Writer:神結
英雄は戦いの歴史を作り、歴史は英雄の戦いを讃える。
《殲滅の覚醒者ディアボロス Z 》へ覚醒させ、「ルネッサンス」を絶望の淵に叩き落としたMGR、天門の野望を打ち砕き初代GP王者に輝いた垣根、その天門以て日本一の扉を開け放ったじゃきー。
せいなは《「修羅」の頂 VAN・ベートーベン》を僅かに躱してGP・全国を統一し、dottoは自らの価値を2017年全国大会で知らしめた。
えんがわは勇気と信念を貫き西の強豪を次々と撃破しGP王者へ登り詰め、そのえんがわに敗れたギラサキは日本一の栄光を掴み取り、最後には笑った。
これらはまさしく、英雄たちの輝かしい歴史だ。
その一方で、歴史の中に埋もれていく戦いもある。
埋もれた歴史を引き起こし後世に残すのは歴史家の役割であり、物書きの使命だ。
ギリシアの歴史家ヘロドトスは、古代オリエント世界の偉業を後世に伝え残した。
彼の著作『歴史』は太古の世界を今に伝え、現代を生きる我々に大いなる浪漫を抱かせてくれる。
前置きがやや長くなった。
時は2018年、平成の世の末。
エリア予選2018南東北ブロックで、一つの名勝負があった。
この大会はZweiLanceが自身の代名詞とも言える「デスザーク」を使い優勝し、全国大会への出場を決めた。歴史には、そう記されている。
確かに、予選を免除されていたZweiLanceは手堅く勝利を収めていた。己の実力を見せ付け、ゲームをコントロールし、そして頂点に輝いた。
それは準決勝、決勝でも変わりはなかった。ZweiLance強し――その印象を大きく与える大会だったのだ。
だが一度、たった一度だけ、この大会でZweiLanceに敗北を覚悟させた瞬間があった。勝負の行方が、勝利の女神の気まぐれに――それもかなり分の悪い格好で――託された試合があった。
準々決勝、"ZweiLance vs あらまし" は南東北大会の趨勢を決める試合となった。
ほんの一瞬振れた針が、零れた一滴の雫が、微かに差した一筋の光が、そんなごくごく僅かな差で勝敗は決した。
このゲームは、カバレージ卓では行われていない。故に記録には残っていなかった。この試合を目撃した人の記憶に残るのみだ。
だからこそ、この名勝負をここに書き残しておく。
平成名勝負数え歌。
さあ、歴史を語り継ぐべく、時計の針を平成の世へ戻そう。
目次
序.ZweiLanceのデスザーク
2018年11月18日。まもなく仙台は冬支度に入る。エリア予選南東北大会は、晴天に対してやや肌寒い日に行われた。
この時の環境を、少し振り返っておこう。
2018年のエリア予選は、《勝利龍装 クラッシュ“覇道”》に《“轟轟轟”ブランド》という強力な2種のカードを擁する「赤青覇道」が絶対的な王者として君臨していた。
「バラギアラ」はまだ存在せずGP7thで優勝と準優勝を分け合った「白ゼロサッヴァーク」は使用難度が高く、「赤青覇道」に対して劣勢となる展開も多かった。
一方、ZweiLanceが使用したのはそのどちらでもない。
予選を免除されていた彼が選んだのは、GP7thで栄冠を掴み損ねた「デスザーク」であった。
自身の分身とも言えるデッキだが、使用した背景にはしっかり勝算があった。
「黒単デスザーク」 使用:ZweiLance
- 3 x 《堕魔 ドゥポイズ》
- 4 x 《堕魔 ドゥシーザ》
- 2 x 《堕魔 ドゥリンリ》
- 4 x 《堕魔 ドゥグラス》
- 4 x 《堕魔 グリギャン》
- 3 x 《堕魔 グリペイジ》
- 1 x 《堕魔 グリナイブ》
- 4 x 《堕魔 ヴォガイガ》
- 4 x 《堕魔 ヴォーミラ》
- 4 x 《追憶人形ラビリピト》
- 4 x 《卍 デ・スザーク 卍 》
- 3 x 《卍月 ガ・リュザーク 卍/卍・獄・殺》
鍵を握っていたのは、《堕魔 グリペイジ》。このカードは"覇道・白ゼロ環境"に強く、それでいて腐りにくい。
《堕魔 グリペイジ》は強い――その目論見は正しかった。本戦1回戦ではやや変則的な「トリガービート」を危なげなく退けると、2回戦の相手はおやつ日本一経験者のJOKER。
《追憶人形ラビリピト》より先に《煌世主 サッヴァーク†》が立たれる苦しい展開となったが、覚悟を決めると決死の総攻撃をかけて勝利。
