DMというゲームが誕生してから17年目を迎える今年。
17年という年月は、このカードゲームを大きく変容させ、数えきれないほど多くのカードたちが環境という表舞台で活躍してきた。
しかし、盛者必衰は世の常。
カードゲームの宿命たるパワーインフレの波は、新たな英雄を生み出す陰で、それを上回る数のカードたちを表舞台から追いやった。
本記事は、そんな表舞台から姿を消して久しい英雄たちの歴史と彼らのいまに迫るドキュメンタリーである。
目次
1 深紅の竜人
―DM界某所
取材の連絡をした私が指定された場所に向かうと、威勢の良い掛け声とともに空気を切り裂くような音が聞こえてきた。
美しい深紅の鱗が覆う肉体は鍛え抜かれ、一部のたるみもなく引き締まっている。一線を退いたにもかかわらず、鎧をまとい、トレードマークである二本の刀の素振りに精を出す彼の表情には、今もなお数々の死線を潜り抜けてきた武人の風格があった。
私が到着してからもしばらく素振りを続けていた竜人は、やがてその手を止めると、静かに息を吐いた。
「すみません。お待たせしてしまって。剣を振っていないとどうにも落ち着かなくて。」
そういって、気さくに笑う彼からは、ドラゴンという種族特有の驕りや威圧といったものを感じない。なるほど、強さだけではなく、人格的にも優れている。ファイアー・バードたちが彼を慕うのも頷けるというものだ。
《爆竜GENJI・XX》。
6コストのドラゴンでありながら7000という高いパワーを誇り、スピードアタッカー、Wブレイカー、ブロッカー破壊と、まさにビートダウンデッキのために生まれてきたような破格の能力を持つ彼が、今回の取材相手だ。
出典:デュエルマスターズ
さて、取材に入る前に、改めて、彼のプロフィールについて確認しておこう。
彼が登場したのは、覚醒編第3弾、超竜VS悪魔(エンジェリック・ウォーズ)。ベリーレア(MIRACLEカード)として収録された彼は、その性能の高さから、覚醒編におけるDMのパワーインフレを象徴するカードとして多くのプレイヤーやクリーチャーたちに衝撃を与えた。
中でも、彼の登場にひと際衝撃を受けたという人物はこう語る。
出典:デュエルマスターズ
「あいつを一目見た瞬間、悟りましたよ。あぁ、オレの時代は終わったんだなって。いや、だって、ずるいでしょ。パワー7000ですよ、《威牙の幻ハンゾウ》で死なないんですよ。おまけに、ブロッカー破壊って。やりすぎですよ。」
ビートダウンデッキの天敵であった《威牙の幻ハンゾウ》。このカードで破壊されるか否かを分けるパワー6000は俗にハンゾウラインとも呼ばれ、カードの強さを図る一つの大きな指標でもあった。
取材に応じてくれた《ボルシャック・大和・ドラゴン》氏も、決して弱いカードではない。むしろ、登場当初は、GENJI氏と同じくパワーインフレを象徴するカードとして大きく取り上げられていた。「マルコビート」を筆頭とするビートダウンや「連ドラ」にも採用され、スピードアタッカーの強みを存分に生かし、プレイヤーの勝利に大きく貢献していた。
しかし、パワーインフレとは残酷なものである。ハンゾウラインを超えるパワーを持ち、ビートデッキとの相性がいいブロッカー破壊効果を持つGENJI氏と比べられてしまうと、彼のカードパワーはどうしても劣って見えた。
「そこからは、あっという間でしたよ。オレのいたポジションに入れ替わるようにあいつが入って、大会なんかでも結果を出し始めて。悔しかったですよ。」
当時を振り返り、悔しさをにじませる大和ドラゴン氏。ハイパースペックを持った竜人の登場は、奇しくも同じ武人の活躍の舞台を奪う結果となってしまった。
かくして、DM界に大きな衝撃を与えながらも、彼は環境という表舞台に頭角を現していくことになる。
2 鮮烈なデビュー戦と挫折
―はじめて、表舞台に立った時の感想を教えてください。
「そうですね。単純にうれしかったですね。ありがたいことに、登場からすぐに多くの方に注目していただけて。僕を中心にデッキを組んでくださる方がいたり、逆に僕を意識したデッキを組んでくださる方がいたり。チャクラさんも注目してくださったりして、本当にうれしかったですね。」
出典:デュエルマスターズ
チャクラさんと、彼がそう呼んだのは覚醒編環境で猛威を振るった《時空の雷龍チャクラ/雷電の覚醒者グレート・チャクラ》氏のことであろう。緩やかな覚醒条件と解除効果を持つ高パワーのTブレイカー獣は、光のサイキック・クリーチャーの中でも屈指の強さを誇った。
