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さいしょの小話:忘れ去られし強者たちよ
公式からの新規情報が出ると情報系のサイトはデュエリストで賑わってああでもないこうでもないと適当なことが言われるようになります。「このカードは強い」「全然使えない」「かわいい」「媚びるな公式」……これは皆さんどこかで見たことのある光景のはずです。
収録されるカードの情報を目当てにパックを買い、目当てのカードが出て喜ぶ人もいればあまり目当てのカードを当てられずに落ち込む人もいます。もしくは発売されて少ししてからシングル買いする人もいるでしょう。その弾の中に強いカードが含まれていれば猶更そのカードのことを気にしながら買い物しますよね。
そして……多くの場合、「そうでもない」カードは忘れ去られます。皆さんは「CIRCUIT BREAK」で収録された《水精鱗-ネレイアビス》の効果をしっかり覚えていますか? これは私が「水属性フルモンスター」というデッキでバリバリ使っているモンスターで、水属性の数少ない手札誘発モンスターでありコンバットトリックを行えるのです。手札の《城塞クジラ》を叩き割ってうんぬんかんぬん……(小声になっていく)
《水精鱗-ネレイアビス》
【 効果モンスター 】
星 3 / 水 / 水族 / 攻1200 / 守2000
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードを手札から捨て、自分フィールドの水属性モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスター以外の自分の手札・フィールドの水属性モンスター1体を選んで破壊し、対象のモンスターの攻撃力・守備力はターン終了時まで、この効果で破壊したモンスターの元々の数値分アップする。この効果は相手ターンでも発動できる。
②:このカードがフィールドから墓地へ送られた場合に発動できる。自分はデッキから1枚ドローし、その後手札を1枚選んで捨てる。
――とまあ、話を戻すと、《ヴァレルロード・ドラゴン》の効果を覚えている人は多いでしょうが、ネレイアビスの効果を覚えている人は多くない、ということです。
しかし、これはある意味では宿命のようなものです。目立つカードがいれば、表舞台に出ることなくひっそりとストレージの山へ消えていくカードもいます。むしろストレージ行きとなったカードの方が圧倒的に多いでしょう。
そんなカードを掘り起こすこの企画。今回その対象となったのは……《No.28 タイタニック・モス》です。
1.エントリーシート確認:基本的な性能を見てみよう
《No.28 タイタニック・モス》が登場したのは2017年3月11日の「PREMIUM PACK 19」でした。その弾で新規収録された有名カードをあげれば《牛頭鬼》《V・HERO ヴァイオン》などがあり、決して買われなかったパックにいたわけではありません。ただ、同期の連中がスゴすぎてあまり注目されなかっただけ……
《No.28 タイタニック・モス》
【 エクシーズモンスター 】
星 7 / 炎 / 昆虫族 / 攻2400 / 守2200
レベル7モンスター×2
①:自分フィールドにこのカード以外のモンスターが存在しない場合、このカードは直接攻撃できる。
その直接攻撃で相手に与える戦闘ダメージは半分になる。
②:このカードが相手に戦闘ダメージを与えた時、このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。相手の手札の数×500ダメージを相手に与える。
ランク7と比較的出しやすいこのモンスターは自分フィールドのモンスターがこれのみの場合に直接攻撃することができます。また、相手に戦闘ダメージを与えた時には相手の手札の枚数×500のダメージを与えることができ、《革命》など相手の手札を参照するバーンカードの中ではぶっちぎりのバーン性能を誇ります。ご存じでしたか?