読みがハマれば、プレイも冴える。
そうして彼は、順当に準々決勝へと駒を進めた。
そこで待っていたのが、あらましだった。
2.あらましという男
あらましはどこか飄々としていて、掴みどころがなかった。
その雰囲気、モデルのような体躯と容姿を合わせて、付いたあだ名が「東北のアイドル」なのも納得のいく話ではある。
そんな彼だが、プレイヤーとしての実力も確かだった。周囲が彼を評価する言葉は一様に「上手い」というものだった。
この評価は、ZweiLanceを惑わせた。それは単にあらましが強いから、という訳ではない。
ZweiLanceはDMPランキングによる全国大会出場のため関東等へ遠征を繰り返していた。
反面、地元である宮城県内のCSへの参加はそれほど多くなく、宮城県内のプレイヤーに対する知識はあまりなかった。
あらましについても、前述の「上手い」というイメージを漠然と掴んでいるだけだった。当時の印象についてこう語っている。
「(あらましとは)そこまで面識はなかったんです。腕が立つプレイヤーとは聞いていましたが、直接見たことがなかったので未知数でした。
強いと言ってもどう強いのか、プレイが上手いのか? 上手いといっても二択になったときどういった選択をするのか? 強気のプレイと取るのか、堅実なプレイを取るのか? そういった部分が全くわからなかったので、不気味だったんです」
デッキもまた、不気味だった。
あらましがこの日使用したのは、「青白サッヴァーク」である。
これは「白ゼロサッヴァーク」とは違う。
《エナジー・ライト》や《クリスタル・メモリー》が入り、墓地をリセットする《ポクチンちん》まで採用していた。そして何より《サッヴァーク ~正義ノ裁キ~》が際立っている。
あまり目にする機会は少ないカードだが、「デスザーク」を使うZweiLanceにとっては厄介極まりないカードであった。
その効果は、破壊耐性。自身のシールドに表向きのカードがあるとき、このクリーチャーは破壊されない。
「青白サッヴァーク」 使用:あらまし
- 3 x 《奇石 ミクセル/ジャミング・チャフ》
- 4 x 《終末の時計 ザ・クロック》
- 4 x 《プロテクション・サークル》
- 4 x 《エナジー・ライト》
- 3 x 《ポクチンちん》
- 4 x 《クリスタル・メモリー》
- 4 x 《ドラゴンズ・サイン》
- 4 x 《煌龍 サッヴァーク》
- 3 x 《サッヴァーク ~正義ノ裁キ~》
- 4 x 《天ニ煌メク龍終ノ裁キ》
- 3 x 《ノヴァルティ・アメイズ》
ふと、このリストを見直したとき、あらましは「ZweiLanceとどこかで当たることを望んでいたのではないか?」と思ってしまった。
すなわち、あらましはZweiLanceに勝つためにこのデッキを作ったのではないかということである。
南東北のデッキリストは全て見たが、これほど「デスザーク」と戦う気満々なリストは他になかった。
もちろんこれには筆者の妄想が少なからず入っていたわけだが、話を聞くと全くの見当違いということでもなかったらしい。
「本戦には確定でスザクが――Zweiさんがいるんですよ」
あらましは言う。
彼は一人しか全国大会の権利を得られないエリア予選という場で、「勝てないデッキ」を作りたくなかった。全ての環境デッキに、一定以上の勝利が見込める必要があった。
「当時よくスザクを使っていたP-90さんやchaserさんもいることから、自分が優勝するにはスザクとの戦いは避けては通れないな、と考えてました。(対策は)必須かな、と感じてましたね」
彼は想定通り、準々決勝でZweiLanceを迎え撃つことになる。
「《堕魔 グリペイジ》は辛い」ということではあったが、それでもあらましにはZweiLanceのデスザークと戦えるだけの算段はあった。
故にこの準々決勝は望むところ。
「相手がZweiLanceということがとても嬉しくて……なんというんですかね、強敵とやりあえる、何としても倒してやるという気持ちが強かったですね」
かくして舞台も役者も整った。ZweiLanceは輪郭の見えない相手に、あらましは強敵に対し自信を持って、それぞれ挑む。
双方が異なる思惑を抱えながら、戦いは始まった。
3.攻防戦
