はじめに
《インフェル星樹》、それは現在のアドバンス環境を象徴する1枚。
王来MAXの新要素を随所に散りばめつつも徐々に新弾以前の環境構造へと収束しつつあるオリジナル環境とは対照的に、アドバンス環境に王来MAXがもたらしたのは不可逆のインパクトでした。
これまでのゲーム観を大きく覆すアドバンテージメイカー、《インフェル星樹》。
このカードによって激変したアドバンス環境の「今」について徹底的に解説していきたいと思います!
目次
「最強」の定義
本記事では最強デッキを「デュエル・マスターズ競技環境での相対的な強さ」と定義します。
Tier1とは「環境内に不利なデッキが少ない、あるいは相性差を覆しやすいデッキであり、大会で持ち込みが一番多いと予想される対策必須のデッキ」です。
Tier2とは「Tier1やTier2のデッキにある程度勝てる見込みがあり、大会でも毎回一定数いると予想されるデッキ」です。
Tier3とは「弱点が多い、デッキパワーが低いなどの理由で使用者は少ないものの、特定のメタゲームでは活躍することができるデッキ」です。
Tier1
【4cドラグナー】Tier1
ただでさえアドバンス環境をリードしていた【4cドラグナー】ですが、アドバンス環境の超新星《インフェル星樹》のカードパワーを取り込んで更なる進化を遂げました。
細かい説明はもはや不要でしょう。《禁断 〜封印されしX〜》の封印をマナに置くことで得られる、2ブースト2ドローの反則的なアドバンテージ力は言わずもがなです。
5マナでこのカードをプレイすれば次のターンにはマナセットなしで主力の7マナ域へと繋がり、2ドローと合わせてハンドキープの難易度を大幅に緩和してくれます。
また、G・ストライクを持つためナチュラルに防御力の向上にも貢献し、「《ドラゴンズ・サイン》を起点としたカウンター力の高さと【ドラグナー】デッキの押し付けの強さの両立」という【4cドラグナー】の強みを補強してくれます。
このように《インフェル星樹》の強さには疑いがない一方で、相方として採用される《禁断 〜封印されしX〜/伝説の禁断 ドキンダムX》はリスクとなる側面も多く有しています。
シンプルながら最も影響が大きいのは、ゲーム開始時に山札の上から6枚が封印になってしまう点。
これによって初期山札が7枚(《禁断 〜封印されしX〜》1枚+封印6枚)減ってしまううえ、ピン投の革命チェンジクリーチャー群が封印落ちによって使えなくなるおそれが。
《龍風混成 ザーディクリカ》のEXライフや各種ブースト札で山札がどんどん削れていくこのデッキではライブラリーアウトによる自滅が現実的に起こりえますし、《時の法皇 ミラダンテⅫ》や《音卿の精霊龍 ラフルル・ラブ》が全て盾&封印落ちして詰めるに詰められない局面も考えられます。
また、禁断解放後の《伝説の禁断 ドキンダムX》は後詰めとして強力なカードとして機能する反面、特殊敗北条件を持つためどんなに有利な状況下でも負け筋になる危険性も有する諸刃の剣。
相手の《インフェル星樹》によって禁断解放を暴発させられた挙句に《切札勝太&カツキング -熱血の物語-》などでバウンスされてしまっては目も当てられません。
他のデッキでも同じようなリスクはあるものの、特に【4cドラグナー】は《龍風混成 ザーディクリカ》や《爆熱天守 バトライ閣》を起点に横展開する動きを主軸としているため、封印の枚数コントロールが他のデッキ以上に難しいのが気に掛かる点です。
これらのリスクを勘案し、《禁断 〜封印されしX〜》を採用しない構築もかなりの数存在しています。
このパッケージを採用することによって勝てるようになっていた【アナカラーダークネス】が凋落した影響は特に大きいでしょう。仮想敵の激減した現在のアドバンス環境でも必要なのかどうかは、積極的に疑うべき点です。
ただし、《インフェル星樹》は【ドラグナー】を多用するデッキとのミラーマッチにおける「相手ドラグハートの除去」という役割も持っています。
リターンに比例してリスクも大きい《禁断 〜封印されしX〜》の採用を見送った構築でも、その利便性の高さから《インフェル星樹》だけで数枚採用されることがほとんどです。