昆虫族炎属性というやや珍しい特徴も見られます。攻撃力はやや物足りない感じですが、エクストラデッキから出すモンスターとしてはそこまで弱いわけではありません。
このカードを出すうえで問題点を挙げるとするなら、ランク7帯が《No.11 ビッグ・アイ》を筆頭とした非常に多くの強力モンスターでひしめきあっていることでしょう。ただランク7モンスターを使いたいだけならこのカードを使う理由はないため、ひっそりとストレージの中へ消えていくことになります。
このカードが大活躍するデッキ、というのは難しいかもしれないけど、せめてどこかのデッキで役に立ちたい……そんな声が聞こえてきたような気がしたので、《No.28 タイタニック・モス》の就職先を一緒に探してみましょう。聞こえたんですよ、ええ聞こえたんですとも。
2.個人面接:どういう方向性で活躍させるか
ただランク7が出せそうなデッキに突っ込むのではなんだか味気ないですよね。やはり、あのバーン効果をうまく活用できるようなデッキに入れてみたいものです。しかもただバーンするだけじゃなく、そのバーンにも意味を持たせたい……
バーンカードに生まれたからには、その効果を発動して相手が「うわっ、めっちゃ強いじゃんそれ!」と言わせてみたい。そんな《No.28 タイタニック・モス》の声が聞こえてきたような気がするので、ただ無意味にバーンする案は不採用です。しっかりとした場所でしっかりバーンしてもらいます。
そこで我が社が誇る最先端カード就活システム(人力)を駆使し、このカードが華となりえるデッキを探してみました。ランク7の地点で予想がついている方も多いでしょう。そう、このデッキの就職先は――
――「真紅眼(レッドアイズ)」です。
3.就職先(デッキレシピ)決定!:《No.28 タイタニック・モス》はこう活躍させろ!
【メインデッキ】モンスターカード・3 《真紅眼の黒竜》・3 《真紅眼の亜黒竜》・3 《真紅眼の黒炎竜》・1 《デーモンの召喚》・2 《真紅眼の凶星竜-メテオ・ドラゴン》・3 《黒鋼竜》・1 《真紅眼の幼竜》・3 《伝説の黒石》・1 《闇黒の魔王ディアボロス》
魔法・罠カード・3 《黒炎弾》・3 《レッドアイズ・インサイト》・3 《紅玉の宝札》・3 《真紅眼融合》・3 《復活の福音》・1 《ワン・フォー・ワン》・1 《死者蘇生》・1 《レッドアイズ・スピリッツ》・1 《真紅眼の鎧旋》・1 《鎖付き真紅眼牙》
【エクストラデッキ】・1 《No.28 タイタニック・モス》・2 《真紅眼の鋼炎竜》・1 《No.42 スターシップ・ギャラクシー・トマホーク》・1 《悪魔竜ブラック・デーモンズ・ドラゴン》・2 《流星竜メテオ・ブラック・ドラゴン》・1 《天球の聖刻印》・1 《リンクリボー》・1 《リンク・スパイダー》・1 《セキュリティ・ドラゴン》・1 《トロイメア・フェニックス》・1 《トロイメア・ユニコーン》・1 《トポロジック・トゥリスバエナ》・1 《トポロジック・ボマー・ドラゴン》
「レッドアイズ」デッキは様々な型がありますが、このデッキは相手にバーンでダメージを与えていくことに特化した「レッドアイズ・バーン」寄りの形になりました。専用魔法を使って墓地に「レッドアイズ」モンスターを溜め、《真紅眼の鎧旋》や《復活の福音》で蘇生させながらレベル7モンスターを揃えていきます。
このデッキでやることは次の三つです。
- 《真紅眼融合》で墓地にレッドアイズモンスターを落としながらエクストラデッキから《流星竜メテオ・ブラック・ドラゴン》《悪魔竜ブラック・デーモンズ・ドラゴン》を融合召喚し、高い攻撃力やモンスター効果で相手のライフを削っていく。
- 《レッドアイズ・インサイト》のコスト等で墓地へレッドアイズレベル7モンスターを落とし、数々の蘇生カードで墓地から特殊召喚してランク7モンスター《No.28 タイタニック・モス》《真紅眼の鋼炎竜》のエクシーズ召喚に繋げる。
- 場のレベル1モンスター《黒鋼竜》や、場のレベル7モンスター2体でエクシーズ召喚された《No.42 スターシップ・ギャラクシー・トマホーク》《バトル・イーグル・トークン》を活用してリンク召喚を行い、《トポロジック・トゥリスバエナ》《トポロジック・ボマー・ドラゴン》でフィールドを制圧する。
《真紅眼の鋼炎竜》
【 エクシーズモンスター 】
星 7 / 闇 / ドラゴン族 / 攻2800 / 守2400
レベル7モンスター×2
①:X素材を持ったこのカードは効果では破壊されない。
②:X素材を持ったこのカードがモンスターゾーンに存在する限り、相手が魔法・罠・モンスターの効果を発動する度に相手に500ダメージを与える。
