第1話⇒DMPランキング1位の異世界転生 ~転生した世界では俺しかGR召喚できませんでした~
――人に夢を見せるのが私の役割だ。
人が叶え得ぬ夢を、私は叶える。私は生まれつき、それが出来た。
だから人は私を尊び、そして私も人々に手を振って応えた。
そして人に夢を見せる力とは、人に恐怖を与えるにも都合が良かった。
……いや、違う。
私は首を振る。
全てはこの国を、この人々を守るため。
だから私は生み出さねばならなかった。
この国の魔導の粋を結集し。
全ては魔導で、その力でこの国を救うため。
だけど完成したそれでは、わずかにこの国を救うには足りなかった。
あと一つ、あと二つ。この力を使うための必要な何かが、欠けていた。
欠けたパーツ、それは何か。思考の果てに、ある一つの仮説に行き着いた。それに気付いいてしまった時、私は絶望も覚えた。
そう、そのパーツとは、“こちらの世界では”手に入らない。
その時、私は覚悟を決めたのだ。
私は“あちらの世界”と繋いでみせよう。
全てはこの国を、そしてこの人々を守るため。
さぁ、“計画”の始まりだ。
第二話 「妖精計画の始動」
ウィザー国の王都にあるグローリー城では、日々最新のアーキタイプ及びデッキリストの研究が行われていた。ここではデッキ作成だけではなく、コースト国がいかなるデッキを持ち、それらの弱点が何処にあるのかといった調査や検証も行われている。当然これらは、来るコースト国との戦争に備えるためのものだ。
そして伝令からの情報によると、コースト国には最新式の【不滅オロチ】や【ドロマー超次元】のリストがほぼ完成しており、実戦投入間近であるという。更には《爆竜 GENJI・XX》を4000枚近く買ったという報告も伝わっていた。加えて現在の軍の主力は、【黒緑速攻】を装備した1万の兵で、練度も高い。
対してウィザー国の主力はというと、“世界”によって主力カードを制限された旧式の【青単サイバー速攻】や《魔刻の斬将オルゼキア》が入ってない【ネクラコントロール】などが関の山だった。更に街に降りていくと流行っているのは【ターボドルバロム】のような、決して実戦向きではないデッキ群らしい。 要は、この国は慢性的に金欠なのである。どんなに国庫を漁っても、税金を上げても、既に値下がりしたようなカードを揃えることしか出来なかったのだ。 ウィザー国がこうなったのは、ひとえに前国王が横暴に他ならない。
前国王はどういうわけか、当時最新のデッキ研究を行っていた『デッキ開発部』という部署を突如閉鎖し、自身は高価カードのコレクションを始めたのだ。なお『デッキ開発部』が記録していた日報は、その日を最後に途絶えている。
結果、今でもウィザー国には約4000枚にも及ぶ《ギガベロス》のプロモが倉庫に眠っている。一体これらのためにいくらを費やしたのだろう。そしてその金銭があれば、どれだけのデッキを用意出来たのだろう。《ギガベロス》じゃなくてせめて《大勇者「大地の猛攻」》だったらまだ使う余地があったかもしれないのに……。
ちなみに直近では焦った調達担当が《アクアン》を名乗る商人に騙され、《爆竜 GENJI・XX》ではなく《GENJI・ボーイ》を500枚ほど買わされたらしい。
(せめて我が軍にも4000枚の《爆竜 GENJI・XX》があれば……) グローリー城の軍事研究室。その部屋の最奥に陣取る少女は、その姿に似付かわしくないほどの大きく溜め息を吐いた。 少女は何処か幻想的で淡い蒼色を帯びた羽根を生やし、彼女の周囲にはどういう訳か花が咲き乱れている。 この少女こそが、ウィザー国に住まう妖精族の長であり、ウィザー国の元帥でもある。彼女ら妖精族は代々デュエル・マスターズへの造詣が深く、新国王の下で彼女はウィザー国の軍事のトップに立った。
この妖精の姿をした少女の懸案事項は、主に二つだった。一つは避けがたいコースト国との戦争計画。だがこちらは、もう一つの懸案が解決すれば目途が立つ。故にもう一つの方が、極めて厄介であった。
「元帥、その、報告なのですが」
「なに起きですか?」
少女の眼前には、伝令が立っていた。その表情は、芳しくない。
