだ。そんな場でスタイリッシュに魅せたいと考えるプレイヤーは、大抵こう考えているはずだ。

「DMGP? あぁ、あの大会俺にとって巨大な実験場だから」

「今日のCSではこのコンボ何回決められるかなぁ……あわよくばフィーチャーされたいなぁ……」

 そう、彼ら(というか少なくとも私)にとって大会とは、単なる競技の場ではない。自分が考えた素敵すぎる魅せコンボを披露するプレゼン会場であり、モルモットだらけの実験場であり、前衛芸術を披露する展覧会であり、日頃の妄想を外界に向けて解き放つ同人誌即売会的な何かなのだ。

以前電波デッキ同士でフリーに興じていたら周囲からその光景を「ワルスラー研究所」呼ばわりされた思い出

 もちろんそんなことを考えているような人間がまともな日常生活を送っているわけがない。その頭の中には常に新たなコンボを産み出すための構想や妄想で渦巻いているのだ。暇さえあればストレージとにらめっこしたり、Wikiや公式のカードリストを見て自分の琴線に触れるカードを探したりしているし、仕事中だろうが家でアニメを見ていようがだいたい思考リソースの何割かは新コンボの着想に割いている。そして、そんな日常生活の中で──大抵トイレの便座に腰掛けている時か入浴中──に、唐突に天啓とも呼べる何かが頭に閃くのだ。またの名を「よからぬ電波を受信した」とも言う。

電波デッキのアイディアを受信した瞬間の脳内イメージ

 一度電波を受信してしまえば、そこから先の行動は迅速そのものだ。カードショップに走ってストレージを発掘し、デュエマ担当の店員に必要なカードの在庫状況を問い合わせて怪訝な表情を向けられながらもカードを購入し、脳内麻薬が最高にキマった頭でデッキを組み上げ、1人回しを繰り返す。空想上の対戦相手をひたすら倒しながらデッキを調整し、世に解き放つのである。こうして作り上げられた、伊達と酔狂と浪漫を詰め込み電波を目一杯浴びたデッキこそが、世にいう「電波デッキ」である。

 今回は、そんな普通じゃない楽しみ方、まっとうにデュエマと向き合うプレイヤーには理解されない深淵なる世界、「電波デッキ」の世界に皆様をご案内しよう。

 しかし、嗚呼、健全にデュエマを楽しむ善良なるガチまとめ読者諸兄よ、願わくば気をつけたまえ。かつて、プロイセンの哲学者フリードリヒ・ヴィルヘルム・ニーチェは「おまえが長く深淵を覗くならば、深淵もまた等しくおまえを見返すのだ」、と語っている。だからこそ私は読者諸兄がこれ以降の文章をを読むに当たり、ひとつ警告しておかねばならない。

 引き返すならば今のうちだ、と。

もちろんこの「ヴィルヘルム」ではない

1. 電波デッキの種別

 電波デッキにも色々ある。ここでは私が独自に分類した電波デッキの種別について解説していこう。

 初めにお断りしておくが、実例として挙げるデッキは、殿堂レギュレーションの更新などで、2020年5月現在においてはそのままの形で使用不能なレシピであるため、その点をご了承いただきたい。

1-1. 極端な構築

 まずはわかりやすい実例を見てみよう。これは、2018年2月に行われたとある公認CSで実際に使用されたデッキである。


 デッキリストの半分以上を埋め尽くす《はずれポンの助》。このカードは、デッキに何枚でも入れられることが最大の特徴である。だがしかし、これを本当に何枚も入れてしまうプレイヤーは通常、なかなかいないだろう。実際のところ、《はずれポンの助》はそこまで強力なカードではない。