彼は、そんなグレート・チャクラ氏を効果により破壊し、チャクラ面へと裏返させ、7000というパワーの高さで殴り倒すことができた。そのため、プレイヤーの中には、彼は猛威を振るうチャクラのストッパーとして生み出されたのではないかと噂する者もあった。
「あと、これはお尋ねされていることとは違うのかもしれないですけど。」そう前置きしたうえで、彼は楽しそうに話を続ける。
「僕、いわゆる背景ストーリーとか、恐れ多いことに、勝舞さんの相棒として漫画やアニメでも活躍の機会をつくっていただけたんです。それもあってか、子供たちにも切り札として使ってもらう機会が多かったのは、本当にうれしかったです。」
切札勝舞氏。言わずと知れたDMの初代主人公である。
長らくDMの歴史を支えた伝説的主人公の覚醒編における相棒として、実質、彼の最後の相棒として活躍したGENJI氏。彼とともに戦う勝舞氏の雄姿にあこがれて、彼をデッキに入れていたプレイヤーも数多くいただろう。
ベリーレアという比較的手に入れやすい?レアリティに加え、だれの目から見てもわかる強力なテキスト。トッププレイヤーから初心者まで数多くのプレイヤーの相棒として活躍してきた彼は、「倒したムルムル(《光陣の使徒ムルムル》のこと)の数は、星の数ですよ。」と歯を見せて笑う。
そうして、一躍時の人となった彼であったが、その栄華は長くは続かない。
彼が鮮烈なデビューを果たしたわずか三か月後、覚醒編最後を締めくくる覚醒爆発(サイキック・スプラッシュ)が発売される。同弾に収録された《時空の支配者ディアボロスZ/最凶の覚醒者デビル・ディアボロスZ》、同じく同弾に収録され全制覇挑戦パックvol4にも先行収録されていた《時空の凶兵ブラック・ガンヴィート/凶刀の覚醒者ダークネス・ガンヴィート》が環境に姿を現しはじめると、彼を旗印とするビートダウンは一気に苦境に立たされる。
出典:デュエルマスターズ
「やっぱり、きつかったですよ。《超次元バイス・ホール》から登場するディアボロスZの前では、自慢の二刀流も歯が立たないんです。覚醒編ラスボスの名に恥じない強さでしたよ。」
9000という破格のパワーに加え、クリーチャーの効果で選ばれないブロッカー。GENJI氏のアイデンティティであるブロッカー破壊能力も、かのラスボスの前では無力であった。
背景ストーリーでは、GENJI氏とストームXXという二人のヒーローが力を合わせた最強の勇者《超時空ストームG・XX/超覚醒ラスト・ストームXX》が、死闘の末打ち破った最凶のラスボスである。GENJI氏一人の力では、手も足も出なかったというのも無理からぬことなのかもしれない。
しかも、背景ストーリー上は敵同士として死闘を繰り広げた勇者とラスボスの二人が環境という舞台では仲良く手を組んで共闘をはじめる。最強と最凶が手を組んだらどうなるか、その当時の環境がどういう様相を呈していたのかは、今もなおこのコンビが環境に姿をのぞかせることから考えても、想像に難くないだろう。
3 全盛期と陰り
―GENJIさんがこれまで一緒に戦ってきた中で印象に残っている方について教えてください。
「本当に多くの方々と組ませていただきましたが、やっぱり印象深いのは、Λ(《超電磁コスモ・セブΛ》)とか、ミランダ(《次元流の豪力》)、カモン(《カモン・ピッピー》)とリュウセイくん(《勝利のリュウセイカイザー》)のコンビですかね。彼らが先陣を切って、僕が決めるというのが必勝パターンで。いつも、おいしいとこどりしちゃって申し訳なかったですけどね。」
最凶を最凶たらしめていた《超次元バイス・ホール》と《時空の支配者ディアボロスZ/最凶の覚醒者デビル・ディアボロスZ》のプレミアム殿堂超次元コンビが発表され、DMも新たな時代を迎えた。
主人公が切札勝舞氏から弟の勝太氏に交代し、エピソード1がスタートすると、超強力ギミックである超次元ゾーンはさらなる進化を遂げることとなる。
中でも、エピソード1初期からGENJI氏とともにビートダウンを支えてきたのが《超次元シューティング・ホール》と《ガイアール・カイザー》の組み合わせだ。彼らの登場により簡単に繰り出されることとなったスピードアタッカーに恐怖したプレイヤーも多いことだろう。
そして、エピソード1も中盤から後半に差し掛かると、GENJI氏の口からも説明のあった《超電磁コスモ・セブΛ》や超強力サイキッククリーチャーである「勝利」シリーズが登場し、GENJIの名は彼らとともに再び全国に知れ渡ることとなる。
出典:デュエルマスターズ
《超電磁コスモ・セブΛ》。
