目次
漫画でわかる!? スタートデッキ対戦編
■登場人物紹介
スタートデッキ構築編・イントロダクション
カードショップでの《不敗のダイハード・リュウセイ》を掛けた戦いから数日後、鬼札デッキ使いの亜衣は凜音の家を訪ねていた。
「やっほー、凜音! 遊びに来たぜ」
「いらっしゃい。あんまり遅いから、来ないんじゃないかと思ってた」
「いやー、弟たちにメシ作ってたら遅くなっちゃってさ」
そう言って照れ恥ずかしそうに頬を掻く亜衣。
凜音は、納得がいったという感じに腕を組んで頷いた。
「そういえば、LINEで兄弟がいるって言ってたね。偉いじゃん。私なんて全部お母さんに作ってもらってるし」
「んー、まあウチは共働きだからなー。ま、慣れてるし別に大変でもないよ」
それよりさ、と言って亜衣は鞄からさっとデッキケースを取り出した。
「デッキ見てくれるって約束だったよな!?」
「ええ、いいわよ。じゃ、ちょっと貸してちょうだい」
凜音は、一言許可を取ると亜衣のデッキをテーブルに置いて広げた。
「ふむふむ……スタートデッキを2つ買ってくっつけた感じなのね」
「ああ、そうだよ。お前と戦った時のまんまだ」
「うーん、見た感じ……こう、ちょっと……」
「紙束ってことか?」
口をへの字に曲げて言葉を濁した亜衣に対し、凜音はしれっとした顔で問いかけた。
「まあ、そうね。そう。そうです。このデッキには問題があります」
「やっぱね。あの後何回か弟とやってみたんだけど、全然勝てないし、そんなこったろうと思ってたんだ。それだから相談したんだよ。な、早くオレのデッキを良い感じにしてくれよ。凜音先生」
「はいはい、ちょっと待ちなさい」
先生、と呼ばれて頬が緩むのを感じながら、凜音はデッキの構築を頭の中で思い描いた。
先のカードショップでの一戦を終えてからというもの、亜衣はすっかり凜音に懐いていた。
最初のうち、凜音は亜衣の言葉遣いの荒さに少し距離を置いていたものの、話してみればだいぶ気さくで素直な人間であることがわかり、徐々に自分から話しかけるようになっていた。
ぶっきらぼうな言葉遣いも、男兄弟とコミュニケーションを取るための率直な表現の発露だと思えば、そう怖くもない。
「さて……と、まず問題点を洗い出しましょうか」
鬼札デッキの「罠」
「問題点? 」
亜衣は、ぽかんとした顔で言った.
凜音は、まるで教科書の例題の解き方を説明するかのようにハキハキと説明を始めた。
「そうよ、私が『これが正解です』って言ってレシピを貼っても次に繋がらないから、まずは『今このデッキの何がまずいか』を理解してもらいます」
「うげっ、なんかその口調、マジで学校の先生みたいだ」
「先生って言ったのはアンタじゃない! はい、じゃあ座って」
「はーい……」
「そもそも鬼札王国のスタートデッキは、難しいデッキなのよ」
「難しい?」
「そう、だいぶね。鬼タイムという能力が互いのシールドを参照する性質を持ってるせいで、『積極的に相手のシールドを割るカード』と『自分のシールドを割られないようにするカード』が一つのデッキ内に混在してるのよね」
「えーっと、もうちょっと具体的に」
「それじゃ、ちょっと実際のデッキに入ってたカードを見ながら説明していきましょうか」
【クリーチャー】
種族 ドラゴノイド / エイリアン / 文明 闇 / パワー1000 / コスト1
このクリーチャーは、可能であれば毎ターン攻撃する。
【クリーチャー】
種族 ビートジョッキー / 文明 火 / パワー1000 / コスト3
■S・トリガー(このクリーチャーをシールドゾーンから手札に加える時、コストを支払わずにすぐ召喚してもよい)
■このクリーチャーがバトルゾーンに出た時、自分の手札をすべて捨ててもよい。そうしたら、カードを2枚引く。