【クリーチャー】
【種族】 ジョーカーズ
【文明】 ゼロ
【パワー】820
【コスト】1

■このクリーチャーはシールドをブレイクできない。
■自分は「S・トリガー」能力を使えない。
■このカードは、4枚より多くデッキに入れることができる。

 コストは1と軽量だが、「シールドをブレイクできない」「自分はS・トリガー能力を使うことを封じられる」という2つのデメリット能力が実戦での使用を躊躇させる。だが、コストが軽量かつ4枚以上デッキに入れられる点から、クリーチャーを並べることを重視するデッキで投入できる。また、当時無制限であった《ゼロの裏技ニヤリー・ゲット》を1ターン目に唱えることができる。

【呪文】
【文明】 水
【コスト】4

■G・ゼロ─バトルゾーンに自分の無色クリーチャーがあれば、この呪文をコストを支払わずに唱えてもよい。
■自分の山札の上から3枚をすべてのプレイヤーに見せる。その中から無色カードをすべて手札に加え、残りを好きな順序で山札の一番下に置く。

 そこでこのデッキでは、スロットが許す限りの《はずれポンの助》をデッキに投入し、ドローソースとして《ゼロの裏技ニヤリー・ゲット》、さらにクリーチャーが4体並ぶことで実質ノーコストで発動可能な、マナ加速と手札補充を行い、デッキトップを操作できる《夢のジョー星》を採用している。

【呪文】
【種族】 ジョーカーズ
【文明】 ゼロ
【コスト】5

■コストを支払うかわりに、自分のジョーカーズを4体タップして、この呪文を唱えてもよい。
■自分の山札の上から4枚を見る。その中から1枚ずつ、自分の手札、山札の一番下、マナゾーンに置き、もう1枚を山札の一番上に戻す。

 手札と場がある程度整い、《はずれポンの助》が6体以上並んだ状態で除去とフィニッシャーを担当する《ジョット・ガン・ジョラゴンJoe》を1コストで投下、トドメとばかりにG・ゼロ条件を満たした《ジョジョジョ・マキシマム》を《ジョット・ガン・ジョラゴンJoe》を対象に唱え、相手の呪文系S・トリガーを封殺しながらシールドを根こそぎ吹き飛ばす、というのがこのデッキの勝ち筋だ。《はずれポンの助》はシールドをブレイクできないだけでアタック自体は可能であるから、問題なくとどめを刺せる。

【クリーチャー】
【種族】ジョーカーズ・ドラゴン 【文明】ゼロ
【パワー】12000
【コスト】9

■バトルゾーンに自分のジョーカーズが6体以上あれば、このクリーチャーのコストは1になる。
■スピードアタッカー
■T・ブレイカー
■このクリーチャーがバトルゾーンに出た時、自分の山札の上から2枚を表向きにして手札に加える。それらのコストの合計以下になるように、バトルゾーンにある相手のカードを好きな枚数選ぶ。相手はそれを好きな順序で自身の山札の一番下に置く。

【呪文】
【種族】ジョーカーズ
【文明】ゼロ
【コスト】9

■G・ゼロ:バトルゾーンまたはマナゾーンに自分のジョーカーズが合計11枚以上あれば、この呪文をコストを支払わずに唱えてもよい。
■バトルゾーンにある自分のクリーチャーを数える。このターン、自分のクリーチャー1体はその数のシールドを追加でブレイクし、そのクリーチャーの攻撃中、相手は呪文を唱えられない。

 このように、ある種極端な構築は電波デッキの一つの特徴だ。これが環境で大暴れした好例はやはり1コスト呪文を大量に搭載した【ジョバンニスコール】だろう。《ロジック・サークル》で必要な呪文を手札に集め、《ドリル・スコール》でランデス、軽量クリーチャーは《死亡遊戯》《スチーム・ハエタタキ》で除去して、途中で《クルトの気合釣り》を使って山札切れを防ぐ。そうして使用した呪文を《天雷王機ジョバンニX世》でしっかりと回収する。このデッキは登場するやいなや環境を荒らし回り、《天雷王機ジョバンニX世》のプレミアム殿堂、《ドリル・スコール》の殿堂入りという事態を招いたのであった。

