あの人は今〜緑を背負いし小さき英雄〜

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あの人は今〜緑を背負いし小さき英雄〜

 

  DMというゲームが誕生してから17年。

 17年という年月は、このゲームに大きなうねりをもたらし、多くの英雄たちによる物語を紡いできた。

 これは、そんな英雄たちの歴史といまに迫るドキュメンタリーである。

 

目次

 

1 ドングリ大好き、ドーナツ大好き

 

―DM界某所

 私は、とある人物を訪ねるため、木々を掻き分け、掻き分けながら、自然文明のたくましさを感じさせる大森林の中を進んでいた。

 あたりからは、奇妙な仮面をかぶった原住民の叫び声や、巨大な肉食獣たちのうなりごえが聞こえてくる。

 そんな原始の大森林の中を慎重に進むと、やがて開けた場所に出た。

 「こんなところに客人とは、珍しいこともあるものだね。」

 広場の中央で大きなドングリに水をやっていた、もふもふと愛らしい姿をした人物は、こちらをわずかに振り返りながらそう言った。

うきうき気分で大好きなドングリに水をあげていたサソリス氏。

出典:デュエル・マスターズ

 《龍覇サソリス》氏。

 前回取り上げた《龍覇グレンモルト》氏の同輩で、10年に一度開催されるという武闘レース『デュエル・マスターズ』でも、自然文明の代表として彼らと死闘を繰り広げた人物である。

 愛らしい見た目とは裏腹に、相棒の《始原塊ジュダイナ》を振るうことで、次々と強力なジュラシック・コマンド・ドラゴンを生み出し、自然文明のエースとして大活躍をした。

 「それで、キミはこんなところに何のようだい?」

 原始の大森林の中をわざわざ分け入って現れた私に、彼は不信感を隠そうともしない。

 そこで、私はここまで大事に抱えてきた荷物を大きく掲げて見せる。途端、彼の表情が目に見えて変わった。

 「この匂いは、ドーナツかい!うれしいなぁ!僕ドングリにも目がないけど、ドーナツも大好物なんだよね。」

 そういって、彼は目を輝かせながら、私の手にあるドーナツを奪い取り、包みを開けて目の前で食べ始めた。よしよし、事前に調査した情報に間違いはなかったようだ。

目を輝かせてドーナツに食らいつくサソリス氏。
ここまで喜んでいただけると、こちらとしても用意したかいがあったというものだ

出典:デュエル・マスターズ

 「それで、改めて聞くけど、キミはこんなところに何をしに来たんだい?」

 こんな小さな体のどこに入っていったのか、私の持参した手土産をぺろりと平らげらげた彼は、改めて私にそう尋ねる。私は、取材をさせてほしい旨を彼に伝えた。

 「なるほど、僕に取材がしたいと。いいよ、これだけドーナツを持ってきてくれたんだし、ドーナツ分の恩義は返そう。」

 そう言って、彼は抱えていたジュダイナを横におろすと、自身が戦った激動の時代について語りだした。

 

2 殴リスと呼ばれた時代

 

 《龍覇サソリス》氏が登場したのは、《龍覇グレンモルト》氏と同じ「龍解ガイギンガ」。

 しかし、登場当初から話題となったグレン氏とは違い、彼が環境という表舞台に姿を現したのは、ドラゴン・サーガシリーズ最終盤のことであった。

 「自然文明の仲間たちがたくさん協力してくれてね。《成長の面ナム=アウェイキ》や《青銅の面ナム=ダエット》とかさ。ありがたいことに、『デュエル・マスターズ』には関心のなかった《ベル・ザ・エレメンタル》も手を貸してくれたよ。」

恐るべき踏み倒し能力で、環境を荒らしまわった邪帝斧は、ついにサソリス氏の手にもわたった。

出典:デュエル・マスターズ

 武闘レース『デュエル・マスターズ』での、彼の唯一無二の相棒は《始原塊ジュダイナ》だった。しかし、環境における彼の相棒は、皮肉なことに《龍覇イメン=ブーゴ》氏の振るう武器、《邪帝斧ボアロアックス》であった。