「“世界”が不明なカードの起動を確認しました。……やはり、ユーリ・煌咲の召喚には成功していたようです」
「…………」
緊張の面持ちで、伝令がそう告げた。その不明なカードが《ジェイ-SHOCKER》であることを、この少女は知っている。
「なるほど、“成功”はしたんですね」
して、彼はどこへ? そう問うと、誰もが首を傾げるしかなかった。
そう、本来ならば目の前で我の命令を聞いている筈の勇者は、未だ行方知れずである。コースト国を討ち、ウィザー国に平和と安寧をもたらす使命を背負ったはずなのだが、どういう訳かここにはいない。
(面倒なことになったなぁ……)
計画では、この城の王室に召喚される手筈だったのだ。しかし途中で座標がズレてしまったらしく、召喚には成功したもののどこに着地したのかわかっていない。 しかしこの世界の何処かには、勇者が存在する。それは、《ジェイ-SHOCKER》の起動したことで確定した。
ユーリ・煌咲は、“こちらの世界”にいる。
この事実が持つ意味は大きい。
しかし肝心の行方がわからない。これは国の一大事だ。
万が一、彼が先にコースト国に接触していたのなら、そしてあろうことかコースト国に仕官してしまいでもしたら……これは大惨事である。短期的、長期的、どちらの視点でも痛手だ。全ての計画が総崩れする。
「元帥、ともかく我々は捜索に全力を尽します」
「はい、お願いします。可能な限り、迅速に」
少女は、二度三度トントンと机を指で叩いている。どうやら、思考を整理しているらしい。
ともかく存在するとわかった以上、手段を選んでいるような状況ではなかった。
「手掛かりはないかと思いますが、引き続き捜索の方をお願いします」
伝令は一礼をすると、下がっていった。その後ろ姿が見えなくなるのを確認した後、再度大きく息を吐いた。
少女は、手元に置かれた1枚のカードをじっと見つめる。
このカードは、いわば特注品だった。ウィザー国の魔導の粋を結集し、その結果生まれたカードだった。
話によれば、このカードはあらゆるクリ―チャーの召喚も阻止すことが出来る他、血の雨を降らすことも、時間の概念をも切り裂くような大嵐を呼ぶことも出来るという。少なくとも、“あちらの世界”では出来るらしい。
だがこのカードを起動するには“この世界の力だけでは”到底足りなかった。だから、活路を“あちらの世界”に求めた。
少女は、自身で作成した資料へと目を通す。資料の表紙には、少女の文字で『妖精計画』と記されていた。
――異世界より優秀なスキルを持つプレイヤーを召喚し、彼の力を借りて一騎当千のデッキ及びプレイヤーを作り上げ、質を以てコースト国との戦争に備える。
少女が描いた計画の概要とは、そういったものだった。物量で勝るコースト国に勝つには、この方法しかない。 この判断は間違っているとは思っていない。 もっとも、その計画自体は大きな賭けだった。次元の壁を破るという《超銀河弾 HELL》の実用化は困難を極め、そして一定の成功はしたものの、現在は大きな危機に直面している。
(やむを得ない、でしょう)
繰り返すが、手段を選べるような状況にない。こうなってはもう炙り出すくらいしか手がない。
「……九魔、九魔はいますか」
少女は突如、誰もいない天井の方角へと呼び掛けた。すると一瞬の静寂があった後、使い魔がその姿を現して目の前へと降りてきた。どうやら幻術か何かを使えるらしく、姿を見せずに天井裏で身を潜めていたらしい。
ちなみに着地にはバッチリ失敗し、足を抑えながら苦悶の表情を浮かべていた。
「どうしました? 飼い慣らされ過ぎて獣の本能を失いましたか?」
「いやぁ、酷いなぁ元帥。それで、何の用ですかい?」
この使い魔は尻尾が九本生えており、耳も側頭部ではなく頭の上に付いていた。本人曰く「妖魔」らしいのだが、少女は尻尾の数にちなんで「九魔」と呼んでいる。
「ひとまず、これを受け取ってください」
少女は、自身の使い魔に向かってデッキを次々と投げていく。九魔は尻尾を巧みに操りながら、投げられたデッキを9つまで見事キャッチする。なお最後の1個は尻尾が足りないので、キャッチ出来ずに顔面に直撃した。
九魔は顔を抑えながら、デッキの中身を確認し始める。