1-2. 奇抜なコンボ

 予想だにしないシナジーを利用したコンボこそ、電波デッキの真骨頂だ。デッキビルダーたちが見出したシナジーが、そのままコンボになって対戦相手に牙をむく。まさに環境に潜むゲリラ部隊だ。しかも、このコンボが安定性が高く強力なものだった場合、先に述べた【ジョバンニスコール】のように環境を侵食する。もちろん、その過程で競技向けの調整が施されていくため、万人が使いやすいように幾分角が取れてマイルドになっていくのであるが。

 さて、実例を一つご覧いただくが、その前に昔話をさせて欲しい。おそらく古くからデュエル・マスターズを遊んでいるプレイヤーにとっては退屈な話かもしれないし、事実関係に誤認があるかもしれない。もし何か誤りがあればご指摘いただけると幸いだ。

 時は10年近く前に遡る。神化編で登場した《神羅ヘルゲート・ムーン》は、その豪快な効果がプレイヤーたちの目を引いた。

【進化クリーチャー(究極進化)】
【種族】ルナティック・エンペラー / デビルマスク
【文明】闇
【パワー】13000
【コスト】10

■究極進化-自分の進化クリーチャー1体の上に置く。
■このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、クリーチャーをすべて、自分の墓地からバトルゾーンに出す。その後、相手は自身のクリーチャーをすべて、墓地からバトルゾーンに出す。
■T・ブレイカー(このクリーチャーはシールドを3枚ブレイクする)

 カジュアルプレイヤーたちはその「出せば勝ち」と言える効果を見て興奮し、一方で競技プレイヤーたちは「その前に勝負をつけた方が早い」と考えていた。実際、《神羅ヘルゲート・ムーン》の登場当時は「墓地を肥やす労力を他に割くべき」「専用構築を組むしかない」「ヘヴィ・デス・メタルを合体形態で出すくらいの用途しか思いつかない」などの評価が支配的だったのだ。

 だが、あるプレイヤーは考えた。《神羅ヘルゲート・ムーン》を出した時、《百発人形マグナム》で蘇生したクリーチャーを破壊するとどうなるか。そして、その蘇生した後破壊する対象に2体目の《神羅ヘルゲート・ムーン》が含まれるとしたら。

【クリーチャー】
【種族】デスパペット
【文明】闇
【パワー】4000
【コスト】4

■マナゾーンのカードをタップせずに、誰かがクリーチャーまたはクロスギアをバトルゾーンに出した時または呪文を唱えた時、そのプレイヤーは自分自身のクリーチャーを1体選んで破壊する。

 彼は黎明期からデュエマをプレイしており、ルールに詳しかった。そして、「同一タイミングに誘発した効果は、ターンプレイヤー、非ターンプレイヤーの順で処理し、同一プレイヤーが発生させた効果は任意の順番で処理ができる」というルールを知っていたのだ。だからこそ、「《百発人形マグナム》で蘇生したクリーチャーを破壊した後で、コストを踏み倒して墓地から蘇生された2体目の《神羅ヘルゲート・ムーン》の蘇生効果を解決すると、《百発人形マグナム》で破壊されたクリーチャーが再び復活する」という現象が起きることを知る。

 これはループできる、と彼は気がついた。そして、後に【ヘルゲートムーンライブラリアウト】というアーキタイプとして認識されるデッキを組み上げたのである。


 手順はこうだ。下準備として、《神羅ヘルゲート・ムーン》《百発人形マグナム》《黒神龍ザルバ》を墓地に送る。そして、墓地に送ったものとは別の《神羅ヘルゲート・ムーン》を出してコンボをスタートさせる。一般的なのは《母なる星域》からの踏み倒しだ。

