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はじめに:遊戯王の「竜巻」
早速だけど、日本は自然災害が多い国だと言われているよね。火山の噴火や地震、台風に津波……巨大な脅威と日々戦い続けている我々日本人だが、意外と「竜巻」は見たことがないのではないだろうか?
学校の校庭の隅でつむじ風が巻きあがっているのなら私も見たことがある。だけど、頭の中でイメージするような、地上のものを破壊しながらぐねぐね進んでいく竜巻にはこれまで一度も遭遇したことがない。時折テレビで物珍しげに取り上げられるくらいで、それくらいに日本では竜巻はマイナーな災害なのだ。
ところで、遊戯王で竜巻と言えば……
《サイクロン》
【 速攻魔法 】
全フィールド上の魔法・罠カード1枚を破壊する。
最近だとあまり環境では見ないけど、多分みんなこれを思い浮かべるんじゃないかな。厳密にいえば竜巻は《ツイスター》の方だけど、おそらくみんなこっちを先に思い浮かべるんじゃない?
《サイクロン》は書いてある通り、フィールド上の魔法・罠カードを1枚破壊できる効果を持つ。これは速攻魔法なこともあって非常に使いやすいけれど、もっとこう、いっぱいフィールドの魔法罠を破壊したい。何かなかったか……
《ハーピィの羽根箒》
(制限カード) 【 通常魔法 】
相手のフィールド上の魔法・罠カードを全て破壊する。
んー、これでもいいんだけど、もうひといき。
もう少し破壊的なカードはないか、確かあれがあったような……
《大嵐》
(禁止カード) 【 通常魔法 】
全フィールド上の魔法・罠カードを全て破壊する。
そうそう、こんな感じのを求めていた。
フィールド上の魔法と罠、すべてを破壊するこのカードは今は禁止カード。今のカードプールだったら、自分の魔法・罠カードをわざと破壊してアドバンテージを取る使い方もできる。
いやしかし、懐かしいイラストだなぁ……
そうそう、赤い服を着た男と、牛が飛ばされて……
……牛?
牛がなんでそこにいる?
前編:我々は牛の謎を解き明かすべくインターネットの奥地へと踏み込んだ
知っての通り、遊戯王のカードには様々なパロネタが含まれていることが多々ある。例えば、某有名四人組チームを模した《トラップ処理班aチーム》、某有名映画の二作目の感動シーンを模した《スクラップ・ファクトリー》などが既にカードとして存在しているのだ。どれも、元ネタを知っている人からしたらクスッと笑えるような名前やイラストになっている。
ということで、思い当たるのは「牛にも何かしらの元ネタがあるにちがいない」こと。遊戯王は表だってパロディカードを作ることは少ないが、凄く細かいところに小ネタを仕込んでくることがあるためその線で考察してみることにする。
さて……牛が空を飛ぶシーンが印象的な作品は何だ?
「牛が飛ぶ」だけでは検索が大変であるため、もう一つのキーワード「暴風」から探ってみることとする。《大嵐》の初版は2000年3月1日発売の「BOOSTER7」にて収録されているため、それより前の作品を探してみよう。
捜索隊がインターネットの海を駆け巡った結果、ある一つの映画にたどり着いた。その映画のタイトルをここで出すことは控えさせていただくが、それについての情報を提示するならば「1996年に公開された、竜巻を観測する者「ストームチェイサー」の戦いを描いた物語」とでも言えばいいだろうか。
手掛かりになりそうなものは見つけた。なんかすげぇ面白そうな映画だ。だが忘れてはいけない。
我々は牛を探しているのだ。暴風で飛ばされる牛を……!
牛は飛ばされるのか!? それともガセなのか!?
私はそれを確認すべくモニターの前にかじりついた!
……
…………
………………
とんだ!!!
牛が、とんだ!!!!!