 事実、ボアロアックスが登場してから、イメン氏よりも1マナ軽くボアロアックスを装備することができる彼は、【ラグマールループ】や【ワイルド・ベジーズ】などに採用されていた。けれども、いずれも環境入りするまでには至らなかった。

 しかし、ドラゴン・サーガを通して強化された「マナ武装」と、《ベル・ザ・エレメンタル》氏の登場が、彼に環境という舞台でも戦う力を与えた。

《ベル・ザ・エレメンタル》氏とともに戦線を支えた《諸肌の桜吹雪》氏。
小型クリーチャーを展開する【黒緑速攻】などの攻撃を防ぐ役割も果たした。

出典:デュエル・マスターズ

 早期からマナ加速のできる優秀な「ビーストフォーク」を展開し、サソリス氏につなげると、ボアロアックスの効果で《ベル・ザ・エレメンタル》氏や《諸肌の桜吹雪》氏へと進化したサソリス氏が、相手に殴り込みをかけながら、さらにボアロアックスの効果でクリーチャーを展開する。

 《次元流の豪力》氏や《大神秘イダ》氏、《密林の総督ハックル・キリンソーヤ》氏など、歴代の自然文明の精鋭たちの力も借りながら、速度とパワーを併せ持つこととなった【緑単サソリス(ビート型)】は、瞬く間に環境に進出し、2014年全国大会「デュエマ甲子園 日本一決定戦」オープンクラスでも4位という輝かしい成績を収めた。

 また、サソリス氏の進化元として《機神勇者スタートダッシュ・バスター》氏を選択し、ビートダウンの頼れるフィニッシャー、グレン氏とガイハートのコンビを採用した【赤緑サソリス】という派生形も誕生するなど、彼の環境における存在感はどんどんと大きくなっていった。

 しかし、そんな彼の栄光は驚くほどあっけなく終わりを告げる。

 DMというゲームに大きな変革をもたらした侵略者たちの登場。

パワーアタッカーのせいで、《ベル・ザ・エレメンタル》氏をはじめとする主力を展開しても容易に打ち取られてしまった。

出典:デュエル・マスターズ

 自分たちよりパワーもスピードも格段に上の火文明の侵略者たちに、なすすべもなく、彼らはあっという間に環境から取り残されてしまった。

 「いやー、早すぎるね。おまけに《ベル・ザ・エレメンタル》でも《音速ガトリング》にかなわないんだもの。そりゃあ、勝てないよね。」

 《邪帝遺跡ボアロパゴス》の真の力を解放したイメン氏による、《鎧亜戦隊ディス・マジシャン》《霞み妖精ジャスミン》の二人を使った手品のようなお手軽コンボが、環境上猛威を振るっていたということもあって、ボアロアックスの使い手としてサソリス氏に目が向けられることはなく、そこから1年近くの間、彼は環境から姿を消すことになる。

 

3 反旗を翻した革命軍の戦士たち

 

 そんなサソリス氏が再び環境に姿を現し始めたのは、【イメンループ】の必殺コンボの要であるディス・マジシャン氏がプレミアム殿堂入りしたことがきっかけだった。

 彼のプレミアム殿堂入りを受けて、プレイヤーは、《S級原始サンマッド》氏と《アクア忍者ライヤ》氏を使った【イメンループリペア】や、《鎧亜戦隊ディス・ピエロ》氏によりリソースを確保しながら展開を行うデッキを開発するも、やはり以前の【イメンループ】のようなパワーは失われていた。

