DMというゲームが生まれてから17年。
17年という長い年月の中、数々の英雄たちの手によって、いくつもの英雄譚が紡がれてきた。
これは、そんな英雄たちの歴史といまに迫るドキュメンタリーである。
目次
1 英雄の足跡を追って
―DM界某所
私は、今なおDM界の頂に挑み続けている「ある人物」の足跡を追うため、彼が現在住んでいるという一軒家に足を運んでいた。
「はい。どちら様でしょうか。」
私を出迎えてくれたのは、紫がかったきれいな紅髪が目を引く、和装に身を包んだ美しい女性。
今回取り上げる《龍覇グレンモルト》氏の最愛の女性であり、幸せな時も、辛い時も、いつも彼の横でその活躍を見守ってきた存在、アイラ氏であった。
出典:デュエル・マスターズ
出迎えてくれた彼女に対し、グレン氏についての取材を行っている旨を伝えると、彼女は申し訳なさそうに首を振った。
「ごめんなさい。モルト、いえ、主人は、少し外に出ておりまして。少し前までは家にもいたんですが、なんだか聞いたことのない剣の声が聞こえるとか言って、家を飛び出したきり戻ってこないんです。」
剣、と彼女がそう呼んだのは、彼女たちと戦いを共にしてきた「ドラグハート」のことであろう。
「ドラグナー」と呼ばれる彼女たちは、龍の力を持つ武器「ドラグハート」と心を通わせることで、「ドラグハート」の封印された真の姿を解放することができた。
彼女たち「ドラグナー」は、「龍解」と呼ばれるこの力を使って、10年に一度開催されるという武闘レース『デュエル・マスターズ』を戦い、環境という舞台でも大いに暴れまわったのである。
そういえば、私のところにも、見たこともない剣を片手に、並み居る環境の強敵たちと渡り合う《超戦龍覇モルトNEXT》氏の目撃情報があがっていた。どうやら、アイラ氏の言う通り、彼はここにはいないらしい。
アイラ氏に礼を言ってその場を立ち去ろうとすると、彼女の口から思いもよらない言葉が投げかけられた。
「あのー、昔のモルトのことを知りたいんですよね。私でよければ、少しはお役に立てるかもしれません。」
常にグレン氏の隣で、彼の活躍を見守り、支え続けてきた存在。《龍覇グレンモルト》の活躍を聞くうえで、これ以上ふさわしい人物はいないだろう。
願ってもない彼女からの申し出を、私はすぐさま承諾し、急いで紙とペンを取り出した。
2 ビートダウンの新エース
《龍覇グレンモルト》氏が登場したのは、ドラゴン・サーガ第1章「龍解ガイギンガ」。《爆闘剣士グレンモルト》として、すでにその姿が確認されてはいたものの、彼が本格的にDMに参戦したのは本弾が初めてである。
龍解条件が達成しやすく、龍解すると極めて処理しにくいクリーチャーとなる《熱血星龍ガイギンガ》氏とグレン氏のコンビは、ビートダウンの新たなフィニッシャーとして、発売前から注目され、環境入りは間違いないとされていた。
そんな注目コンビが収録されるということに加えて、本弾は、その発売に先駆けて、コロコロコミック2014年6月号の付録になったことでも話題となった。
店頭販売されるものと同一の商品が書籍の付録として付けられる。過去類を見ない大胆な試みに、多くのプレイヤーが、誰よりも早く新しいカードを手に入れようと同誌を買いあさり、店頭から同誌が姿を消したなどという逸話も残っている。
出典:デュエル・マスターズ
また、同誌には、《龍覇グレンモルト》氏をはじめとする3枚のカードも付録としてついており、運が良ければこの号を買うだけで、グレン氏と《銀河大剣ガイハート》の最強コンビを手に入れることも可能であった。
出典:デュエル・マスターズ
このように、環境入りする前からDM界に大きな衝撃を与えた彼であるが、「龍解ガイギンガ」の発売と時を同じくして、彼が挑もうとしていた環境にも大きな衝撃が走っていた。
まさかの2度目の殿堂発表。
2014年3月15日、全国大会等の結果を受けて発表された殿堂入りカードの中には、当時環境で猛威を振るっていた即死コンボ【ヒラメキスネーク】や驚異の展開力・決定力を誇った【シューゲイザー】関連のカードが全く入っておらず、プレイヤーの中には不満の声を漏らす者もいれば、自分の使用デッキの無事を確認し安堵する者もいた。