【クリーチャー】
【種族】ドラゴン・ゾンビ
【文明】闇
【パワー】5000
【コスト】4

■このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、相手はカードを1枚引く。

【呪文】
【文明】自然
【コスト】3

■バトルゾーンにある自分の、進化ではないクリーチャーを1体、マナゾーンに置く。そうした場合、自分のマナゾーンにあるカードの枚数と同じかそれ以下のコストを持つ進化クリーチャーを自分のマナゾーンから1体選び、バトルゾーンに出す。

 最初に場に出した《神羅ヘルゲート・ムーン》をヘルゲートA、墓地にいる《神羅ヘルゲート・ムーン》をヘルゲートBとしよう。ヘルゲートAが出ると、墓地からヘルゲートB、《百発人形マグナム》《黒神龍ザルバ》を含む墓地のクリーチャーすべてが場に出る。この時、ヘルゲートBは究極進化クリーチャーであるから、ヘルゲートAの上に乗る。もちろん相手もクリーチャーを場に出すが、その後、「クリーチャーが場に出た時に誘発する効果」をターンプレイヤーのものから解決していく。ここで、《百発人形マグナム》の効果を解決し、《黒神龍ザルバ》、ヘルゲートBを破壊する。そして、待機させていたヘルゲートBの効果を解決すると、ヘルゲートA、ヘルゲートB、ヘルゲートのAの下にいたクリーチャー、《黒神龍ザルバ》が場に出る。するとまた《百発人形マグナム》が誘発するため、ヘルゲートAを破壊する。以降、ヘルゲートAの効果で蘇生→《百発人形マグナム》で破壊→ヘルゲートBの効果で蘇生→《百発人形マグナム》で破壊、のループが発生する。そして、こうして蘇生と破壊を繰り返す中で《黒神龍ザルバ》のcip効果が繰り返しストックされていき、相手に山札から1枚ドローすることを延々と強いることで、相手はライブラリアウト負けを余儀なくされる。

 これぞ、卓上で繰り広げられる輪廻の縮図だ。仏教では、繰り返される生と死は即ち苦であり、その輪廻から解脱を果たすことで悟りが開かれると説かれる。即ち、卓上で幾度となく繰り返される生と死の中で、対戦相手の山札を全て引かせることで解脱へと導くのだ。

 このように、単体では評価されづらいカードに対してシナジーを見出し、コンボとして具現化する。決まった瞬間は見るもの全ての視線が釘付けになることだろう。見いだされたシナジーから放たれるコンボはまさに芸術なのだ。

 こうした構築で環境において猛威を振るったアーキタイプとしては、【メルゲループワンショット】が挙げられるだろう。元々デュエマ公式コンテンツの「デッキ開発部DASH」でループ自体は考案されていたが、Team静岡CSのGAJIRABUTE選手が発掘した《超電磁マクスウェル Z》と《ルナ・コスモビュー》の組み合わせによって、致死打点が形成されることが判明。なお、GAJIRABUTE選手は第10回静岡CSの決勝トーナメント実況生中継において「メルゲを殿堂させた男」として紹介され、同様に「ジョバンニを殿堂させた男」パタ@いっせー選手との死闘を演じている。この両者の直接対決は「怪獣大決戦」とまで言われた。

1-3. 常識に囚われないデッキ

 常識を度外視すると、デュエマはいくらでもデッキを産み出すことが出来る。しかしそれが醜いアヒルの子のまま死を迎えるか、美しき白鳥となって飛び立つかは腕が問われる。

 有名所では【シザー・愛】だろう。《シザー・アイ》、《シザー・ラブ》といったクリーチャーをクロスギアや呪文などで徹底的にサポートするデッキだ。《シザー・アイ》サポートのために全てを投げ打つその姿勢はまごうことなき電波である。最近では《シザー・アイGR》が登場したことで、各種オーラやGR召喚サポートなども搭載しやすくなったことは追い風である。