検証結果:《大嵐》の牛が飛ばされてるのは映画オマージュ。あと煮干しラーメンはうまい。
後編:牛が飛ばされる決定的場面を目撃せよ
よくよく考えてみれば、我々は《大嵐》の牛を他のカードでも見たことがあるはずだ。なぜなら、相手のバックを破壊するカードはあれからたくさんの種類が刷られ、新しいカードが出るたびに我々はその新しいイラストを目にしているためである。
そしてそこには確かに「牛」がいたのだ。
また牛が飛んでる……そんな風に思ったのも遠い昔の話。
だがそれがどんなカードだったかをはっきり思い出すことはできない。そこで、私のような忘れん坊さんのためにも「牛」が飛ばされているイラストを持つカードを復習していこう。
◆《巨大な怪鳥》
《巨大な怪鳥》
風属性 レベル6
鳥獣族 通常モンスター
攻撃力 2000
守備力 1900
あまり見かけない、とても大きなトリ。空から急降下して襲いかかる。
申し訳ないが肝心の画像を用意することはできなかった。「巨大な怪鳥 遊戯王」とでも検索してくれれば画像は出てくるだろうからそれを見てほしい。
大きな鳥がその足で牛を捕まえている。このイラストでは牛は風で飛ばされてはいないが、巨鳥に連れていかれているのだから《大嵐》と同じ緊急事態と言えるだろう。
このカードは《大嵐》より遥か前のVol.7に収録されていた。牛の絵柄が似ていることから、その関連性がうかがわれる。
◆《嵐》
《嵐》
【 通常魔法 】
自分フィールド上の魔法・罠カードを全て破壊する。その後、破壊したカードの数だけ相手フィールド上の魔法・罠カードを破壊する。
後ろ――――!
おそらくこれは《大嵐》で飛ばされる前の姿。もう既に一人が巻き込まれている(この人は《大嵐》の奥の方でも描かれている)ため、嵐が予想以上に早いペースで来たのか? それとも、進路を見誤ってのんきにおちちを搾っていたら大当たり?
効果を見てみると、自分の破壊した魔法・罠カードの分だけ相手フィールドの魔法・罠カードを破壊できる効果。《大嵐》が禁止カードとなった今、自分のカードと相手のカードを同時に割れる効果は決して馬鹿にできない。しかし、「時の任意効果」はタイミングを逃すテキストであるため、やはり少々使いづらかった。通常魔法である点も災いし、ちょっと使いづらい一枚という評価に落ち着く。
◆《局地的大ハリケーン》
《局地的大ハリケーン》
【 通常罠 】
自分の手札・墓地に存在するカードを全て持ち主のデッキに戻してシャッフルする。
先程の《嵐》を別視点から描いたものがこれにあたるのだろう。楽しそうにおちちを搾っている赤服の男の背後で風が巻き起こっているが、局地的であるがゆえにまだ彼は被害を受けていない。
しかし規模からすれば、赤い屋根の家が吹き飛ぶくらいのものであるから決して侮れない。男と牛が飛ばされるのはもはや秒読みといったところだろう。なんで気付かねぇんだ……?
効果を見ると、自分の手札・墓地に存在するカードを全てデッキに戻してシャッフルする効果。発動後は手札が0枚になり、墓地のカードもなくなってしまうため、手札がない状況であるカードを使いまわすタイプのデッキならば採用できるかもしれない。例えば、《命削りの宝札》を起用するタイプのデッキ……だが、優しい効果ではないため、採用の際考える必要があるのは言うまでもない。
◆《局所的ハリケーン》
《局所的ハリケーン》
【 通常魔法 】
①:フィールドにセットされている魔法・罠カードを全て持ち主の手札に戻す。
これはおそらく《嵐》よりもさらにもうちょっと前の出来事だろう。赤い屋根の家が健在だがその脅威は徐々に迫りつつあることがうかがえる。
赤服の男はこの絵の時からおちちに夢中になっている。もしかして、《大嵐》で飛ばされるその時までずっと……?
