2019年10月。『必殺‼︎マキシマム・ザ・マスターパック』にて収録された《“魔神轟怒”万軍投》は【赤青ジョーカーズミッツァイル】という新たなアーキタイプを世に送り出した。
【 呪文 】
【文明】 火
【コスト】6
■マスターG・O・D・S(ゴッドオーバーダイナマイトスペル)(この呪文を、自分の手札を1枚捨てて、唱えてもよい。そうしたら、このターン中に捨てた自分の手札1枚につき、この呪文を唱えるコストを2少なくする。ただし、コストは0以下にはならない)
■GR召喚を3回する。
出典:デュエル・マスターズ
《ジョジョジョ・マキシマム》《ジェイ-SHOCKER》による殺傷力もそうだが、何より注目すべきは3ターンキルにさえ届くその速度。
多くのデッキが4ターン目前後をメインのキルターンに置いている10月環境では、遺憾無くその拳を振るった。
本デッキの登場により、また一段階インフレーションのギアを上げたデュエル・マスターズ。
本記事では、超天篇で起こったインフレが一体どのようなものであったのか、そしてこの変革とも言えるインフレは果たして成功or失敗だったのか、という点に迫っていこうと思う。
目次
超天篇のインフレーション
出典:デュエル・マスターズ
インフレダーインフレダーとは言うが、具体的にどのようなインフレが発生し、どのようにゲームへ影響を与えたのか。
指標の一つとなるキルターンを中心に、話をしていこう。
現環境では【赤単ブランド】のように相手のトリガーをケアしにくいデッキのみが安定した3ターンキルを許されており、次点で【赤青覇道】や【赤青ジョーカーズミッツァイル】などが3~4ターン目をキルターンとしている。
この部分だけ見ると、環境の速度は《蒼き団長 ドギラゴン剣》や《“轟轟轟”ブランド》が4枚現役であった昨年度の環境と、あまり変わっていないようにも感じるだろう。
しかしここで特筆すべき点は下限値。
環境に存在する多くのデッキは、4ターン目をキルターンに設置しており、最も足の遅いデッキ(シータミッツァイル等)ですら5ターンキルをベースとしているのだ。
- 【黒緑ドルマゲドン】
- 【バラギアラループ】
- 【オボロティガウォック】
- 【チェンジザドンジャングル】
といったキルターンを遠くに設置した鈍足デッキ達は、環境から姿を消している。
これまで
- 《奇跡 ミクセル》《デスマッチ・ビートル》といったメタカード
- 『S・トリガー』『ニンジャストライク』といった防御札
を駆使し、速いデッキ達に追い付いていた彼らは、
- 「メタカードが効きにくいデッキの登場」
- 「防御札が機能しないほどの殺傷力を持つデッキの登場」
によって、速度面での不利をカバーすることが難しくなり、環境から弾かれてしまったのだ。
これらは超天篇にて登場した
- 『GRクリーチャー』(メタカードが効きにくいカード)
- 《バングリッドX7》《DROROOON・バックラスター》(メタカードを機能させなくするカード)
- 《生命と大地と轟破の決断》《魔導管理室 カリヤドネ》(防御札が機能しないほどの殺傷力を演出するカード)
といったインフレカード群がリリースされた影響であり、こういった経緯を経て、現デュエル・マスターズはゲームスピードがひと回り以上早くなってしまったのである。
ゲーム感の乖離
⑴トーナメントシーン
出典:デュエル・マスターズ
しかし意外なことに、この大きなインフレの波を受けてもなお、今のデュエル・マスターズのトーナメントシーンは安定している。
環境全体がインフレの煽りを受け、構築を変えたり、環境に付いていけないデッキが出てきたものの、メタゲーム自体は一辺倒になってはいないし、停滞もしていない。
渦中の【赤青ジョーカーズミッツァイル】でさえ、コンボのデリケートさから、《音奏 プーンギ》《奇石 ミクセル》といったメタクリーチャーを持った【赤白サンマックス】や、小型ハンデスを操る【ハンデス系統】には脆さを見せている。
そのため今後も『【赤青ジョーカーズミッツァイル】がずっと強すぎる!』といった環境にハマり続けることは予想されにくく、
むしろ、『今度は【赤白サンマックス】に強い【アナカラーデッドダムド】が増えそう』みたいな予測が立てられる程度には、上手くジャンケンが成立しているゲームであると言えるだろう。
このように、超天篇のインフレーションを受けてもなお、トーナメントシーンにおけるデュエル・マスターズのゲーム性は瓦解していないのだ。
それどころか、
- 【ジョットガンジョラゴン】
- 【赤青ドギラゴン剣】
- 【チェンジザダンテ】
の三すくみが続き、やや停滞気味であったこの時期の前年度環境に比べると、
- 高速回転するメタゲームへの対応力
- 毎弾のように登場する強力なカード群へのアプローチ力
の2点が強く求められる現デュエル・マスターズは、より高いプレイヤースキルが要求される環境であるのだ。
つまり、トーナメントシーンにおいての超天篇は、少なくとも昨年度に比べると成功していると言えるだろう。
⑵カジュアルシーン
出典:デュエル・マスターズ
「やっぱり超天篇は大成功じゃないか!」
と、手放しに喜べないこの違和感は何だ。
私が考える超天篇のデュエル・マスターズが抱えている最大の問題点は、カジュアルシーンにこそあった。
トップメタとそうでないデッキでゲーム感が離れすぎてしまっているのだ。
前述した通り、現在のトップメタは3~5ターン目をキルターンとしながらも、
- メタカードが効きにくい
- 防御札が機能しないほどの殺傷力を持つ
といった性質を持つデッキが多い。
つまるところ、強いだけではなく付け入る隙がないため、メタクリーチャー・妨害・運などといった要素でデッキパワーの差を誤魔化すのが困難になってきているのだ。
前年度までは、多少パワーレベルの低いデッキでも、これらの要素を機能させることで、たまに勝てる程度のゲーム感は保っていた。
しかし【シータミッツァイル】や【アナカラーデッドダムド】は違う。
彼らは「たまに」で勝たせてくれるほどやわではなく、カジュアルシーンにおいては構築段階で既に彼らへの絶対的な敗北を予見していることも多い。
そのため、超天篇のデュエル・マスターズは
- 「勝つことを主目的とする」
- 「負けてもいいから遊ぶことを主目的とする」
といった理念を持つプレイヤーには相変わらず面白いゲーム感を与えているが、
一方でこの間に潜む
- 「遊ぶことを主目的とするが、決して負けたい訳ではなく、やるからには勝ちに行く」
といったベクトルの理念を持つプレイヤーには厳しいゲーム感を与えている。
この点で楽しみ方といった観点においては、「勝つためにやる」か「遊ぶために負ける」かの二極化が進んでおり、極端なものになってきているのだ。
成功?失敗?
出典:デュエル・マスターズ
以上より、私が考える本題目への解答は
『超天篇は、ゲームとしては成功しているが、おもちゃとしては失敗した側面がある。』だ。
トーナメントシーンに関しては、相も変わらず面白いゲームを提供しているが、楽しみ方の幅や遊びの幅といった面では、明らかに狭まりを見せつつある。
どちらが重要といった話ではなく、トーナメントシーンとカジュアルシーンの両方が、デュエル・マスターズに欠かせないものだ。
両立が難しいことは百も承知だが、ここから上手く軌道修正が行われていくことを期待しよう。
数ヶ月後にはゲーム性と遊びの幅の二つを持った素晴らしいデュエル・マスターズにまた会えることを楽しみにしている。