かつてビートダウンにおけるドローソース兼アタッカーとして環境を荒らした《エンペラー・マルコ》氏を彷彿とさせるドロー加速能力をもちながらも、同氏よりも緩い進化元、高いパワーで瞬く間に環境の一角を担った超新星である。マルコ氏とも戦線を共にし成果を上げたことのあるGENJI氏のもとに、Λ氏から共闘の誘いが来るのは必然であった。
出典:デュエルマスターズ
いまなお、その汎用性の高さから超次元ゾーンを採用しているデッキタイプでは、必ず見るといっても過言ではない「勝利」シリーズ。覚醒編から続いた超次元の集大成として、エピソード1を締めくくるにふさわしい性能を持つ彼らの登場により、超次元に関連する様々なカードが大幅に強化されることとなった。
中でも、《次元流の豪力》、《カモン・ピッピー》と《勝利のリュウセイ・カイザー》のコンビは想像を絶するほどの相性の良さを見せつけた。もともと、サイキッククリーチャーが増えれば増えるほど強化されていくデザインということもあって、彼らの評価は新弾が出るたびに更新され続けていったが、でかい《停滞の影タイム・トリッパー》とも揶揄される《勝利のリュウセイ・カイザー》という最高の相棒が登場したことにより、その評価は頂点へと達した。
特に、《フェアリー・ギフト》とのコンボは凶悪で、わずか3マナで3打点+マナタップインという恐ろしい盤面をいともたやすく作り出すことができてしまった。このコンボの凶悪さは、今現在、《次元流の豪力》がプレミアム殿堂入り、《カモン・ピッピー》、《フェアリー・ギフト》が殿堂入りと、同コンボに関連するカードに重い規制がかかっていることからもうかがい知れるだろう。
そして、もともとビートダウンに高い適性を持つGENJI氏自身も《フェアリー・ギフト》との相性は悪くなかったため、凶悪コンボ「ギフトミランダ」、「ギフトカモン」のフィニッシャーとして採用されることになったのである。
このように、超強力な仲間を見つけ、環境で活躍する彼であったが、「ギフトミランダ」や「ギフトカモン」の横暴さを公式が見過ごすはずもなく、主要パーツには次々と殿堂規制がかけられていく。
そして、戦友を失い、失意に沈む彼に追い打ちをかけるように、環境の高速化は進んでいき、徐々に彼は表舞台から居場所を失っていった。
4 ニューヒーローの誕生と・・・
そんな彼の進退を決定づけたのは、エピソード3でデフレした環境を破壊すべく、超次元から遣わされた新兵器「ドラグハート」を操る「ドラグナー」《龍覇グレンモルト》の登場であったという。
ドラゴン・サーガを代表する彼は、愛剣《銀河大剣ガイハート/熱血星龍ガイギンガ》とともに、勝太氏のエースクリーチャーとして、アニメ・漫画・ゲーム、対戦環境に至るまで、縦横無尽の活躍を繰り広げた。
出典:デュエルマスターズ
彼の愛剣は、比較的達成の容易な龍解条件でありながら、龍解することによりパワー7000以下のクリーチャーを破壊するというおまけ付きの、極めて除去のしにくいスピードアタッカーとなる。まさに、超高レアリティのダブルビクトリーレアにふさわしい性能を持ったカードの登場にDM界は大きく揺れた。
ビートダウンが喉から手が出るほど欲しかった除去のされにくいフィニッシャーの登場により、モルト、ガイギンガのペアを主軸に据えた新たなビートダウンデッキは驚異的なスピードで環境入りを果たし、以降も環境で猛威を振るうこととなる。
―同じ火文明の6コストクリーチャーであり、求められる役割もかぶっている強力なライバルの出現に、GENJI氏は何を思ったのか。
「周りの仲間たちに日に日についていけなくなっているのは感じていました。でも、弱音を吐いたらそこで終わりじゃないですか。だから、まだまだやれるって、新しいスタートデッキにも採用されたじゃないかって、自分にそう言い聞かせて頑張っていたんです。でも、ガイギンガを見たときに、大和先輩が僕に向かって言った言葉の意味がようやく分かったんです。」
自分の時代は終わりだと。
彼は、短く吐き出すようにそう告げた。本取材中、一度も曇ることのなかった彼の表情が大きくゆがむ。
「モルト君やマナロック(《メガ・マナロック・ドラゴン》)のような唯一無二の個性が僕にはない。みんなが当たり前のようにドラゴンやスピードアタッカーを持っている今の時代では、僕の個性は埋もれてしまう。」
シンプルなテキストのカードは強い。
昔からDMを遊んでいたプレイヤーの間では常識と化していた格言の一つである。彼もまたそんな格言を体現したような存在であったが、インフレが進んだ現在、その能力のシンプルさが、かえって彼を苦しめていた。