しかし、そんなプレイヤーの環境予測を裏切るように、「龍解ガイギンガ」の発売に合わせて新たな殿堂入りが発表され、【ヒラメキスネーク】の主要パーツや【墓地ソース】の除去の要であった《疾封怒闘キューブリック》、【シューゲイザー】の決定力の要であった《鎧亜の咆哮キリュー・ジルヴェス》等、従来の環境デッキに大幅な規制がかけられたのである。
そんな混迷極める環境の中、彼がまず最初に手を組んだのは、前環境最強の一角《神聖麒シューゲイザー》氏であった。当時を振り返り、彼はグレン氏についてこう語る。
出典:デュエル・マスターズ
「・・・モルト君の印象ですか。そうですね、やはり、非常に安心感がありましたよ。キリューの抜けた穴を見事に補ってくれたと思います。私と彼という二人のエースがいたわけですから、相手としても非常にやりづらかったんじゃないでしょうか。」
グレン氏の振るうガイハートの龍解条件を満たすためには、クリーチャーによる二度の攻撃を行う必要がある。シューゲイザー氏の能力を生かすため、4コスト5コストのクリーチャーが大量に採用されている【シューゲイザー】とグレン氏の相性は非常に良かった。
グレン氏とシューゲイザー氏という二人のエースを擁するこのデッキは、両エースの名をとって【シュゲモルト】と呼ばれるようになり、多彩な攻め筋で相手を翻弄し、ドラゴン・サーガ環境を通して活躍するデッキの一つとなった。
また、グレン氏とガイハートは、その強力な効果ゆえに、あらゆるビートダウンのフィニッシャーとして注目を集めた。そのため、彼らを基軸とする様々な文明、カードの組み合わせが、多くのプレイヤーの手によって研究・開発された。
その中でも、多くのプレイヤーから絶大な支持を受けていたのが火闇自然、通称【デアリモルト】である。このデッキは、同様の文明で構成される【シュゲモルト】とは異なり、シューゲイザー氏の代わりに火の超次元呪文を採用している点に特徴がある。中でも、《超次元ガイアール・ホール》から、《時空の喧嘩屋キル》氏と《勝利のリュウセイ・カイザー》氏の超強力タッグを呼び出すという動きは強力で、グレン氏にアクセスできない場合でも十分勝ち切ることのできるパワーがあった。
当時、グレン氏とともに【デアリモルト】に採用され、環境を戦った《未知なる弾丸リュウセイ》氏はこう語る。
出典:デュエル・マスターズ
「モルト、あいつは本当にすごいやつだったよ、アメイジング。オレがデカブツ共の足止めしてる間に、とっとと勝負を決めちまうんだから。」
殿堂により《勝利宣言鬼丸「覇」》というSSRの排出率はおちたものの、《龍素記号Srスペルサイクリカ》氏という新たな戦力を手に入れ、ガチャもコントロールもできるデッキとして進化した【5色キューブ】。
苦手としていた即死コンボ【ヒラメキスネーク】が消えたこと、キューブリック氏という手軽な除去手段を失った【墓地ソース】に対して「リュウセイシリーズ」が強い制圧力を持つようになったことに加え、新戦力であるサイクリカ氏も加入したことにより、一気に環境トップクラスまで上り詰めた【カイザー刃鬼】。
当時の環境を牛耳っていた、これらのマナを伸ばすデッキタイプに対抗するため、グレン氏は《未知なる弾丸リュウセイ》氏と手を組んだ。「互いに6マナのみを残してそれ以外のマナを墓地に置く」という効果は、【デアリモルト】の動きを阻害することないメタカードとして強烈な威力を発揮し、グレン氏が環境で活躍する大きな助けとなった。
こうして、強力なクリーチャーたちを味方につけ、登場してから、あっという間に環境という表舞台に立つこととなったグレン氏。
その一方で、ガイハートの龍解を何とか阻止しようと、プレイヤー側も様々な手段を画策していた。
3 温故知新の英雄対策
DMの防御手段といわれて、真っ先に思いつくのは、やはりシールドトリガーであろう。
手札から使っても強力な効果を発揮する《モエル鬼スナイパー》や《ミサイル・バーストG》などは、モルト及び速攻対策として注目された。しかし、たった二度の攻撃のどこかで有効なシールドトリガーを踏ませるというのは、あまりに運要素が強く絡みすぎているというのもまた事実であった。