「デスザーク」というデッキについて、改めて確認しておきたい。
このデッキにはわかりやすい到達点がある。ビートに対しては《卍 デ・スザーク 卍 》で、コントロールに対しては《追憶人形ラビリピト》+《卍月 ガ・リュザーク 卍》で刈る。
こう書くと一見単純明快な気もするが、残念ながらそうもいかない。黒単という性質上欲しいカードを引ける訳ではなく、手札状態も常に万全という訳でもない。キープ基準は悩ましい。使用に際しては練習が必要だ。
あらましのデッキはコントロール寄りだ。基本的に「デスザーク」側が動きを押し付けていく展開になる。
ゲームは序盤からZweiLanceが主導権を握ることに成功した。魔導具を順序よくプレイし、墓地も作り「デスザーク」側が充分と言える流れだった。
《堕魔 ヴォガイガ》が着地し、拾った《堕魔 グリペイジ》投げる。
こうしてじわりじわりと差を広げるうちに、必殺の《追憶人形ラビリピト》+《卍月 ガ・リュザーク 卍》までもが決まった。
《卍月 ガ・リュザーク 卍》自身は《ポクチンちん》の効果でデッキボトムへと送られたものの、その代償に全ての手札を刈り取った。
こうなると、流石に「デスザーク」側の勝勢となる。
あとはゆっくり時間を掛けてコントロールする。着実に、盤石に寄せればよい。
それで、この戦いは終わる。
試合を観ていた観客も、ZweiLance自身もそう思っていた。
しかし、あらましは簡単にはゲームを諦めなかった。そしてデッキも、この粘りに応えてみせる。
「結構な頻度でポクチンを引かれたんですよ」
墓地から展開出来るのは「デスザーク」の強みである一方、弱点でもある。
《堕魔 ヴォーミラ》を召喚し、さぁ次に打点を並べるぞという矢先で《ポクチンちん》。
仕方ない、墓地を作り直します。《堕魔 ヴォガイガ》を出します、《堕魔 ヴォーミラ》を回収します、《堕魔 ドゥポイズ》で破壊します、《堕魔 ヴォーミラ》を再度出します。
さぁ次こそ……というところでここでも《ポクチンちん》。
ターンと時間が消費されていった。ZweiLanceも想定しなかったこの誤算が、僅かに歯車を狂わせていく。
あらましは冷静だった。そして、よく耐えた。
ZweiLanceが思うように打点を作れない中で、あらましはターンをもぎ取る。
そして我慢の果てにドローした《サッヴァーク ~正義ノ裁キ~》が、遂にバトルゾーンへと降り立った。
そしてこの《サッヴァーク ~正義ノ裁キ~》は、あらましの運命を急転させていく。
4.我が呼び声に応えよ裁キ
ここであらましが引いたのが《煌龍 サッヴァーク》だったならば、ZweiLanceは何の苦慮もなかった筈だ。
《卍 デ・スザーク 卍 》と《堕魔 ドゥポイズ》を当てて、それでゲームは終わりだった。
だが、《サッヴァーク ~正義ノ裁キ~》だと事情が異なってくる。
改めて確認しよう。
このカードは、召還時に山上2枚を1枚が表、1枚が裏の状態でシールドへと置く。
そして、シールドに表向きのカードがあるとき、このクリーチャーは破壊されない。
そう、破壊されない。
黒単というデッキがどうしても抗えない、破壊不能効果。
これを咎めるにはどうにかして表向きとなったシールドをブレイクするしかない。
だからZweiLanceは1ターンを使って《サッヴァーク ~正義ノ裁キ~》を処理する準備を整えた。
盤面には《追憶人形ラビリピト》を含む小型のクリーチャーが並ぶ。対するあらましの盤面は、《サッヴァーク ~正義ノ裁キ~》と《終末の時計 ザ・クロック》だ。
このターン表向きのシールドを攻撃し、終了時に《卍月 ガ・リュザーク 卍》を宣言、手札を刈り取って続くターンに《卍 デ・スザーク 卍 》で《サッヴァーク ~正義ノ裁キ~》を処理する。
これで勝ちだ。
だがもう一つ、ZweiLanceには懸念があった。
「あらましが正義ノ裁キを召喚して山札2枚を見たとき、『おっ』って表情をしたんですよ。
当時は彼の性格をよく知らなかったから、これが本当に強いのか、ブラフだかわからなかったんです。
今思えばあんなに表情に出る人もいないと思うんですが……」
あらましが表向きにしていたシールドは《ドラゴンズ・サイン》だった。
いや、まさか。"まさかその下のカードが光のドラゴンなんてことはないよな?"