対面した際は、ゲーム開始時に《禁断 〜封印されしX〜》が置かれていないからといって《インフェル星樹》の存在を頭から弾き出さないように注意しましょう。
【ガイアッシュ覇道】Tier1
【4cドラグナー】と並び、《インフェル星樹》を使用するデッキの代表格として頭角を表してきたのが【ガイアッシュ覇道】です。
そもそもはどっしり構えつつ相手の動きに自己踏み倒しを合わせて展開するカウンターデッキとして登場したこのデッキ。《流星のガイアッシュ・カイザー》への依存度が高く、能動的な動きがやや物足りない、というのが大枠での評価でした。
ですが、新たに手に入れた《インフェル星樹》のマナ加速力によって、《流星のガイアッシュ・カイザー》に依存せず自分の勝ちパターンへと持ち込めるようになりました。
G・ストライクやブロッカーが受けの中心となる現環境においては《勝利龍装 クラッシュ“覇道”》の通りが非常に良く、Tier上位に位置するデッキの中でまともに受け札として機能するのは《切札勝太&カツキング -熱血の物語-》ぐらい。
早期に《勝利龍装 クラッシュ“覇道”》のパターンへと持ち込めば貫通できる対面が多く、前述した能動的な動きの強化と合わせて攻撃的なデッキへと変貌しています。
基本的な動きを火文明のコマンドに頼らないため封印の枚数をコントロールしやすく、《勝利龍装 クラッシュ“覇道”》のおかげで特定のカードを用いずともトリガーケアした打点を作りやすいことから、先述した《禁断 〜封印されしX〜》のデメリットをそれほど気にせずに使えます。
サンプルリストではCSでよく結果を残している一般的な構築を掲載していますが、ネット大会では《我我我ガイアール・ブランド》を採用した構築が現在のメインストリームです。
マナの伸びた中盤以降に《切札勝太&カツキング -熱血の物語-》から探してきて大打点を叩き込んだり、終盤に役割を失いがちな《ボルシャック・栄光・ルピア》に進化元としての役割を付与できる器用なサブアタッカー。
《勝利龍装 クラッシュ“覇道”》で取得した追加ターン中に動かす押し込み打点としても優秀ですし、何であれば相手ターンエンド時に踏み倒した《流星のガイアッシュ・カイザー》の打点を倍加するだけでも十分に強力です。
総じて攻めパターンの多角化に大きく貢献できるため、「攻める【ガイアッシュ覇道】」の方向性とよくマッチしています。
他の部分にも固定パーツが少ないため、環境に合わせた変化の余地は十分に残されている【ガイアッシュ覇道】。
マナカーブや色バランスなどの面から見て《インフェル星樹》を最も強く使えるデッキと言っても過言ではなく、今後の活躍にも十分期待できるのではないでしょうか。
Tier2
【キングダムJO退化】Tier2
限りなくTier1に近いTier2。
再現性の高い3〜4ターンコンボで《アルカディアス・モモキング》や《キャンベロ<レッゾ.Star>》を織り交ぜながら連続攻撃を叩き込む、速度・火力・搦め手の三拍子揃ったコンボデッキです。
やること自体は登場以来、アドバンス・オリジナルのどちらにおいても一切変わっておらず、違いと言えば《轟く覚醒 レッドゾーン・バスター》による無限攻撃があるかないかの差のみ。
他のデッキのことを横に置けば対策自体はある程度練りやすい部類であるほか、多くのデッキに採用されるG・ストライクに対して噛み合いを要求されるため、「雑多なデッキに抗がう力」という観点では総合的な出力の高い【ドラグナー】系デッキと比べて一歩落ちる印象です。
しかしながら、このデッキの存在自体が、高速で繰り出される《アルカディアス・モモキング》や《キャンベロ<レッゾ.Star>》に対抗できないデッキを大きく抑圧しているのも事実。
筆者の私感にはなりますが、現在のアドバンス環境を最も強く定義しているのはこの【キングダムJO退化】なのではないでしょうか。
【赤単我我我ブランド】Tier2
【赤単我我我ブランド】も引き続き活躍中のアグロデッキ。