「この辺りは『積極的に攻める』カードたちね。いわゆる『アグロ』のカードよ」
「《トツゲキ戦車 バクゲットー》もそうなのか?」
「ええ、スピードアタッカーやWブレイカーは持ってないけれど、実質的に『手札が1枚以下ならハンドが増える』カードだから、これもアグロ戦略向けのカード」
【クリーチャー】
種族 デモニオ / 鬼札王国 / 文明 闇 / パワー1000 / コスト3
■ブロッカー(このクリーチャーをタップして、相手クリーチャーの攻撃先をこのクリーチャーに変更してもよい)
■このクリーチャーは攻撃できない。
■鬼タイム :自分と相手のシールドの数が合計6つ以下なら、このクリーチャーの「攻撃できない」能力を無視する。
■このクリーチャーがバトルに負けた時、自分の墓地からタップしてバトルゾーンに出す。
【クリーチャー】
種族 デモニオ / 鬼札王国 / 文明 闇 / パワー1000 / コスト5
■S・トリガー(このクリーチャーをシールドゾーンから手札に加える時、コストを支払わずにすぐ召喚してもよい)
■スレイヤー(このクリーチャーがバトルする時、バトルの後、相手クリーチャーを破壊する)
■このクリーチャーがバトルゾーンに出た時、自分の山札の上から3枚を墓地に置く。その後、クリーチャーを1体、自分の墓地から手札に戻してもよい。
■鬼タイム :自分と相手のシールドの数が合計6つ以下なら、このクリーチャーに「ブロッカー」を与える。(「ブロッカー」を持つクリーチャーをタップして、相手クリーチャーの攻撃先をそのクリーチャーに変更してもよい)
「そして、この人たちは『自分のシールドを守る』のが仕事」
「凜音、お前カードを『この人たち』って言うんだな。かわいらしいじゃんね」
「う、うるさいわね! ……えーっと、そうそう。この辺のカードは、アグロよりは少し遅めの戦略……いわゆる『ミッドレンジ』デッキで強く使えるようになってるのがわかるかしら?。ここのグループはミッドレンジ向けのカード。オッケー?」
「オッケー。でも、《ガワラ入道》も《ツルハシ童子》も一応相手のシールドを割れるよな。《「辻斬」の鬼 サコン丸》に至ってはWブレイカーまで付くぜ」
「そうね。それに関しては、タカラトミーさんの工夫の結晶と言ってもいいんじゃないかしら。シールド関連はとり難しいギミックだから、初心者がミスしないように守りを固めるカードもバランス良く配置して、鬼タイムの面白さを味わえるように作ってある……と私は思うわね」
「なるほどなあ。凜音は細かいことまでよく考えてるな。オレは適当に強そうなカードをまとめてるだけだからなあ」
「そう、それがまずいのよ。鬼札デッキを改造する時に陥りやすい罠、それが『混ざりづらい2つの戦略のカードを同じデッキに入れてる状態になる』こと。一番ダメなパターン」
「ダメなパターン……確かに、トリガーで《九番目の旧王》を踏んだ後に《ガワラ入道》を引いて『こいつが殴れるクリーチャーだったらなあ』って思ったことが多いな。つまり、一貫性を持てってことか?」
「そういうこと。そこまでわかってくれたなら説明した甲斐があったわ」
アグロ鬼札と鬼札カード雑感
「というわけで、実際にスタートデッキ2つのカードを集めてデッキを組んでみましょうか。まずは、アグロに寄せてみた構築を用意したわ」
「おおっ! 4枚積みのカードが多い!」
「アンタが適当に2枚とか3枚取ってるカードが多すぎなのよ……アグロは動きを安定させたいから、引きたいカードは4枚積みが基本ね」
「これはわかりやすくていいな。引いた順に叩きつけて殴って勝つ! だ」
「レインボーカードがマナゾーンにタップで置かれる事は常に意識しておくのがいいわ。まあ、押して押してジャオウガ! で全然勝てるけど」
【クリーチャー】