「《永遠のジャック・ヴァルディ》、ですか?」
「はい。そこにあるのは【ヴァルディビート】です。もちろん、《エンペラー・マルコ》は入ってませんよ。それがあれば、街で見掛ける大抵のデッキは倒せるでしょうね」
「……そりゃそうだと思いますが、どうしてそれが10個も?」
「九魔は腕が信頼出来る10人のプレイヤーを集めてください。そして彼らを野に放ちます」
「野に放つんですか」
「ええ。彼らには、街の人々を相手に辻デュエマをしてもらいます」
「辻デュエマ」
「そしてその辻デュエマを続けるうちにですね、完膚なきまでにボコボコにされるか、見ず知らずのカードが出てくる機会があるかと思います」
「……なるほど、そのプレイヤーがユーリ・煌咲であると」
「さすが、理解が早くて助かります」
少女は机に散らばっていたカード数枚をシャカパチしながら、にこやかに答えた。心なしか、少女の背後に浮かぶ花々も輝いているように見える。なおシャカパチについては目上の人の前でやると首を刎ねられても文句は言えないが、友人同士の間では特に咎められることはない。
「九魔。結論から言うと、負けるまで戦ってください。歯も立たないくらい、完膚なきまでに負けて、ありとあらゆる自信を失うような、そんな相手に出会うまで」
「いやいやいや」
勘弁してくださいよぉ、と九魔は首を振る。
九魔は十二分な実力者である。王宮の大会では優勝することもあった。そんな彼が、足が立たなくなるくらいまでボコボコにされたら、きっとそのとき九魔の目には、光が灯っていないことだろう。
だが少女は、ずっと笑顔だった。
「そう、貴方や貴方の仲間の実力を見込んでるからこそです。貴方は強い。だからもし、貴方たちを完膚なきまでに叩きのめせる人がこの国にいるのだとしたら――」
少女は一つ間を置いて、ニヤリと笑った。
「きっと、この国を救ってくれる人なのでしょうね」
「……嫌な話ですねぇ」
九魔は苦い顔をした。随分な無茶振りを持ち掛けられたものである。どう転んでも、自身かの身内がボッコボコにされるまで戦い続けねばならない。
「頼みますよ、九魔。ユーリ・煌咲をコースト国に渡す訳にはいきません。安心してください。どうせ彼も退屈している筈です。強い人の噂を聞いたら、飛びついてくることでしょう」
「気が乗らんなぁ」
「気が乗る乗らないの問題ではないのです、さぁさぁ」
少女は嫌がる九魔に手を振って、それでも渋る九魔を最後には部屋から叩き出した。断末魔のような抗議が聞こえたが、全て無視しておいた。
「さて、ユーリ・煌咲の捜索は九魔に任せましょう。私は――」
彼女は、自身の机に取り残された1枚のカードが見つめる。
このカードがユーリ・煌咲の力を借りて完成を迎えたとき、それはウィザー国を救うその切り札たり得ると、そしてコースト国の精鋭達が使うデッキにも難なく勝てると、彼女はそう信じていた。
《魔導管理室 カリヤドネ》――。
それが、このカードに刻まれた名前であった。
第三話につづく
登場人物紹介
妖精の少女(大妖精)
ウィザー国の軍事顧問にして、元帥。本名は不明だが性別は女性らしい。主に階級か「大妖精さん」と呼ばれている。
彼女はウィザー国に代々住まう妖精族の長であり、デュエルマスターズへの造詣が深い。彼女の作るデッキは非常に強力で先進的だが、前国王の度重なる失策の煽りを受け、ウィザー国の状況はボロボロだった。
窮地のウィザー国を救うべく、彼女は『妖精計画』を考案。その実行へと舵を切った。
イラストレーター: ぽんみれ(@supponponmire11)
九魔
大妖精に仕える使い魔。尻尾が九本生えていることから、「九魔」と呼ばれている。
デュエルマスターズの実力は確かなのだが、大妖精からの無茶振りに日々頭を悩ませている。
イラストレーター: ぽんみれ(@supponponmire11)
【オマケ】作中デッキリスト紹介
コースト国:【不滅オロチ】
コースト国:【ドロマー超次元】
コースト国:【黒緑速攻】
みんなも組んでウィザー国に攻め入ろう!
次回
DMPランキング1位の異世界転生 ~《超銀河弾 HELL》と謎の男「N」~