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デッキビルダーの口からは、しばしばこんな言葉が漏れる。
「相手を驚かせたい」
「相手を驚かせる」ために必要な要素とはなんだろうか。
例えば、ミステリー作品ではこのような謳い文句が用いられる。
「あなたは、最後の数分に騙される」
つまり、どんでん返しだ。
ゲームエンドの瞬間、どんでん返しをする。
そして、その瞬間からゲームエンドまでは短ければ短いほど良い。
あとは対戦相手と握手を交わし、ゆっくりと余韻に浸る時間を与えればいいのだ。
離縁状を突きつける時のように、
役満の手を開く時のように、
ロイヤルストレートフラッシュを開示する時のように、
ショウダウンの瞬間に相手の顔を凍りつかせ、その瞬間にはゲームエンドが確定する。
そう、エクゾディアだ。
餅、描かれる。
と息巻いてエクゾディアデッキを妄想していたのだが、エクゾディアは冒頭の妄言を叶えるには本当に向いていなかった。
【活路エクゾ】や【図書館エクゾ】に代表されるように、ドローを加速させたとしても、それが盤面や勝ち筋に繋がらないのであればエクゾディアを警戒させてしまう。
そもそもサーチにせよ墓地に落として拾うにせよパーツが見えた瞬間にネタが全て見えたようなものである。
赤いお兄さんの耳が大きくなることは面白くはあっても驚きではないのだ。
複数回のドローもサーチもサルベージもダメ、これはいっそ手品の練習でも始めた方がいいのでは?
しかし、今までの煩悶にこそ答えはあった。
「〇〇があるからダメ」は、裏を返せば「〇〇が無ければOK」なのだ。
ドローを加速させることがエクゾディアに繋がるのであれば、
サーチやサルベージがネタバラシに等しい行為なのであれば、
それらを一切行わずにエクゾディアを揃えれば相手は驚く、ということになる。
そう、
素引きである
現代遊戯王の速度を知らないのか?
餅、搗かれる。
コンセプトは決まった。ドロー回数を限りなく少なくし、かつその中でエクゾディアを揃える。わかりやすく言えば、一度に5枚ドローして5パーツ引けばいいのだ。やはり手品では?
さて、現代遊戯王には「LINK VRAINS PACK」という大変便利なパックがある。収録されたカードは各種テーマを強化しつつ、その緩い素材でありとあらゆるカード群に可能性を与えた金鉱脈である。
そして、そのパックの中に”それ”はいた。ありとあらゆるデッキに採用され、展開を主とするデッキでは見ないことは無い、もはやこいつがいれば何でも出来るのでは? とすら感じさせる宇宙最強のリンクモンスター、
ではなく、
《聖騎士の追想 イゾルデ》。
このモンスターは「デッキから装備魔法カードを任意の数だけ墓地へ送って」効果を発動する。
つまり、不要なカードを12枚落とせるのである。
《聖騎士の追想 イゾルデ》のサーチ+コスト+リクルート先でデッキは14枚減ることになる。これを何らかの何かで2ターン繰り返せば、デッキ40枚-初手5枚-14枚-次のターンのドロー1枚-14枚=6枚。
あとは、残りのカードを(ほぼ)全部ドローすればエクゾディアが(多分)揃う。
相手が山を掘っていたと思ったら金(エクゾディア)を掘り当てた。とんだ金鉱脈である。
ここまで来れば理論上デッキの半分以上装備魔法だしデッキはマッハ。
対戦相手にアハ体験を与え、脳年齢さえも若返らせる驚きのデッキ、
【エクゾディアの追想】の誕生である!!
餅、生まれる。
追想ではなく走馬灯では?
