目次
はじめに:あなたはティミー?ジョニー?スパイク?
はじめまして。あるいは、お久しぶりです。北白河と申します。クソデッキビルダーを志す、しがない復帰勢プレイヤーです。前回に引き続き、第三回トレカライターコロシアムという貴重な機会に参加できましてたいへん光栄に思います。 その節はありがとうございました。今回もよろしくお願いします。
さて、第二回トレカライターコロシアムではクソデッキをしこたま作ることでなんか優勝してしまいましたが、今回は「一記事入魂」ということで前回のような物量での勝負ができなくなりました。ピンポイントでメタられた! というわけで今回は、前から温めていた「TCG界ではめちゃくちゃ便利に使われているのに、なぜかデュエマでは全くと言っていいほど使われていないある概念」について深堀りし、みなさんに周知していこうと思います。
その概念は、「ティミー」「ジョニー」「スパイク」(原語ではTimmy・Johnny・Spike。それぞれ英語圏のありふれた人名)といいます。端的に言えば、それぞれプレイヤーの属性を端的に表した三つのタイプのことです。これらのティミー・ジョニー・スパイクは、「このゲームに何を求めるか?」という質問に対して、それぞれ「楽しい体験」「自己表現」「困難や挑戦」を求めています。
出典:デュエル・マスターズ
もともとは、世界初のTCGにしてあらゆる意味でデュエマのお兄さんにあたるウィザーズ・オブ・ザ・コースト社のTCG「Magic:The Gathering」の研究開発部が、マーケティングやよりよいカードの開発のために作り出した概念です。「そのプレイヤーは、このゲームに何を求めるか?」あるいは「そのプレイヤーは、どんなカードを求めるか?」というプレイヤーの心理を類型化・言語化することで、よりプレイヤーのニーズに合った商品(=プレイヤーが欲しくなるようなカード)を作っていこうとしたわけですね。
提唱者のMark Rosewater氏によりこの概念が一般に公開されると、その汎用的かつ端的な分け方が気に入られて次第にプレイヤーサイドでも使われるようになりました。今まで「僕は○○という戦略と○○というカードが好きなプレイヤーで……」というようにいちいち説明していたところを、「僕はティミーです」などと簡潔にプレイスタイルを表現できるようになったのです。それぞれのタイプについては、これから解説していきます。
また、ひとつだけ覚えておいてもらいたいことは「必ずしもどれか一つのタイプに当てはまるわけではない」ということです。提唱者の言葉を借りると、誰もが心の中に三つのタイプを全て併せ持っており、そのうち強いものが表面に出てくるだけなのです。このことから、二つ以上の要素を強く見せるプレイヤーや、日頃は別の要素を持っているがごくまれにいつもとは違う要素を覗かせるプレイヤーもいるというわけです。
ティミー:ゲームに「体験」を求める者
ティミーは、ゲームに「楽しい体験」を求めるプレイヤーです。すごくおおざっぱに言えば、勝敗よりも「デュエマを遊ぶことそのものが目的である」と言い換えることもできるでしょう。そのうえで、より楽しくなるようなプレイスタイル……つまり、友達とわいわい話しながらプレイしたり、「好きなカード」「派手なカード」をプレイすることを好む傾向にあります。
「それって要するに初心者では?」と思われる方もいるかもしれません。確かに、資産や知識の乏しい初心者がティミー的な楽しみ方をする例はよくあります。しかし、ティミー的な遊び方をする=初心者というわけでは決してありません。「好きなカードを使い続ける」「ひとつの好きなデッキを極めようとする」という行動もまた、ティミー的な楽しみ方です。プレイの習熟度ではなく、「何を求めるか」が重要なのです。