 そんな試行錯誤が繰り返される中で、革命軍のとあるクリーチャーにスポットライトが当てられる。

「侵略者共に一泡吹かせられるときいたんでねぇ。正義の革命軍として力を貸すのは当然ですよ...。いや、ほんとうに。ギョッギョッギョッ...。」

デッキ名こそサソリス氏の名前を冠しているが、このデッキの実質的な主役は彼だったといっても過言ではない。

出典:デュエル・マスターズ

 《革命目ギョギョウ》氏。

 背景ストーリー上では、革命軍を裏切り、侵略者に寝返る彼であるが、環境という舞台では、圧倒的なスピードを持った侵略者たちに対し、「革命2で発動するコスト軽減」が力を発揮した。

 早期に場に登場したギョギョウ氏が、マナゾーンにある《霊騎ラグマール》氏や《掘師の銀》氏と力を合わせることで、ほとんどのデッキはクリーチャーの展開を行うことが困難となる。

 強力な除去効果を持つクリーチャーが主軸となり、呪文によるクリーチャー除去が採用されにくかった当時の環境も有利に働き、ギョギョウラグマールはどんなデッキタイプに対しても強力な威力を発揮する必殺コンボとして、以降【緑単サソリス(ギョギョウ型)】の核となった。

 また、侵略者や【赤緑モルトNEXT】などのワンショットキルに対して、これまた革命軍の意外なカードが、非常に強力な守りを見せた。

 「ま、まさか、憧れの《龍覇マリニャン》ちゃんと同じステージで戦えるなんて。ぶっちゃけ、最高なんだな。」

多くの環境デッキに対して、非常に重要な役割を果たした《雪精チャケ》氏。
守るしかできないと自分を卑下するが、彼の堅い守りがあったからこそ、強力な侵略者たちとも互角以上に戦えた。

出典:デュエル・マスターズ

 《雪精チャケ》氏。

 「ハラグロX」の熱心なファンとして知られる彼は、「シールド・セイバー」能力と非常に噛み合いのよい「場を離れたときに、相手のクリーチャーをマナに置く」能力を持ち、盾を守りながら、相手の強力なアタッカーをマナという手の届きにくい場所へと送り込む、高い防御性能を見せた。

 このように、環境デッキに対する有効な対策が発見されたことに加え、超強力サーチカード《トレジャー・マップ》、《雪精ジャーベル》氏の強さを最大限生かすことのできる自然単色の構成に注目が集まる。

 そして、《メガ・マナロック・ドラゴン》氏の影響も最小限で済み、イメン氏よりも一コスト早くボアロアックスを展開できるサソリス氏が、クリーチャー展開の要として再び脚光を浴びることとなったのである。

 上述したカードたちの他にも、ハンデスや【黒単ヘルボロフ】に対して特に強さを発揮した《侵革目パラスラプト》氏や、多彩なドラグハートを自在に操る《龍覇マリニャン》氏等の強力なクリーチャーを擁する【緑単サソリス(ギョギョウ型)】は、どんな相手に対しても互角以上に戦うことのできるデッキとして環境を大いに荒らした。

 しかし、【緑単サソリス(ギョギョウ型)】も、この当時はまだ、相手プレイヤーを攻撃するデッキであった。

 「こう見えて、腕力には自信があるほうでね。」

 と語るサソリス氏の言う通り、《鎧亜の咆哮キリュー・ジルヴェス》を採用し、ワンショットキルを狙うこともできるような構築すら存在していたのである。

 あくまでも、この時点での【緑単サソリス(ギョギョウ型)】は、ギョギョウラグマールの必殺コンボで相手の動きを制限しつつ、ボアロパゴスの展開力を利用して盤面を整えていき、最終的には相手プレイヤーを攻撃するというデッキであった。

強大な力持つボアロパゴスが、使う者をループという抗いがたい選択肢へと誘う。

出典:デュエル・マスターズ

 しかし、《邪帝遺跡ボアロパゴス》のもつ魔力がそうさせるのか、はたまたシールドトリガーへの恐怖がそうさせるのか、ほどなくして《曲芸メイド・リン・ララバイ》《獣王の手甲》などのループパーツを搭載した【緑単サソリス(ギョギョウ・ループ型)】が誕生する。