怒りとも悲しみとも取れる感情をお抱きになるのも尤もだが冷静にデッキを眺めてほしい。
まず、初動は《剛鬼 スープレックス》を含む剛鬼モンスター2体。《聖騎士の追想 イゾルデ》をリンク召喚し、カードを3枚サーチする。
その後、《聖騎士の追想 イゾルデ》で装備魔法を10枚墓地に送り、《異次元エスパー・スター・ロビン》を特殊召喚する。
40枚-初手5枚-サーチ3枚-コスト10枚-ロビン1枚=21枚。
次のターン、前のターンにサーチした剛鬼カードから同じ動きを行い、
21枚-ドロー1枚-サーチ3枚-コスト10枚-ロビン1枚=6枚。
そして、剛鬼カードでサーチした《剛鬼再戦》でモンスターを2体釣り上げ、《聖騎士の追想 イゾルデ》+《異次元エスパー・スター・ロビン》+剛鬼カード二種類で《鎖龍蛇 スカルデット》をリンク召喚。
ここで4ドローでエクゾディアが揃って勝ち。
コンセプト通り、ドロー一回でエクゾディアが揃ってしまった。
万が一ここでエクゾディアが揃わなかったとしても、 《鎖龍蛇 スカルデット》 の効果で《閃刀機-ホーネットビット》を戻し、《閃刀起動-エンゲージ》でサーチ、墓地に魔法が20枚くらいあるので1ドロー。
更に、《閃刀機-ホーネットビット》を発動、《鎖龍蛇 スカルデット》の効果で手札にあるであろう剛鬼カードか《The grand JUPITER》を特殊召喚し、トロイメアモンスターをリンク召喚、効果を発動。《鎖龍蛇 スカルデット》と相互リンク状態のため更に1ドロー。ここまで動ければドロー回数減らすというコンセプトに目を瞑ればまず間違いなくエクゾディアは揃う。
あれ……このデッキイケるのでは……?(錯乱)
《聖騎士の追想 イゾルデ》から呼ぶカードはイゾルデを守れてかつ延命手段にもなる《異次元エスパー・スター・ロビン》を採用、必然的に運悪く装備魔法を引きすぎた時のため《The grand JUPITER》を一枚忍ばせてある。
装備魔法を引きすぎているということは、手札コストが大量に余っている迷子の子猫ちゃんがにゃあにゃあとかわいいので抱きかかえて家の外まで案内してあげよう。この完璧なシナジー……!!
餅、霧散する。
ところで、このデッキを見たとき、きっと言葉では言い表せない「わくわく」を感じてくれたと思う。
どんな初手がくるんだ?
装備魔法が大集合してタワーバトルを始めるのは目に見えてはいるが、そんなこともなく意外とちゃんと回って「あれ、お前デッキだったの?」と自分がアハ体験出来るかもしれない。
装備魔法のストレージかな?
装備魔法のストレージかな???
お前もしかしてデッキじゃなかったの?
始めからわかりきっていたが、上記の動きで特殊勝利を達成するためには、
- 《剛鬼スープレックス》を含む剛鬼モンスター2体がいる
- エクゾディアパーツが1~2枚初手にある
- 《異次元エスパー・スター・ロビン》を(出来れば)引いていない
という「うーん、ちょっと難しいかな?」くらいの初手を要求するのだが、
上記の条件を事故の基準とし、
100回の初手を検証した結果、
事故率97%を記録した。
総武線も真っ青である。
餅、進化する。
ところで、お気づきかと思うが、《鎖龍蛇 スカルデット》でドローする時点でデッキをあと2枚削れれば(理論上は)確定でエクゾディアである。
《異次元エスパー・スター・ロビン》の代わりにこいつをリクルートすれば、レベルが2個上の分デッキが二枚余計に減ることになる。
あとは少し調整すれば、5%くらいの確率で「一回のドロー効果でエクゾディアが揃う」デッキが完成する(95%負けるけど)
クソみたいな事故率を誇るクソデッキに負けた相手は顔がエクゾディアになること請け合いである。
となると最後の課題としては、「いかに事故らずに理想的な初手を揃えるか」ということになる。
……
…………
………………
やはり手品では?