③:1ターンに1度、このカードのX素材を1つ取り除き、自分の墓地の「レッドアイズ」通常モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを特殊召喚する。
この効果は相手ターンでも発動できる。
このデッキでは、《真紅眼融合》を使わないとき、相手のライフを持続的に削ることができるランク7エクシーズモンスター《真紅眼の鋼炎竜》を立てる状況が多くなります。タイタニック・モスが活躍できないじゃないか、ですって? 心配いりません。ちゃんとお仕事は残っていますよ。
というのも、《真紅眼の鋼炎竜》や《黒炎弾》で相手のライフが減ってくると、向こうも迂闊にカードを発動しなくなって状況によっては膠着状態になることがあります。場を崩されないよう高攻撃力のモンスターを立たせ、場の状況を確実に逆転できるようになるまで相手の動きが止まるんです。
ほんの1、2ターンですが、《No.28 タイタニック・モス》の仕事はまさにこの瞬間なのです。戦闘ダメージとは別に相手の手札1枚につき500ダメージを与えられるこのカードにおいては、相手のライフが2000を切った辺りからが勝負になります。
そしてこれは「レッドアイズ」側の話ですが、「レッドアイズ」デッキでは多くのモンスターが場に並ぶことはあまりありません。これは専用融合カード《真紅眼融合》に大きな原因があります。
《真紅眼融合》
【 通常魔法 】
「真紅眼融合」は1ターンに1枚しか発動できず、このカードを発動するターン、自分はこのカードの効果以外ではモンスターを召喚・特殊召喚できない。
①:自分の手札・デッキ・フィールドから、融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、「レッドアイズ」モンスターを融合素材とするその融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターのカード名は「真紅眼の黒竜」として扱う。
太字にしたところをご覧になればすぐわかると思いますが、この専用魔法、発動すると他のモンスターを場に出すことができなくなります。出てくるモンスター自体は攻撃力が高くバーン性能も優秀なのですが、この重いデメリットのせいもあり「レッドアイズ」デッキで融合をすると自然とモンスターが並ばない形になるのです。
そして、思い出してほしいのですが、《No.28 タイタニック・モス》は自分フィールドのモンスターがこれのみの場合、直接攻撃を行うことができますよね。戦闘で与えられるダメージは半減してしまいますが、バーン効果のトリガーとしては十分です。
レッドアイズを墓地へ落としながら融合して相手のライフを削り、相手がそれをどかしてきたら今度は《レッドアイズ・スピリッツ》など蘇生札を用いてランク7のエクシーズ召喚。当然ながら場に他のモンスターはいないため、場には《No.28 タイタニック・モス》のみとなり、直接攻撃が可能に――
これです!
これですよ!!!
《No.28 タイタニック・モス》の仕事は「レッドアイズ」デッキの後詰めだったんです!
まとめ:どのようなカードにも使い道はある
アニメで有名なセリフにもありますが、遊戯王で「使えないカード」はありません。「弱い」と思われているカードは「環境で求められる最善ではない」だけで「その気になれば使える」ものが大半です。今回は《No.28 タイタニック・モス》について考察していきましたが、このように発掘されて使われることを待っているカードはまだまだ沢山あるでしょう。頑張ってもどうにもなりそうにない《ラーバモス》や「電子光虫」といったものもありますが……
決闘者は常に「最強」を求めがちです。
しかし遊戯王は最強であることが全てではありません。
「このカードはどうすれば使えるのだろう」と考える中での「気付きの喜び」だったり、相手の想像を超えたコンボで「驚かせる喜び」だったり。大会で勝ち残る以外にも様々な楽しみ方があるのです。
勿論楽しみ方は人それぞれであるため誰かが強制できるものではありませんが、このようなことに喜びを感じる人たちがいるということは覚えておいてほしい……
《No.28 タイタニック・モス》はそう言ったこともあり我々の頭から自然と「除外」されてきたカードでした。こういった「最強でない」カードにもきちんと向き合い、その使い方をしっかり考察することでデュエリストとしての知識や腕に磨きがかかっていくのでしょう。私はそう思っています。