そうして、プレイヤーが行き着いたのは、歴史に埋もれかけてかけていた過去のカードたち。シールドトリガーのように運に頼らず、手札に持っていれば、ほぼ確実に龍解を防ぐことのできるギミック「ストライク・バック」と長らく環境という表舞台と縁のなかった《不知火グレンマル》氏であった。当時の衝撃を彼はこう振り返る。
出典:デュエル・マスターズ
「まさか、拙者にお声がかかるとは。これまで、ニンジャといえば、光牙、威牙、斬隠の者たちばかり注目されており、我々不知火はずっと悔しい思いをしてきましたからな。やっと、他の里の者たちを見返せると喜んだものです。」
これまで、グレンマル氏の能力は、ニンジャ・ストライク7でパワーマイナス6000という強力な効果を持つ《威牙の幻ハンゾウ》氏と比較されることが多く、コントロールに向かない火文明ということもあってか、彼を環境で見かけることはなかった。しかし、グレン氏の起動に間に合うニンジャである点が非常に高く評価され、ついに環境入りを果たすこととなったのである。
出典:デュエル・マスターズ
また、【青黒ハンデス】や【黒単超次元】などのハンデスコントロールデッキには、《ファンタズム・クラッチ》の採用が検討され、このカードは革命編において猛威を振るった【赤単レッドゾーン】の対策カードとしても注目されることになる。
過去の何でもないようなカードたちが、一人の英雄の登場により脚光を浴びる。
現環境において【青魔導具】対策カードとして注目を集める《超奇天烈ギャブル》氏のように、DMの歴史の厚みを感じさせるこのシンデレラストーリーは、当時の環境においても起こっていたのである。
また、ガイハートの龍解には二回の攻撃を要することに着目し、グレン氏以外のアタッカーを場に残さないようにするという発想も見られた。中でも《希望の親衛隊ファンク》や《ローズ・キャッスル》などは、速攻デッキの代名詞である【黒緑速攻】にも効果を発揮することから、闇文明を中心とする多くのデッキに採用された。
このように、多くのプレイヤーから意識され、通常環境において圧倒的な存在感を放っていた彼は、エリア代表選でもその実力をいかんなく発揮し、一年間を通して、ドラゴン・サーガの主人公にふさわしい活躍を見せつけたのであった。
4 革命の中を戦い抜いた英雄たち
「立ち話もなんですから。」というアイラ氏のご厚意で、彼女たちの自宅で話を伺わせていただくことになった。
案内された広く立派な和室の奥には、龍解と書かれた掛け軸がかかっており、その下には一振りの刀が丁寧に飾られていた。
―あれは、ご主人のものですか。
出典:デュエル・マスターズ
「いいえ。あれは、私の愛刀《斬鉄剣ガイアール・ホーン》です。こう見えて私も、昔はそれなりに活躍してたんですよ。」
革命編。
ドラゴン・サーガの不調をうけて、DM界に革命を起こすというコンセプトのもと、高レアリティカードの封入率の見直し、初の公認大型大会GPの開催、総合競技ルールの策定・整備、CSサポートの実施など、DMをさらに盛り上げるための様々な挑戦が公式によって行われた。
しかし、皮肉なことにDMというゲームに革命をもたらしたのは、ドギラゴン氏率いる革命軍ではなく、レッドゾーン氏率いる侵略者であった。
出典:デュエル・マスターズ
今までの速攻概念、進化概念をひっくり返すスピード、パワー、打点、効果をもつ侵略者たちを中心とする【赤単レッドゾーン】、【赤単ガトリング】の登場により、従来の速攻やビートダウンは大きく後れを取ることとなる。
今でこそ【赤単レッドゾーン】といえば、《禁断〜封印されしX〜/伝説の禁断ドキンダムX》を採用し、火のコマンドでデッキを固める構築が主流であるが、《轟く侵略レッドゾーン》氏が登場した当初は、禁断もなく、今ほど侵略元となるコマンドが充実しているわけではなかった。
そんなレッドゾーン氏に進化元として目をつけられたのが、コストも軽く、《斬鉄剣ガイアール・ホーン》を装備することでコマンドを得る《龍覇アイラ・フィズ》氏だったのである。
出典:デュエル・マスターズ