「一時は、自暴自棄になって腐っていたこともありました。インフレした環境でもう俺の居場所なんてないって、変わってしまったDMを嘆き、怒りに身を任せて暴れたこともありました。」
出典:デュエルマスターズ
懸命に鍛錬に励んでいた彼からは考えもつかない衝撃的な発言に、私も思わず言葉を失う。しかし、私の不安とは裏腹に、そう言った彼の表情には先ほどまでの険しさはなく、むしろ晴れ晴れとした笑顔があった。
「でも。」と言葉を続けた彼の姿に、私はなぜか彼の先輩である武人の姿を思い出していた。
5 表舞台から姿を消しても
私の取材に応じ、GENJI氏に対する思いの丈を吐き出してくれた大和ドラゴン氏は、彼に対する愚痴をひとしきり言った後、「でも。」と言葉をつづけた。
「たしかに、今も悔しい思いはあります。でも、最近は、オレの先輩たちもそうやってオレたちのことを見てきたのかなって、そう思うようになって。なんていうか、歴史は繰り返すっていうんですか。過去と今、未来はつながってる、自分たちがいるから今のDMがある。そう思うと、今表舞台にいないことを嘆くんじゃなく、過去あの場所に立てたことを誇りに思おうと、多少は前向きに考えられるようにもなりました。」
その顔には、DM黎明期から主人公を支えてきたボルシャックの一族として、極神編を代表する切り札の一枚として、DMの歴史を支えてきた者としての矜持があった。その発言に呼応するように彼が身にまとった《竜装 センゴク・トッパアーマー》も輝きを放つ。
・・・
「たとえ、僕が表舞台に立てなくなったとしても、僕がそこにいたという事実が揺らぐことはない。僕が表舞台から姿を消しても、僕とともに戦った仲間たちとの思い出は残り続けます。」
先輩武人同様、晴れやかな表情でそう言い切った彼の表情には、初代主人公の最後の相棒としての使命を全うし、DMの歴史を築いてきた者としての誇りがあった。
表舞台から姿を消しても思い出には残り続ける、そんな彼の言葉を裏付けるように、彼はDM15周年を記念して発売された「ゴールデンベスト」に覚醒編を象徴するカードとして再録を果たしている。
・・・
「ただ、僕も表舞台に戻ることをあきらめたわけじゃありませんけどね。」
取材も終わり、という運びになって、GENJI氏から突如、爆弾発言が投下された。私も急いでペンを持ち直し、彼に発言の真意を尋ねる。
「もちろん、難しいのは分かっています。客観的に見て僕のスペックでは今の環境についていくのは難しいだろうことも。でも、僕は切札勝舞の相棒ですから。どんなに無謀な戦いだったとしてもあきらめたりはしません。」
そう告げた彼の瞳が、今の発言は冗談などでは決してないことを確かに物語っていた。かつて、最凶のラスボスを前にしても決してあきらめることなく、戦い続けてきた武人は、インフレという宿命にもあらがおうというのか。
「それに、今は「クロニクル」もありますしね。頑張ってれば、僕のこともいつか取り上げてもらえるかもしれません。」
数年前から毎年発売され続けている「クロニクル」シリーズ。過去の人気デッキやテーマをリメイクするという人気シリーズだ。
過去にも「クロニクル」シリーズのカードは次々と環境入りを果たし、新シノビ「怒流牙」一族や《邪眼教皇ロマノフⅡ世》など、今もなお第一線で活躍を続けているカードもたくさんある。(そして、なんと今月9日には、「デッドゾーン」と「カイザー刃鬼」をリメイクした「クロニクル」シリーズ最新作が豪華デッキケースもついて、なんと税込4320円で発売!!!)
たしかに、ΛビートをはじめとするGENJI氏が活躍したデッキが、公式の目に留まるようなことがあれば。
もしかしたら彼の活躍を、再び表舞台でみるという未来もありうるのかもしれない。
不敵に笑って見せた彼の表情に、私はそんな未来の可能性を見てみたくなった。
6 終わりに
毎月毎月新しい商品が発売され、日々目まぐるしく変わっていく対戦環境。
そんな対戦環境を勝ち抜くために、日々新しいカードたちのテキストに目を走らせ、環境考察に精を出すのも、勿論素晴らしい取り組みだと思う。
しかし、我々が遊んでいるDMというカードゲームには17年もの歴史があるのだ。
たまには、ボロボロになってしまったストレージのふたを開け、ほこりをかぶったファイルのページを開き、過去の英雄たちに思いを馳せる、そんな時間があってもいいのではないだろうか。
表舞台から姿を消した英雄たちは、きっとあのころと変わらぬ闘志を今なお燃やし続けていることだろう。
※ほかにもこんなカードについて取り上げてほしい等の要望がございましたら、ぜひコメント欄に書いていただけるとありがたいです。
文責:一番ぼし