アドバンス環境の【赤単我我我ブランド】はテンプレート化が強く進んでおり、1マナ域に2ターン目に殴れるクリーチャーしか採用せず、《GIRIGIRI・チクタック》を全力で活用しにいく構築がほとんどです。
相変わらず非常に強力なデッキではありますが、G・ストライクや《ドラゴンズ・サイン》を活用するデッキの増加はやや向かい風。
シンプルな見た目に反してプレイングの難易度が高く、仮にそれを乗り越えて最適な攻撃順を組めたとしても、トリガーを踏む順序の裏目が常につきまといます。
出力自体は環境でも屈指でありながらも、この辺りの事情から実績の面では伸び悩んでいる印象です。
【5cコントロール】Tier2
環境の変化に伴って苦手としていたデッキが軒並み衰退し、相対的に立ち位置が向上。久しぶりのランクインとなった【5cコントロール】です。
《龍風混成 ザーディクリカ》・《最終龍覇 グレンモルト》のカードパワーを存分に活かせる《ドラゴンズ・サイン》を主軸に構築されており、大量のG・ストライクやその他の多様な受け札と合わせて高い防御性能を誇るのが環境上の特色だと言えるでしょう。
受け札として採用例が増えている《界王類邪龍目 ザ=デッドブラッキオ》は呪文ロックや《時の法皇 ミラダンテⅫ》の召喚ロック下でもプレイできる確定除去札。
相手クリーチャーをマナに送り込むため《勝利龍装 クラッシュ“覇道”》を後腐れなく処理できるほか、禁断解放後の《伝説の禁断 ドキンダムX》を手札から確実に対処して敗着にさせられるのも環境上嬉しい点です。
バトルゾーンにコマンド・ドラゴンが残ってくれるため、続くターンに殴り返しながら《SSS級天災 デッドダムド》に侵略して面を制圧したり、シンプルに返しの打点としてカウンターに貢献したりと、何かと器用さが目立つカードです。
アドバンスでは相手のドラグハートが龍解できない能力も有効に機能する可能性があります。忘れやすいテキストですので、意識して覚えておきましょう。
また、受け一辺倒のデッキというわけでもなく、伝統の4ターン《ドラゴンズ・サイン》+《龍風混成 ザーディクリカ》+《ロスト・Re:ソウル》マウントは、登場から1年経った今も十分な破壊力。
こまめなハンデスをものともしない《インフェル星樹》のリソース力も、枚数に関わらない全ハンデスの前では足止めを余儀なくされます。
環境外の雑多なデッキに対しても《ロスト・Re:ソウル》が刺さらないことはほぼなく、相手のデッキに関わらない強烈な押し付けを持つのもこのデッキの大きな強みです。
Tier3
【青魔導具】Tier3
コンボ自体の強さは衰えていないものの、汎用性の高いカード除去・《インフェル星樹》の影響で大きく立ち位置を落とした【青魔導具】。
なんだかんだと言っても執拗に、しかもメインの動きのついでに《卍 新世壊 卍》を除去されてしまえば、その後のゲーム展開には厳しいものがあります。
《ガル・ラガンザーク》を素早くプレイするサブプランも、《インフェル星樹》を積極的に採用するデッキはだいたい《切札勝太&カツキング -熱血の物語-》を採用しているため簡単に返されてしまいます。
【ガイアッシュ覇道】に至ってはほぼ影響がないどころか、《ガル・ラガンザーク》の夢幻無月の門に反応して《流星のガイアッシュ・カイザー》が飛んでくる始末。
Tier上位のデッキの中でも【キングダムJO退化】や【5cコントロール】に対しては一定の役割を持てるため、今しばらくは耐えの時間となりそうです。
【青t黒スコーラー】Tier3
《インフェル星樹》系デッキの平均キルターンがそれほど早くないことに着目し、4ターンキルを押し付けることに特化した【青t黒スコーラー】もアドバンス環境において一定の活躍を見せています。
やること自体はオリジナルと全く同じ。オールインコンボの特質上メタカードなども一切入らないため、40枚そのまま持ち込んでも同じパフォーマンスが期待できます。
環境上位には【キングダムJO退化】や【赤単我我我ブランド】といった極めて不利なアグロデッキも存在するため、「今勝てるデッキ」とは口が裂けても言えません。