あらましの手札はない。
下のカードがなんであれ、いずれにせよあのシールドは殴るしかない。
ZweiLanceは攻撃を行うと、あらましは迷わずシールドトリガーの《ドラゴンズ・サイン》を宣言した。
「いや、ホントに強かったのかよそれ! って(笑)」
さらに悪いことに、やってきたクリーチャーはなんと二体目の《サッヴァーク ~正義ノ裁キ~》だったのだ。
表向きのシールドが復活したことで、破壊不能効果が復活してしまう。
更に更に《ドラゴンズ・サイン》で呼び出されたことにより、ブロッカーまでもが付与された。
これでは表向きのシールドを破ることが出来ない。
《卍月 ガ・リュザーク 卍》も意味を成さない。だからZweiLanceはここで終了を宣言した。
それでもまだZweiLanceの盤面には《堕魔 グリギャン》がいる。
シールドも5枚ある。時間は押しているものの、依然として優勢なのは変わらない。
だからあらましのドローに対しても比較的に冷静にその様子を見ていた。
この時のあらましのトップドローは《ノヴァルティ・アメイズ》だった。
「打つか相当迷ったと思いますよ」
ZweiLanceの墓地には《卍月 ガ・リュザーク 卍》が見える。
この状態で果たして7マナ使っていいのか。
熟慮の果て、あらましはこのカードをプレイすることに決めた。
それは何故か。もちろん、このままターンを渡してもじり貧になることは目に見えていた。
そしてもう一つ。
"アメイズ効果によりブロッカーを寝かせた状態"で、"トップからドローすると勝てるカード"がデッキに存在していたからだ。
意を決し、あらましは《ノヴァルティ・アメイズ》を唱える。
自分で下した決断だ。
渾身のドローを、あらましは行った。
そして、その手にもたらされたのは――《天ニ煌メク龍終ノ裁キ》。
思わずあらましは声を挙げた。
5.勝利の女神は歪に笑う
まるで天から降ってきたかのような、《天ニ煌メク龍終ノ裁キ》。
耐えに耐えた果て、あらましに最初で最後の、最大のチャンスが巡ってきた。
女神は確かに微笑んだ。
「天キラを引かれたのはもちろんわかりました(笑) うわ、ホントに引きやがったというか、コイツが主人公なのかよ、って」
《サッヴァーク ~正義ノ裁キ~》が二体、《終末の時計 ザ・クロック》、そして手札に《天ニ煌メク龍終ノ裁キ》。
こうなると、あらましはZweiLanceを打倒するだけの打点がある。
この時ばかりは、ZweiLanceにも敗北の二文字が頭を過ぎった。
ふと、脳裏に浮かんだ光景があった。
それは、GP7thの準決勝。
相対するギラサキに、トップから《天ニ煌メク龍終ノ裁キ》を引かれて敗れたシーンだ。
だが、その光景をZweiLanceは否定する。
「あの時は天キラを引かれたら即敗北だったんですよ。でも、今回は違う。俺にはまだシールドがあって、耐えるチャンスがある。こうなったらもう、魔導具とデスザークを信じるしかない。ここが人生の分岐点だな、と覚悟を決めました」
この土壇場で、ZweiLanceは開き直った。覚悟を決め、集中力を研ぎ澄ます。
対するあらましは、何をケアしてどう殴るかを必死に考えを巡らした。
だが考えようとすると、脳が思考を拒否していく。
「最高のトップデックでした。ですが龍終を引くことに成功して、初めてプレイ中に頭の中が空っぽになりました」
劇的過ぎる展開に、脳が付いてこない。何も思考が出来なくなった。
何をケアしなければいけないか、普段ならすんなり出てくる答えが何も思い浮かばない。