【クリーチャー】
【種族】ゲル・フィッシュ
【文明】水
【パワー】3000
【コスト】4

-

 また、「起源神」のようなあまり注目されないカテゴリや、「サバイバー」のような忘れた頃に強化が行われる種族などを実戦レベルで戦えるように手を尽くすのも一種の電波デッキだ。こうしたデッキは環境で使われないが故に「わからん殺し」を簡単に狙うことも出来る。デュエマを始めて日が浅いプレイヤーはこうしたデッキへなんとか対処しようとすると後手後手に回り、プレイ歴が長いプレイヤーもカードプールが広がっているが故にどのような方向に強化されているのかを把握できない。

 これらの原動力は「俺の好きなカードで勝ちに行く」という確固たる意志である。時に愛は環境を打ち砕く原動力となる。その最たるものが、第4回静岡CSで並み居る強豪を打ち倒した【キリコキュービック】であり、第5回静岡CSで実況をして「山から化け物が降りてきた」と言わしめた【青黒落城】であり、第10回静岡CSの実況卓で解説を務めた全国覇者2人を絶句させた【5cランデス】であり、第2回レジェンドCSで並み居る強豪を屠り続けた【緑単ループ】なのだ。なお、【5cランデス】は大会後に競技環境における使用者が増えているし、【緑単ループ】は環境を動かすほどの衝撃をプレイヤー間に与えたのは周知のとおりだ。しかも、第2回レジェンドCSで【緑単ループ】を手に優勝した「緑単の魔術師」ロマサイ選手は、キーパーツであった《蛇手の親分ゴエモンキー!》の殿堂入り後に行われた第9回静岡CSにおいて《大勇者「鎖風車」》を使用したループを開発、実戦に持ち込んで優勝を掻っ攫っている。

 電波デッキを単なる「わけのわからないデッキ」と侮るなかれ。先述の【ジョバンニスコール】や【メルゲループワンショット】の例からもおわかりのように、それは時として環境を激変させる震源地へと化ける恐れがあるのだ。

2. 電波デッカーの思考回路

 大会に一定数潜む電波デッキ。それを作り出す電波デッカーたちは自らの興味の赴くままデッキを組み上げ、時としてその産物は環境を狂わせる力を発揮する。そんな電波デッカーはどのような考えを持っているのか、その思考の一端を覗いてみよう。

2-1. オリジナリティに命を賭ける

 まず、彼らの思考回路の根底にあるのはオリジナリティだ。ただ勝ちに行くだけならば環境のデッキをコピーしたり、手を加えるにしても環境に合わせたメタカードを少量入れたり、自分の手に馴染むように枚数を調節したりするくらいだろう。

 ところが電波デッカーは違う。最初の着想は勝利に限定されない。例えば【ヘルゲートムーンライブラリアウト】の場合は「無限に蘇生と破壊を繰り返す」という現象を見出したところからスタートしているし、【紅蓮ゾルゲ】ならば「《紅蓮の怒 鬼流院 刃》がいる状態でハンターを自前でバトルさせ続けると延々とハンターが出てくる」という現象が着想の源泉だ。これ自体は勝利に結びつくものではない。だが、この現象を発見したらそれをどうやって「勝利」に結びつけるかを考え始める。

 そう、勝利を求めるだけならば環境デッキを使えばそれでいい。しかし電波デッカーは「自分が考えた手段のほうが美しい/かっこいい/楽しい」という発想のもとで環境デッキを相手取る側に回ることが多い。仮にすでに出回っている環境デッキを使うにしても、そこに「魔改造」というプロセスが入る。ただ勝つのではない、自分が考えた手段で勝ちに行くというある意味無謀な覚悟をもってデッキ構築に挑むのが電波デッカーという生き物なのだ。

 さらに、電波デッカーは、「このカードはAがないから弱い」という発想をしない。例えば、先述した《はずれポンの助》の例では、「たくさん並ぶけどシールドをブレイクできないから弱い」と評価されがちだが、そこで「《はずれポンの助》以外のクリーチャーでシールドを全てブレイクすればいい」という考え方をして、《はずれポンの助》とシナジーのある《ジョット・ガン・ジョラゴンJoe》を採用している。Aがないなら他のカードにAを持たせたり、Aの役割を担わせたりすれば良い、と考えるのが電波デッカーだ。おそらくその究極系が【シザー・愛】だろう。