「革命の力に目覚めたモルトの敵ともいえる侵略者の配下として戦うのは複雑な心境でしたけど。でも、そのおかげで、彼が今までどれだけ過酷な状況の中で戦っていたのかを知ることもできました。」
これまでもずっとグレン氏のことを見守り続けていた彼女ではあるが、自分自身も環境という表舞台を経験して、彼の苦労が身に染みて分かったと語ったアイラ氏。
DMの歴史上、環境が過酷でなかったことなど一度たりともないが、彼女が戦った環境もまた魑魅魍魎たちが跋扈する魔境であった。
《邪帝遺跡ボアロパゴス》の真の恐ろしさを知らしめた、《鎧亜戦隊ディス・マジシャン》と《霞み妖精ジャスミン》の二人を使った、超お手軽無限ブースト兼クリーチャー展開コンボを核とした【イメンループ】。
《奇跡の精霊ミルザム》と《音感の精霊龍エメラルーダ》によるコンボが発見され、展開制圧を行う形から、《復活の祈祷師ザビ・ミラ》を採用し山札切れも狙える型に姿を変え、最終的にはループを行うようになった【ヘブンズ・ゲート】。
抜群のコントロール性能を誇り、どんなデッキタイプに対しても互角以上に戦うことのできた【黒単ヘルボロフ】。
登場から最良の形が見つかるまでしばらくの時間を要したものの、《龍秘陣ジャックポット・エントリー》から強力なドラゴンにつなげる形に落ち着いた【モルトNEXT】。
単色デッキが強い環境の中で、《調和と繁栄の罠》とサイクリカ氏という強力な対応策を編み出した【白刃鬼】、【光水自然ビックマナ】。
様々なデッキタイプが入り乱れる環境の中、侵略者を中心とする超高速デッキのスピードに対抗するため、グレン氏は《フェアリー・ギフト》の力を借りた。
グレン氏の師であり、彼とともに環境を戦った《龍覇スコッチ・フィディック》氏はこう語る。
出典:デュエル・マスターズ
「弟子の手前、師匠として恥ずかしい姿は見せられぬと気を引き締めて臨んだが・・・。まさか、あのような大舞台で弟子とともに栄光を勝ち取ることができるとはな。」
《次元流の豪力》と《カモン・ピッピー》が殿堂入りしたことで空いた【赤緑ギフト】の5コストクリーチャー枠。《龍覇スコッチ・フィディック》氏は、《天守閣龍王武陣–闘魂モード–》を早期に展開し、自軍のクリーチャーを強化しつつ打点を増やしたり、《龍魂教会ホワイティ》を呼び出し、相手の動きを止めたりと器用な動きができることが評価され、見事その枠を勝ち取った。
グレン氏とスコッチ氏の師弟コンビを採用した新たな【赤緑ギフト】、通称【ギフトモルト】は、数々の強豪を抑え、初の公認大型大会GP1stでも3位入賞という輝かしい戦果をあげることとなった。
「私は、残念ながら入賞はできなかったんですけど。でも、モルトと師匠が入賞したって聞いた時は、本当に自分のことのようにうれしくって。あの時の彼の嬉しそうな顔は今でも記憶に残っています。」
こうして、大舞台でも華々しい成績を収めた【ギフトモルト】は、革命編きっての問題児《メガ・マナロック・ドラゴン》も時に仲間に加えながら、過酷な環境を戦い抜いた。
そして、革命編も終盤に入ると、ついにドキンダムXが登場し、【赤単レッドゾーン】は、現在のようなコマンドを中心とする形へと姿を変えた。また、レッドゾーン氏本人も「不死」の力によって《S級不死デッドゾーン》へと姿を変えて復活し、コントロールデッキの除去や打点として活躍することとなった。
そんな時代を揺るがす「禁断」の登場と時を同じくして、グレン氏にも心強い味方が登場する。
「ミカタ、コウゲキ。モルト、コウゲキ。ガイハート、リュウカイ。オレサマ、コウゲキ。ガイギンガ、トドメ。オレサマ、モルト、サイキョウ。」
出典:デュエル・マスターズ
S級侵略者の一人、《S級原始サンマッド》氏である。
のちに【イメンループリペア】や【緑単ループ】のループパーツとして、非常に重要な役割を果たすようになる彼であるが、当時の彼は邪魔な敵をマナに送りながら、相手のシールドを3枚も割れるという攻撃面での性能が高く評価されていた。彼は、グレン氏に欠けていたスピードを補う役割を果たし、除去のしづらいフィニッシャーというガイギンガ氏の強みを際立たせた。
このように、ゲームの内外を問わず、大きな変革が起きた時代の中を、彼はその環境その環境にふさわしい相棒を見つけ、戦い抜いたのである。