種族 デモニオ / 鬼札王国 / 文明 火 / パワー4000 / コスト3
■スピードアタッカー(このクリーチャーは召喚酔いしない)
■このクリーチャーが攻撃する時、自分のシールドを1つ、手札に加える。ただし、その「S・トリガー」は使えない。
■鬼タイム :自分と相手のシールドの数が合計6つ以下なら、このクリーチャーの攻撃中、自分のカードはシールドゾーンを離れない。
「上で説明しなかったけど、《キズグイ変怪》は現状どんな型の鬼札デッキを入れるにしても積んだほうがいいと思う」
「こいつめちゃくちゃ強いよな。パワー4000あるし、お互いに1枚シールドが減るから鬼タイムも達成しやすいしな」
「そうね。後で説明するけど、ミッドレンジ構築にする時も『相手のクリーチャーを殴り返しながら1枚手札補充』の動きができるからかなり有用よ」
「あれ、《襲来、鬼札王国!》は2枚しか入れないのか? 強いのに」
「えーっと……それには理由があって、まず1つは『アグロデッキの動きに貢献してくれない』こと。これは同じスタートデッキのジョーカーズデッキと戦う時に発生しやすいのだけど、アグロ同士で殴りあいしてる時にこれがトリガーしてもあんまり強くないのよね」
「強くないかな? 『コスト8以下破壊』のモードがあるから腐らないだろ」
「だけど、ほとんどの場合で破壊のモードを使うのなら『多色になって使いづらくなった《イフリート・ハンド》』じゃない?」
「うわっ、確かに!」
「2つめも同じ根っこの問題で、『アグロデッキでは蘇生モードが活きない』こと。例えば、相手の場に大型クリーチャーが何体か並んでて、こっちの場は空っぽ。そして相手のシールドが2枚、こっちのシールドが残り1枚の状況で鬼タイム達成状態の《襲来、鬼札王国!》がトリガーした時の事を考えてほしいんだけど、このデッキ全体で蘇生して嬉しいカードって何かある?」
「えーっと……あれ、あんまりない?」
「まあそうね。残り1枚のトリガーで誤魔化しつつ《トツゲキ戦車 バクゲットー》からスピードアタッカー2枚引いてどうにか削り切るチャンスを作る……ぐらいしかないと思う」
「一応運が良ければ《ツルハシ童子》も似たような動きをできるけど、結構厳しいな」
「例に上げた盤面は極端だけど、実は前のめりなデッキと《襲来、鬼札王国!》の相性ってそんなに良くないのよ。カードパワーは高いのは認めるけどね」
「じゃあ、ゼロ枚でも?」
「私はそれでも全然いいと思うわ。その場合は《「辻斬」の鬼 サコン丸》を増やすことになるかしら。ただ、ゼロ枚だとパックに入ってる方の《勝熱英雄 モモキング》にどうやっても勝てなくなるのよね。だから、一応入れてる」
「あー……アレ強いよな」
ミッドレンジ鬼札
「こっちはミッドレンジに寄せた構築よ」
「えーっと、これもどんどん出して殴って良いのか?」
「ちょっと判断が難しいのだけど、想定しておく理想の勝ち方は『鬼タイム状態で盤面を制圧して、《鬼ヶ鬼 ジャオウガ》でシールドを全部割って勝つ』ことね」
「なるほど?」
「とにかく、押し引きのタイミングを見極めることが重要。一番良いのは《キズグイ変怪》で2回殴って鬼タイムを迎えることね。そうでないのなら、《虹彩奪取 ブラッドギア》から除去効果とスレイヤーを持つ《闇鎧亜ジャック・アルカディアス》を早出しして相手の盤面をかき乱すのが大事よ」
「うんうん、ジャックには何度も救われたよ。カードを指定する効果だから《卍 新世壊 卍》なんかにも対応できるしな」
【クリーチャー】
種族 デモニオ / 鬼札王国 / 文明 火 / パワー5000 / コスト5
■スピードアタッカー(このクリーチャーは召喚酔いしない)
■各ターン、このクリーチャーがはじめて攻撃する時、アンタップする。