2-2. 全ては「美しき勝利」のために

 着想を得たら、それを使ってどうやってゲームにおける勝利条件を満たすかを考える。流石に電波デッカーも勝ちたいという欲求はある。ただ勝つための手段として自分が見出したコンボや構築を活かしたいだけなのだ。相手に延々とドローや墓地送りを強いてライブラリアウトを狙ったり、致死打点を作り上げてワンショットキルに向かったり、特殊勝利条件を満たしたり、といった具合だ。とりわけ、テキストに「自分はゲームに勝つ」と書いてあるようなカードは電波デッカーの格好のおもちゃである。如何にしてその勝利条件を満たすか、という目的を満たすためならば、手段を一切選ばない。

 カードの評価の尺度も独特なものがある。例えば、《終末の時計 ザ・クロック》を見て、普通のプレイヤーは「相手の攻撃の手を止めて反撃に転じられる強力なカード」と考えることだろう。しかし中にはそれよりも先に「延々と強制効果のcipを解決し続ける過程でこのカードを出すと任意のタイミングで自分のターンごと処理を強制終了できるから強いよな!?」という評価を下すような奇人も存在する。

【クリーチャー】
【種族】アウトレイジMAX
【文明】水
【パワー】3000
【コスト】3

■S・トリガー(このクリーチャーをシールドゾーンから手札に加える時、コストを支払わずにすぐ召喚してもよい)
■このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、ターンの残りをとばす。(次のプレイヤーのターンをすぐに始める)

 電波デッカーにとって、カードの評価は「自分のデッキで使えるか否か」の2択だ。彼らの頭に「グッドスタッフ」という発想はない。自分のデッキでのコンセプトに合うならば弱いとされているカードや使いづらいカードも積極的に採用するし、自分のデッキのコンセプトから外れるならばたとえそれが環境で使用されるカードでも採用しない。やや極端な例だが、6コスト以上の中・重量級クリーチャーが中心となるデッキについて、コストが非常に重い《引き裂かれし永劫、エムラクール》も、それを出せるように作るのであれば採用圏内であるし、逆に様々なデッキで強力な展開力を発揮している《マリゴルドⅢ》も、そのデッキとのコンセプトに合わないという理由で不採用になる。

【クリーチャー】
【種族】エルドラージ / ゼニス
【文明】ゼロ
【パワー】15000
【コスト】15

■飛行(このクリーチャーは、飛行を持たないクリーチャーから攻撃もブロックもされない)
■T・ブレイカー
■このクリーチャーが召喚によってバトルゾーンに出た時、このターンの後もう一度自分のターンを行う。
■このクリーチャーが攻撃する時、相手はバトルゾーン、シールドゾーン、マナゾーンにある自身の表向きのカードを合計6枚選び、墓地に置く。
■エターナル・Ω(このクリーチャーがバトルゾーンを離れる時、かわりに手札に戻す)

【GRクリーチャー】
【種族】グランセクト / デリートロン
【文明】自然
【パワー】3000
【コスト】4

■マナドライブ6(自然):このクリーチャーがバトルゾーンに出た時、自分のマナゾーンのカードが6枚以上で自然文明があれば、コスト5以下の進化ではないクリーチャー1体またはコスト5以下のオーラ1枚を、自分のマナゾーンからバトルゾーンに出してもよい。 (ゲーム開始時、GRクリーチャーは山札には含めず、自分の超GRに置き、バトルゾーン以外のゾーンに行った場合、超GRの一番下に戻す)