効果は言うまでもなく、禁止カード《ハリケーン》の調整版だけなこともあって非常に強力だ。これ1枚でセットカードをほぼ無力化することができるため、特にコンバットトリックが横行するデュエルリンクスでお世話になった人は多いのではないだろうか。最近出たカードだけあって効果も強力だが、イラストに遊び心を忘れていないのはとても嬉しいことだ。新しいカードのイラストに隠されている小ネタを探す私のような人はこういうところで喜ぶのである。
◆《砂塵の大嵐》
《砂塵の大嵐》
【 通常罠 】
このカードを発動するターン、自分はバトルフェイズを行えない。
①:フィールドの魔法・罠カードを2枚まで対象として発動できる。
そのカードを破壊する。
ついに巻き込まれてしまった一人と一匹。言わんこっちゃない。
《大嵐》ではいなかった三人目の人が左下の方に見ることができる。《砂塵の大竜巻》の方も意識しているのだろう、イラストには鳥の羽根のようなものが舞っていた。
効果は、フィールドの魔法・罠カードを2枚まで破壊できる効果。罠カードだから発動タイミングは遅くなってしまうが、エンドサイクを食らわない限りは相手のフィールドを荒らすことができる。《ツインツイスター》と違って手札もいらないため、どちらを採用するかは状況によって判断していこう。《トラップトリック》で持ってこられるのも魅力だ。あちらの効果を使えばそのターンですぐ魔法・罠を2枚持っていくことができ、奇襲を食らわせることができるだろう。
◆竜巻竜
《竜巻竜》
【 エクシーズモンスター 】
星 4 / 風 / 幻竜族 / 攻2100 / 守2000
レベル4モンスター×2
①:1ターンに1度、このカードのX素材を1つ取り除き、フィールドの魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊する。この効果は相手ターンでも発動できる。
読み方は「トルネードラゴン」。よく見てみると、例の牛の他にも赤いカーテンに身を隠した通常モンスターが飛ばされているのが見える。というかお前そうなってたんかい。
このイラストではあの赤服の男は確認できないものの牛はいつも通り優雅に宙を舞っている。次があったかはわからないが、あの男はおちちの誘惑を振り切ってこの脅威からは逃げることができたのだろう。牛の飛び方もどことなく「あの映画」っぽくなっている。
効果を見れば、それはそれは申し分ない強さ。ランク4としては破格の性能を持ち、《セイクリッド・カウスト》などを擁するアーティファクトデッキでは相手ターン中に能動的に自分のアーティファクトを破壊できるカードとして活躍。その小回りの利く性能でデュエルの様々な場面をサポートしてくれること間違いなしだ。
おわりに:おそらく今後も飛び続ける牛に敬礼
世間で牛は聖獣だったり市民団体が守る対象だったり力持ちなお手伝いさんだったり闘う戦士だったりするが、こと遊戯王においては「魔法・罠カード破壊の象徴」ともいえる存在である。これは《大嵐》の時から守られ続けている伝統であり、実際に第10期でも先程の《砂塵の大嵐》のように牛のイラストは描かれ続けている。
相手の伏せた魔法・罠カード、または表側表示のフィールド魔法を破壊する時、最近では《トロイメア・フェニックス》といったモンスター効果で処理するシーンも多いだろう。だが思い出してほしい。遥か昔から、私たちは《サイクロン》で《サイクロン》を割るような戦いを繰り広げながら今の遊戯王を作り上げてきたのだ。その偉大なる大先輩たちは今もストレージから君たちを見守ってくれているのである。
牛の存在は私たちにバック除去の大切さを思い出させてくれる。自分が安心してコンボを決めるためだけでなく、相手との心理戦――伏せたカードがブラフか、キーとなるカードか、はたまた《やぶ蛇》のように破壊したらまずいカードか?――それを通し、戦いをより苛烈なものへ盛り上げていく大事な役割も兼ねているのだ。
だから、怒らないでほしい。君がさっき伏せたその《炎舞-「天璣」》《炎舞-「天枢」》をエンドフェイズに《ツインツイスター》で破壊してしまっても……え、許してくれないんですか? やだぁ――――っ!