■鬼タイム :このクリーチャーが破壊された時、自分と相手のシールドの数が合計6つ以下なら、相手のパワー8000以下のクリーチャーを1体破壊する。
「この戦略を支えるカードは、なんと言っても《「双打」の鬼 ウコン丸》よ」
「へー、Wブレイカーじゃなくて『殴った時アンタップ』だからあんまり強くないかと思ってた」
「聞き捨てならないわね。Wブレイカーよりだいぶ取り回しの良い能力よ」
「マジで!?」
「『相手のクリーチャー2体を殴り返す』『相手のクリーチャーを1体だけ殴って、アンタップでターンを迎える』『相手のクリーチャーを1体殴り倒して、2回めのアタックは自爆特攻して除去効果を使う』『スーパーSトリガーを警戒してシールドを1枚残して、次のターン一斉攻撃に回す』『相手のシールドが残り4枚のところで 《鬼ヶ鬼 ジャオウガ》 から釣って2点+1点+1点でプレイヤーアタック』その他もろもろ。このカードの使い方が、鬼札デッキの明暗を分けると言っても過言ではないわ」
「きゅ、急に早口に……」
「 《鬼ヶ鬼 ジャオウガ》 +サコン丸で分割4打点が出せる事を常に頭に入れておくと間違えないわよ。数学の公式みたいなものね」
【クリーチャー】
種族 デモニオ / 鬼札王国 / 文明 闇/火 / パワー11000 / コスト10
■鬼タイム :自分と相手のシールドの数が合計6つ以下なら、このクリーチャーの召喚コストを5少なくする。
■スピードアタッカー(このクリーチャーは召喚酔いしない)
■W・ブレイカー(このクリーチャーはシールドを2つブレイクする)
■このクリーチャーが攻撃する時、闇または火の、コスト7以下の進化ではないクリーチャーを1体、自分の墓地からバトルゾーンに出してもよい。
「 《鬼ヶ鬼 ジャオウガ》 が2枚入ってる構築なら、1体目を出してシールドを殴らずクリーチャーを殴って誰かを蘇生してエンド。次のターンでもう1枚 《鬼ヶ鬼 ジャオウガ》 を出して過剰打点で押し切るパターンもあるわね。とにかく、色々攻め方があって面白いわよ」
「なんていうか、ムズそうなデッキだな」
「慣れるまでは難しいけど、『相手の盾をどれぐらいの打点を作って割り切るか』というのはデュエマの基本の考え方だから、これから別のデッキを使うときにも間違いなく有用よ。『少しずつ割って次のターンで倒すか?』『このターンは何もせずに次で 《鬼ヶ鬼 ジャオウガ》 を呼んで一気に割るか?』。それらの思考とその結果をちゃんと頭に叩き込んで回していくしかないわね」
「うう、精進するぜ……」
おわりに
「あ~~~~疲れた!」
亜衣は、ごろんと床に伸びをして寝転がった。
それに釣られて、凜音も正座を崩して立ち上がった。
「そうね……ちょっと熱くなりすぎたかも。そろそろ日が暮れちゃうわ」
「流石にそろそろ帰らなきゃな。今日はありがとうな。自分じゃここまで考えてデッキ組めないから、助かったぜ」
亜衣は、寝転がったまま左目をぱちりと閉じてウインクした。
「今回はスタートデッキ2つ縛りだったけど、十王篇一弾のカードやドッキングパックのカードも相性が良いから検討してみると良いわよ。アグロ型なら赤黒それぞれの『コダマンマ』が強いし、ミッドレンジ型なら《「非道」の鬼 ゴウケン齋》がおすすめね」
「うわっ、またカード名がいっぱい出てきた。えーっと……よしじゃあ、今度一緒にまたあのショップ行ってさ、カードについて教えてくれよ」
「……しょうがないわね。それまでちゃんとwikiとかで調べておくのよ」
「わかったわかった。頼むぜ、凜音先生」
凜音は、むすっと頬をふくらませる素振りをしつつ、にっこりと笑った。
亜衣も、それに釣られるように、からっとした笑い声で応えた。
夕暮れの訪れを告げるぬるい風が、さらっとカーテンをなびかせ、残り火のような日光が、きらきらと部屋の中を照らした。