 従来の【緑単サソリス(ギョギョウ型)】でも、除去や打点、ボアロパゴス下における防御札として非常に重要な役割を果たしていた《S級原始サンマッド》氏が、《アラゴト・ムスビ》氏と組み合わさることで無限ループを生み出したのである。

 かくして、ビートもループも、状況や相手に応じてフィニッシュを自在に使い分けられる強力なデッキタイプとして確立した【緑単サソリス(ギョギョウ・ループ型)】は、【緑単サソリス(ギョギョウ型)】をおさえ、公認大型大会GP2ndでも準優勝という好成績を収めた。

 しかし、【緑単サソリス(ギョギョウ型)】も、同大会において3位入賞を果たしており、ループ型が一気に環境の主流となったというわけでもなかった。

 ループ型は、盾の強い【ヘブンズ・ゲート】等のデッキに対して、シールドをアタックすることなく安全に勝利することができるという強みがあるが、その代償として単体では非常に弱いループパーツを採用せねばならず、それによりトップが弱くなってしまうことが避けられない。

 また、ギョギョウラグマールの必殺コンボ自体が非常に強力で、これを維持した状態で攻撃すれば、わざわざループでフィニッシュせずとも安全に勝ち切ることができたため、従来の【緑単サソリス(ギョギョウ型)】も依然として根強い支持を受けていた。

 

4 逆風と古の王

 

 ギョギョウラグマールという必殺コンボを内蔵し、一気に環境トップへと躍り出たサソリス氏。しかし、GP2ndを終えてしばらくした後、あのグレン氏をも苦しめた最強の主人公が、真の実力を発揮し始める。

歴代最強クラスの主人公の登場により、環境は大きく変化する。

出典:デュエル・マスターズ

 《蒼き団長ドギラゴン剣》氏。

 「革命ファイナル第1章 ハムカツ団とドギラゴン剣」がGP2nd開催と同時に発売されたため、同大会には不参加だった彼が、《勝利のアパッチ・ウララー》氏と《絶叫の悪魔龍イーヴィル・ヒート》氏という最高の相棒たちを引き連れて環境に登場したのである。

 ワンショットキルを基本とする【ドギラゴン剣】に対しては、核となるギョギョウ氏をマナ加速して召喚するしかなく、ギョギョウ氏が登場する前に決着がついてしまうことも多くあった。

 また、環境トップに立ってしまったことで【緑単サソリス(ギョギョウ型)】の核であるギョギョウ氏を意識して、《革命の鉄拳》《ドンドン吸い込むナウ》といったクリーチャー除去呪文を採用するデッキが環境に増えたことも大きな要因となり、【緑単サソリス(ギョギョウ型)】の環境における存在感は以前ほどではなくなっていく。

 「ギョギョウがいなくなっちゃうと、環境の怪物たちの力を抑えることはできないからね。彼が警戒されていたのは、僕らにとっては痛手だったよ。それに、偉大な大先輩も、温泉に行ってしまわれたしね。」

 【緑単サソリス(ギョギョウ型)】に逆風が吹く中、それに追い打ちをかけるように、ボアロパゴス建設の要であった《次元流の豪力》氏がプレミアム殿堂入りしてしまう。そして、その直後に発売された「革命ファイナル第2章 世界は0だ!!ブラックアウト!!」では【緑単サソリス(ギョギョウ型)】に強烈な威力を発揮する《時の法皇ミラダンテ》氏が登場する。

 《次元流の豪力》氏を失い《邪帝遺跡ボアロパゴス》の早期建設が困難になったこと、及び、《邪帝遺跡ボアロパゴス》を建設してからループに入るまでに必要な一ターンが高速環境では致命的であることなどから、ボアロパゴスを必要としないループの研究・開発が進み、【緑単ゴエモンキーループ】が環境に登場したのもこのころであった。