前述した通り、あらましのプレイングには確かな定評があった。
着々と思考を積み上げ、正確に読み切り、勝利を重ねる。2018年に制したCSは四度。勝つための方法を知っているプレイヤーのはずだった。
盤面の状況とは裏腹に、精神的に追い込まれていく。心理的優位はとっくに消えていた。
そんなあらましに、悪魔は囁く。
"何も踏まなければ勝てる"、と。
そこで、覚悟を決めてしまった。
覚悟を決めた男と、覚悟を決めてしまった男。
あらましは《サッヴァーク ~正義ノ裁キ~》を攻撃に向かわせた。
このWブレイクは通った。
続く2体目の《サッヴァーク ~正義ノ裁キ~》で攻撃を宣言、ここで《天ニ煌メク龍終ノ裁キ》を唱える。そして、プレイヤーを攻撃した。
だがこの殴り順は誤りだ。
正解はまず《終末の時計 ザ・クロック》で1点入れてから、《サッヴァーク ~正義ノ裁キ~》を動かさねばならなかった。
結果論でもなんでもなく、それが正解だ。
シールドの下2点から《堕魔 ドゥグラス》が現れた時、無月の門を宣言すると2打点止まってしまうからだ。
冷静さを失ったあらましの攻撃。
ZweiLanceがZweiLanceたる所以は、こうしたミスを的確に咎められるところだろう。
果たしてこの2点からZweiLanceは《堕魔 ドゥグラス》をトリガーさせると、迷わず無月の門を宣言した。
寝ていた魔導具たちは《卍 デ・スザーク 卍 》の餌となり、《終末の時計 ザ・クロック》を破壊。
更に場にブロッカーである《堕魔 ドゥグラス》も残すことも出来た。
この時のZweiLanceは、ゾっとするほどの冷静さでトリガーを処理した。
もう、どう足掻いてもあらましの打点は届かない。
あらましが手にする筈だった勝利は、いま眼前で消え失せた。
これが悪魔の誘いの代償なのか。
「虚無感というか、なんかただ辛くなりましたね。自分のミスで負けて、ミスしたのだから当たり前だけど、なんでミスをしてしまったのか……」
勝利の女神はあらましに一度は微笑みかけたが、最後は歪に笑ったのだ。
終.そして時は動き出す
「一番の山場でした」
改めて、ZweiLanceは試合をそう振り返る。
「あらましは最後の殴り方を悔しがってはいましたけど……勝機のある択を取らせることが出来た、と思ってます。あの試合は自信になりましたね。誇れる勝利でしたし、いい勝ち方でした」
この後、ZweiLanceが準決勝・決勝を勝利し全国への道を切り開いたことは、よく知られた通りである。
さて、この二人のエピソードには続きがある。
全国大会の出場を決めたZweiLanceは、その後は遠征ではなく地元の宮城県で力を蓄えることに専念した。
全国大会のレギュレージョンは2つ。
2ブロックと殿堂がある。
2ブロックはある程度「デスザーク」で目途が付くとは言えど、殿堂はそういうわけにはいかない。
「デスザーク」に殿堂を戦う力はなかった。
だから新たなデッキを使う必要があった。
その際に選んだのが「ジョーカーズ」であり、そして練習相手に選んだのがあらましだった。
実力が確かで、ジョーカーズとは何たるかを知っている。
あらましは練習パートナーとして、信を置ける存在だったのだ。
かくして、ZweiLanceは全国大会ベスト8まで登り詰めた。
その背景にはあらましとの死闘があり、そしてあらましと培ったデッキがあったと言えよう。
†
歴史にはストーリーがある。
人にもストーリーがある。人のストーリーを作るのは名勝負であり、名勝負で得た戦友である。
令和の初めに、平成の隠れた名勝負をここに書き記しておく。