 また、先程も少しだけ触れたが、環境デッキを見て「これは自分の美意識に反する!」「こうした方がもっと楽しい!」「デッキタイプを誤認させて相手を騙してやる!」と考えた瞬間に魔改造を施し、一見環境デッキに見える別の何かを作ってしまうことも往々にしてある。例えば、【クローシスドギラゴン剣】のふりをした【ドグライーターリアニメイト】は、【ドギラゴン剣】以上の展開力と、場もちの良さ、除去耐性を得る。【緑単サソリス】のパーツを一部入れ替えて【緑単パインJr.退化】を作れば、いきなり致死打点をぶつけに行くことも可能だ。かくいう私は過去に、「【バッシュギヌス】は確かに強いけどなんで超次元ゾーンに《ヴォルグ・サンダー》を4枚も入れなきゃいけないんだ」という謎の反感から《ヴォルグ・サンダー》が1枚でもライブラリアウトを可能とする手段として【紅蓮ゾルゲ】の要素を組み合わせた異形のデッキ、【バッシュゾルゲ】を組んでいる。


 相手の認識の外を狙い、相手の思考すら手玉に取ってみせる。普段環境のデッキのみに意識を向けているプレイヤーにとって、これほど戦いづらい相手はいないだろう。そうして見事に勝利を収め、呆気にとられたような相手の顔を見ること、それこそが電波デッカーの無上の喜びなのだ。

2-3. 他人に理解されない「美学」

 電波デッカーたちは、他者に理解されない「美学」を何かしら持っている。先述した独自の尺度によるカードの評価だけでなく、構築や使用するカードについて何らかのこだわりがあるのだ。

 「緑単の魔術師」ロマサイ選手は、あまりにも緑単が好きすぎるあまり、ブロック構築で行われた革命ファイナルカップ全国大会2016のエリア予選の場にて、全試合を終えた後「これで緑単に戻れる……!」と感極まって言い放ったエピソードがある(なお、その時ロマサイ選手の対戦相手は私だった。ちなみにその後、当の彼から《龍覇 サソリス》に関する持論を延々と聞かされるハメになった)。彼の【緑単ループ】への愛情は本物で、《ベイB ジャック》をはじめとする複数のカードが殿堂入り・プレミアム殿堂入りとなった報を聞いた際、彼が驚きと悲しみのあまり放った慟哭の叫びは天地を揺るがす程であったと目撃者は語る。それほどまでに、彼らは、自分が産み出したデッキを溺愛してやまない。

 また、デッキの呼称についても、例えば【緑単キンコングループ】を【緑単ワラシベイベー】と呼称すると一部のプレイヤーが怒りに打ち震えて「このデッキは【緑単キンコングループ】だ!」と猛抗議するように、譲れないこだわりを持つ者が一定数存在する。だからもしもここで紹介したデッキ名で「そんな呼び方で呼ぶんじゃねぇ!」というのがあったとしても、まぁ、広い心で許して欲しい。君のデッキは君の好きなように呼んでくれ。

 他にも、「デッキのキーカードは必ず3枚投入する」「ハイランダーこそ最も美しいデッキの形である」「白鳳の母親が描かれた《ヘブンズ・ゲート》以外使いたくない」「シールドトリガーの枚数は16枚じゃないと落ち着かない」「シールドを割るデッキは作りたくない」といった、大小様々なこだわりを持つ電波デッカーは少なくない。

 そして、彼らには共通するこだわりがある。「自分が組んだデッキで美しく勝利する」ために、環境デッキを敢えて使用しないという覚悟である。当然、環境のトップメタを相手にする以上勝利を手にするのは茨の道であるし、結果を残せないことが多いだろう。しかし、だからといって彼らは負けるためにデッキを組んでいるわけではない。ひとつの環境デッキに負けたのならば、勝てるように調整をするか、そのアーキタイプは勝てないと割り切って他の環境デッキに勝てる構築を目指す。勝利はあくまで最低条件、しかしただ勝つだけでは物足りず、「こだわり」の中で勝ちたい。そんな人種が電波デッカーなのである。