 こうして新たな緑単の形が誕生していく中で、やはり従来の【緑単サソリス(ギョギョウ型)】では環境を戦っていくことは難しいのではないか、と誰しもがそう思い始めていた。

 

 しかし、GP3rdを経て環境に君臨するようになった古からの刺客、【白赤ジョバンニランデス】が流行し始めると、状況は一変する。

《オリオティス・ジャッジ》という最良の家臣を手に入れたことで名実ともに「王」となった古からの刺客。

出典:デュエル・マスターズ

 【赤黒ドギラゴン剣】をはじめとした、ブーストを使用しないデッキタイプに対して圧倒的な優位に立つ【白赤ジョバンニランデス】に勝つために、マナ加速ができる【5色ドギラゴン剣】や、速度の速い【赤黒デッドゾーン】、【光水サザン・ルネッサンス】等のデッキが流行しはじめたのである。

 これにより、《革命の鉄拳》等の軽量クリーチャー除去呪文を搭載したデッキが減少し、ギョギョウラグマールの必殺コンボの通りが良くなった。

 また、そもそもがマナを無理なく伸ばすことのできる自然単色デッキであるにもかかわらず、「アラゴトサンマッドによる無限マナ増殖コンボ」まで内蔵した【緑単サソリス(ギョギョウ型)】は、【白赤ジョバンニランデス】に対して、比較的強く立ち回ることができた。

 こうして、ある意味【白赤ジョバンニランデス】の流行に助けられる形で、環境での立ち位置を維持し続けていたサソリス氏であったが、ついに「忌み子」とまで呼ばれるDM史の中でも屈指の壊れカードが産声を上げてしまったのである。

 

5 宇宙を生み出す赤ん坊

 

 「不思議だよ。まだ、生まれたばかりのほんの赤ん坊だというのに、僕は彼の中に宇宙を見たんだ。」

ボルバルザークを作らないという教訓とともに《ベイBジャック》を作らないという教訓もぜひ後世に語り継いでいただきたい。

出典:デュエル・マスターズ

 《ベイBジャック》。

 「忌み子」という不謹慎極まりない蔑称すらも、このカードの凶悪さゆえに許されてしまう。そんなカード。

 DMをある程度長くプレイしていると、過去の経験から、ループするんだろうな、コンボデッキが作られるんだろうなと、なんとなく”やばい”カードに対する嗅覚みたいなものが身についてくる。

 そういう意味でいえば、このカードは見ただけで鼻がもげてしまうほどの異臭を放っていた

 こいつはとんでもなくやばいというプレイヤーの悪い予感は見事的中し、このカードの登場後すぐに【緑単ゴエモンキーループ】が環境トップの一角に上り詰める。

 バトルゾーンをマナゾーンに作り変えてしまうこの赤ん坊は、マナコスト軽減カードと組み合わせることで、マナが尽きない驚異的な状況をいともたやすく作り出し、プレイヤーの中にはその状態を宇宙と称する者もいた。

 バトルゾーンに宇宙を生み出したこの赤ん坊は、これまでの【緑単ゴエモンキーループ】に足りなかった速度を補い、大きな弱点を克服したこのデッキが、ついに環境で覇権を握ることとなったのである。

 この異常事態に対し、公式としても《蛇手の親分ゴエモンキー!》氏を殿堂入りさせるという対応策を講じ、一時は《ベイBジャック》を採用しない従来の【緑単サソリス(ギョギョウ型)】も復権の兆しを見せた。

 しかし、無限ループの根幹である《アラゴト・ムスビ》氏と《S級原始サンマッド》氏が殿堂入りしなかったこと、おまけに《ベイBジャック》下で実質《メンデルス・ゾーン》と化す新戦力《桜風妖精ステップル》氏が追加されてしまったことにより、事態はさらに悪化する。

 ゴエモンキー!氏の殿堂入りの効果も薄く、《大勇者「鎖風車」》氏や《カブラ・カターブラ》氏などのマナ回収能力を持つカードによるリペアがすぐに開発され、高速ビートも高速ループも可能とする殿堂ゼロでも戦いうるスペックを持つデッキ【緑単ループ】が完成。