しかしながら、うまくメタ読みがハマれば大爆発もありえるデッキとしては最有力候補の一角でしょう。
【アナカラーダークネス】Tier3
今季のアドバンス環境における、環境変遷最大の被害者です。
これまでハンデスによって相手の選択肢を奪うことで【4cドラグナー】に対して優位なゲームを進められてこられましたが、《インフェル星樹》が事情を一変させました。
この5コスドラゴンは、ブーストを進めながら2枚も手札を確保してくる、ハンデス系デッキにとっては悪夢のような存在。まともなアドバンテージの取り合いで太刀打ちするのは困難を極めます。
構築を寄せればある程度戦えはするものの、そうすれば立ちはだかるのは【キングダムJO退化】や【赤単我我我ブランド】といったビートダウンデッキ。
これらのデッキにもそれ相応の対応を迫られるため、あちらを立てればこちらが立たずの板挟みに陥ります。
今後しばらく苦しい立ち位置が続きそうな【アナカラーダークネス】。再び日の目を見ることはあるのでしょうか。
環境の変遷
今まで
環境を激変させた《インフェル星樹》の衝撃。
アドバンテージの概念そのものをぶっ壊しかねないこのカードの登場により、カードのやりとりをまともに行って勝負するデッキは激減します。
その代表格が【アナカラーダークネス】。
1枚1枚相手の手札を削ってゲームを掌握するこのデッキは、《インフェル星樹》の爆発的なリソース力を前に膝をつくこととなります。
このような変化の結果、相手のアドバンテージを無視して勝てる一芸に秀でたデッキか、《インフェル星樹》で稼いだリソースを活かしはじめる前に相手を打ち倒せる高速ビートダウンデッキだけが環境上位に踏みとどまりました。
そして、カード除去の絶対数が増加したことでついでのように割りを食った【青魔導具】や先述した【アナカラーダークネス】を苦手としていたデッキ——【5cコントロール】が徐々に復権の兆しを見せています。
《インフェル星樹》の登場以降も強い影響力を持つビートダウン・【赤単我我我ブランド】や【キングダムJO退化】ともまともに戦える受け性能と、対面に関わらず行動を大きく制限できる《ロスト・Re:ソウル》による全ハンデスで独自の地位を築き上げ、今に至ります。
これから
いわゆる3すくみ的な環境構造と異なり、現在のアドバンス環境はアーキタイプごとの相性差がそれほど露骨に出ない環境です。
もちろん個々のデッキ間での有利・不利はありますが、比較的振れ幅が小さく、環境全体の流れにまで踏み入るほどではない印象です。
最近注目が集まりはじめた【5cコントロール】についても、これと同じことが言えます。
「単純な相性差でトップ層に勝てる」ことを背景に浮上してきたデッキタイプとは異なり、【5cコントロール】は対抗馬が落ちたことで有力視されはじめた、総合的な出力に優れるデッキタイプ。
ビートダウンデッキや【ドラグナー】系のデッキを駆逐することもなく、あくまでも環境上の有効な選択肢に止まるでしょう。
《インフェル星樹》系のデッキは今後も最大級の警戒を払うべき対象であり、ビートダウンデッキは猛威を振るい続け。
今回の環境変遷によってポジションを落としたデッキは、今しばらくは雌伏の時を過ごすことになるのではないかと予想されます。
結論として、何か大きなブレイクスルーが登場しなければ、Tier1〜Tier2までの上位5デッキが相争いつつ、環境の大枠は変わらないまま6月末の新弾リリースへと向かっていくのではないでしょうか。
ただし、6月半ばには日本一決定戦が控えており、有力なアドバンス用のデッキが出場プレイヤーの中で秘匿されている可能性は十分にあり得ます。
6月12日。日本中の強豪たちが駆るデッキの中から、収束しはじめたアドバンス環境に風穴を開けるようなデッキが登場するかもしれませんね。
おわりに
というわけで、5月下旬のアドバンス環境について解説いたしました。
使ってみたいデッキは見つかりましたでしょうか?
この記事が皆さんのアドバンス環境に対する理解への一助となれば幸いです。
それでは次回、6月上旬のオリジナル環境解説記事でまたお会いしましょう!