2-4. 殿堂入りは「勲章」

 電波デッキをただのローグと侮るなかれ。時として、電波デッカーが開発してしまったデッキはゲーム環境を激変させてしまうことがある。【緑単ループ】、【バッシュギヌス】、【メルゲループワンショット】、【ジョバンニスコール】の例を見れば一目瞭然だ。

 当然、環境であまりにも暴れすぎると、殿堂レギュレーションが改定された時に、そのキーカードは殿堂入りやプレミアム殿堂の憂き目に合う。そのデッキをもう使うことができなくなるのだ。だが、しかし、ここで殿堂入りの「建前」を見てみよう。

「殿堂入りカード」とは・・・?
その強さ故に「デュエル・マスターズ」において大きな影響を与えた「切り札」の事。
殿堂入りカードに認定されると、デッキに1枚しか入れる事ができないぞ!

デュエル・マスターズ公式サイト「 殿堂レギュレーション」より引用 https://dm.takaratomy.co.jp/rule/regulation/

「プレミアム殿堂入りカード」とは・・・?
デッキに1枚でも強すぎる「特別な切り札」だけに与えられる最強の称号!
認定されると公式・公認イベントではデッキに1枚も入れられないぞ!

デュエル・マスターズ公式サイト 「殿堂レギュレーション」より引用 https://dm.takaratomy.co.jp/rule/regulation/

 おわかりだろうか。「切り札」「最強の称号」という言葉からも、建前上は誉れ高き称号であり、ある意味公式から「このデッキは強かった」とお墨付きを貰ったと言えるのだ。つまるところ、殿堂入り、プレミアム殿堂とは、電波デッカーたちにとってはこれ以上無いほどの称賛となる。そして、世の中に一定数いる電波デッカーたちはいつか、自分の作ったデッキが強さを証明し、環境で暴れ、そしてキーパーツが殿堂入りすることをどこかで望んでいる節がある。

 それに、電波デッカーたちは決してめげない。リペアが組めるのであればリペアの方策を考えるし、リペア不能ならば、新たな電波デッキを産み出すだけのことなのだから。

終わりに

 さて、長い記事となってしまったが、電波デッキの世界について全てを語り尽くしたわけではない。電波デッキの深淵は、私の筆で全てを記すにはあまりにも深すぎる。ただ、電波デッキを愛する者として、読者諸兄らにこれだけは伝えておきたい。

 電波デッキを作り、それを手に大会に出るならば、「これでBeautifulに、Stylishに、Crazyに、勝ちに行く」という意識と覚悟を持つことだ。Tier1のデッキ? 相手が強豪プレイヤー? そんなもの知ったことか。目の前に座った「幸運な」対戦相手の顔が驚愕に、恐怖に、絶望に歪むのを期待するだけだ。相手が「効果を確認してもいいですか」、とこちらのカードを不安気に指し示してきたら嬉々として見せつけてやれ。それで相手がこの後起きることを理解できないならば、OK、やってしまえ。その身体に、脳髄に理解させてやろう。自分が作り上げた芸術的なデッキの魅力を、未知の世界を垣間見た時の恐怖を、「対処できなかった」ことへの後悔を、そして自分が産み出してしまったコンボの美しさを!

 負けてしまっても、感想戦で対戦相手と会話することがあるならば、ギミックを説明してあげるのが親切というものだろう。相手がこのデッキの意図を知り、その表情が驚愕に凍りついたり、あまりのことに爆笑してしまったのなら、おめでとう、ある意味で君は勝っている。

 さぁ、ようこそ電波デッキの深淵なる世界へ。ここから先は君達自身が潜っていく番だ。何、一度知ってしまえばもう普通のデッキは組みたくなくなるだろう。そしていずれ、君が作った電波デッキが環境を席巻する日を、私は願ってやまない。

「ここまで記事を読んでくれてありがとな! 電波デッキでの常勝は修羅の道、だけど次に環境入りするのは……君の新たな電波デッキかもしれないぜ!」──電波の影 レビーテー


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