 史上最速クラスの即死ループは、環境を阿鼻叫喚の地獄へと染め上げ、《ベイBジャック》への呪詛は、以降彼がプレミアム殿堂入りとなるまで永遠と唱えられ続けていくこととなる。

 「僕がわざわざ出ていかなくとも、というか出ていく頃にはもう決着がついてしまってるんだから、しょうがないよね。」

 ボアロパゴスはもういらない。

 ギョギョウラグマールを決める頃にはもう勝っている。

 【緑単ループ】が支配する環境において、もはや【緑単サソリス(ギョギョウ型)】を使用する意味はなくなっていた。

 

6 好きなもののために

 

 そんな「忌み子」とまで呼ばれた、《無双竜機ボルバルザーク》氏に並ぶ凶悪さを誇るDM界の問題児もついにプレミアム殿堂入りとなった現在、サソリス氏に新たなライバルが登場していた。

《龍覇マリニャン》としてもデッキの中核を担っていた彼女は、ついにサソリス氏の役割すらも担えるようになった。

出典:デュエル・マスターズ

 《龍覇少女隊ハラグロX》

 サソリス氏とも親交の深い《龍覇マリニャン》氏が、メンバーを引き連れて装い新たに登場したのである。

 サソリス氏と、コスト、パワーが同じにもかかわらず、パワーアタッカー、Wブレイカー、おまけにマナから召喚できる効果までついた《龍覇少女隊ハラグロX》は、彼の完全上位互換といってもよい存在である。

 唯一の違いは、彼がコスト2以下のドラグハートも呼び出せるため、《無敵剣プロト・ギガハート》を装備することで、除去体制を持つアタッカーになれることくらいだが、《龍覇マリニャン》氏でも同様の役割をこなせるため、わざわざ彼を優先すべき理由は存在しない。

 ハラグロXという強力なライバルの出現により、環境という舞台からさらに遠のいた現状について、彼はどのように考えているのか。

 「うーん、別にどう思うと聞かれても。特に何とも思わないかなぁ。」

 予想外の返答に驚く私をよそに、彼は一切表情を変えることなく淡々と続ける。

 「だって、僕は大好きなドングリのために、友達のために戦ってきただけなんだから。これからも、大好きなもののために戦うだけさ。環境がどうとか、ライバルがどうとかは関係ないよ。」

 好きなもののために戦う。

 あまりにも単純かつ明快な理由に、私は憑き物が落ちたような気がした。

 強い、弱いは関係ない。好きだからこそ共に戦いたい、輝かせてやりたい。DMをはじめたころに抱いていたそんな純粋な気持ち。

 環境を作り上げてきた過去の英雄たちに取材をする中で、私自身「環境」という言葉にとらわれすぎて、大切なものを見失っていたのかもしれない。

 「また、ドーナツでも持って遊びに来なよ。」そう言って無邪気に笑う彼の姿に、私は確かに自然文明を支えてきた英雄としての大きさを感じたのだった。

文責:一番ぼし

 

※本記事が、私のTWC2での最後の記事となります。時間の都合上、いただいたリクエスト全てにお応えすることはできませんでした、申し訳ありません。

また、シリーズを通して自分なりに入念な下調べを行い、できる限り正確な環境把握に努めたつもりですが、記憶違いや認識不足などにより、不快な思いをされた方がいらっしゃいましたら、申し訳ございません。

今までたくさんのコメント、リクエストありがとうございました。皆さんの温かいコメントのおかげで、高いモチベーションを維持して執筆を行うことができました。本当に感謝しています。

さて、最終投票もいよいよ大詰めです。まだ、投票していない方がいらっしゃれば、ぜひ「一番ぼし」に投票していただけると嬉しいです!!

改めまして、今回は本当にありがとうございました。


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