5 頂を目指して
しかし、そんなグレン氏の栄光にも陰りが見え始める。きっかけは、革命ファイナル編の主人公《蒼き団長ドギラゴン剣》が、環境に姿を現し始めたことだった。
出典:デュエル・マスターズ
殿堂入りという栄誉をうけた今でもなお、環境でドギラゴン剣氏の姿を見かけることは多く、彼がDMの長い歴史の中でも屈指のパワーカードであることを否定する者はいないだろう。
しかし、そんな現在の評価とは裏腹に、登場当初の彼は、対となるレジェンドレアカード《百族の長プチョヘンザ》氏の派手な効果に比べて地味だ、とそれほど高く評価されてはいなかった。
そんな世間の評価を変えたのは、《勝利のアパッチ・ウララー》氏と《絶叫の悪魔龍イーヴィル・ヒート》氏という最高の相棒たちとの出会いだった。
ジョーカーズが登場しておらず、環境上ゼロ文明を主体とするデッキが存在していなかった当時、超次元ゾーンに《勝利のリュウセイ・カイザー》氏、《紅蓮の怒 鬼流院刃》氏、《アクア・アタック〈BAGOOON・パンツァー〉》氏を採用することで、相手が手札さえ持っていれば、ドギラゴン剣氏のファイナル革命能力からアパッチ・ウララー氏を呼び出し、一気に決着まで持っていくことができた。
そんなドギラゴン剣氏とアパッチ・ウララー氏の必殺コンボを支えたのが、イーヴィル・ヒート氏である。彼は、ドギラゴン剣氏の革命チェンジ元でありながら、墓地肥やし兼墓地回収能力を持っていたため、コンボの成功率やデッキの安定性を高めるのに大きく貢献した。
何もないところから、一気に即死打点が形成され、気が付けば負けている。
プレイヤーは、自分たちがとんでもない思い違いをしていたことに気付き、ドギラゴン剣氏を主軸としたデッキの研究が加速度的に進められるようになる。
「モルトがよくいってました。自分が戦場に行く頃にはすでに決着がついている、あんなデカい図体のくせにとんでもない速さだって。」
超高速で即死打点を作り出す【ドギラゴン剣】は、かつてのグレン氏の戦友《フェアリー・ギフト》や《メガ・マナロック・ドラゴン》、おまけに「禁断」の力までをも貪欲に取り込み、その力を増していった。
その力は、やがて、グレン氏だけでなく、多くのデッキを環境から追いやるほど強大になっていき、あまりの使用率の高さからドギラゴン・バスターズと皮肉られるほど、環境を支配した。
「でも、モルトはそんな状況でも笑っていたんです。」
当時のことを思い出してか、どこか楽しそうに微笑みながら語る彼女に、私はやや意地悪な質問を投げかけてみた。
―それは、《超戦龍覇モルトNEXT》として、そんな環境でもなお活躍できたという精神的余裕や自信からくるものではないのですか。
「いえ、それは違うと思います。」
アイラ氏は即座に、しかし、力強く否定する。
出典:デュエル・マスターズ
「NEXTだろうが、ただのモルトだろうが、姿かたちは関係ありません。モルトもギンガも、ただ純粋に真剣勝負が好きなんです。相手が強ければ強いほど燃えるし、自分も強くなる。私は、そんな彼だからこそ、いつまでも彼だけを応援するって決めたんですから。」
そういって、遠くを見つめる彼女の瞳には、今なお戦場で戦い続けるグレン氏とガイハートの姿が浮かんでいるに違いない。
「姿かたちは関係ない。」そんな彼女の言葉を裏付けるように、2018年末から2019年初めにかけて、メタカードたちを引き連れ、環境で戦う《龍覇グレンモルト》氏の姿が目撃されている。
かつての彼の戦場は、10年に一度開かれるという武闘レース『デュエル・マスターズ』であった。彼は、ただひたすらに優勝を目指して、ただがむしゃらに突き進み、数々のライバルたちと死闘を繰り広げた。
そんな彼は今、環境という戦場で、新時代の猛者たちと、日々激闘を繰り広げている。
しかし、戦う時代が、戦う場所が、戦う相手が変わっても、目指すべき場所は変わらない。
数々の真剣勝負を乗り越えた先にある頂を目指し、彼は今なお環境という表舞台で戦い続けている。
文責:一番ぼし
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