ティミーの求めるカードを一言でまとめると、「わかりやすく、派手なカード」です。「○○を出して、効果で○○を唱えて……(中略)最後は《水上第九院 シャコガイル》で勝ちです」よりも、「種族全体を強化するカードをどんどん召喚、超強化された大軍で一斉攻撃!」とか、「マナ全部から○○を召喚!アタック!盤面を派手にめちゃくちゃにして勝ち!」みたいな勝ち筋を狙えるカードがいいわけですね。見た瞬間に「このカードで勝ちたい!」「使ってみたい!」と思えるカードがあれば、それでいいのです。
全てのプレイヤーが持っているティミー的要素として、「プレイ中にテンションが上がる瞬間」があります。トップデッキによる逆転、お気に入りカードの活躍、想像のつかないシーソーゲーム。そういった、勝敗とは別のところでの興奮は誰しも感じたことがあると思います。それこそが、ティミーの根源的な感情そのものなのです。
出典:デュエル・マスターズ
ティミーの中でもさらに詳細なジャンルとして、「何に楽しさを感じるか」で細分した以下の四つが提唱されています。
パワー・ゲーマー:「でかい」は楽しい
パワー・ゲーマーは、巨大なクリーチャーや派手な効果のカードを使うことを「楽しい」と感じるプレイヤーです。多少それらに重すぎるきらいがあっても、盤面に与えるインパクトとそれによって得られる楽しさのほうが大きい、と考えるわけですね。巨大なドラゴンやゼニスの類はまさに彼らが好むものです。
デュエマにおいては、マナ加速手段の多さや重量クリーチャーの強さなどから、このプレイスタイルを突き詰めるだけでもかなり強いデッキになるように調整されている傾向にあります。「重くてデカくて強い」の塊であるところの《勝利宣言 鬼丸「覇」》が数年連続で再録されている事実は、メインターゲットである低年齢層にも安価かつ絶対的なフィニッシャーを供給しようという公式の戦略が伺えます。
デッキで言えば【ビッグマナ】【ターボ○○】の類がパワー・ゲーマー向けデッキと言えるでしょう。他にももっと単純に、相手をぶっ飛ばせる絶対的フィニッシャーが存在するデッキならおおむね楽しめるはずです。
出典:デュエル・マスターズ
ソーシャル・ゲーマー:「みんなと遊ぶ」は楽しい
ソーシャル・ゲーマーは、友人と一緒に楽しい時間を過ごすことを「楽しい」と感じるプレイヤーです。デュエマを友達作りのツールとして使ったり、放課後に公園やカードショップに集まってみんなでワイワイするようなプレイヤーですね。プレイそのものもさることながら、「より楽しいゲームをするにはどうすればいいか」ということを考えて、多人数戦や身内でのルールを提案したりすることで楽しさを増やそうとすることもあります。
デュエマにおいては、そもそも親しい友人間でプレイをするプレイヤーはもちろんとして、「みんなで遊べるフォーマット」を提唱して実際に遊ぶプレイヤーもソーシャル・ゲーマーに該当すると言えるでしょう。公式ではさほどプッシュされているとは言い難い多人数戦ですが、キューブドラフト・デュエマEDH・3デュなど非公式・草の根に目を向ければ根強いファン層がいます。彼らもまた、デュエマを心から楽しもうとするプレイヤーなのです。
デッキそのものを求めないタイプなので「このデッキがソーシャル・ゲーマー向き!」と言い切るのは難しいのですが、ゲームを停滞も急加速もさせずにじっくりと楽しめる中速のデッキ全般が向いていると思われます。もちろん、本人たちが楽しめるならこの限りではありません。マナを溜めて派手な動きをするのも、相手の妨害をすり抜けて速攻を決めるのも、それでみんなが盛り上がれればOKなのです。
出典:デュエル・マスターズ
ダイバーシティ・ゲーマー:「新しい」は楽しい
ダイバーシティ・ゲーマーは、新しいものや未経験のものに触れることを「楽しい」と感じるプレイヤーです。新しいカードや新しいデッキ、新しい環境。そういったものすべてに触ってみたいと感じる心が人一倍強いタイプですね。このタイプのプレイヤーの根源的な欲求は、「やったことのないことをやってみたい!」です。好奇心旺盛なタイプといえますが、深く掘り下げるよりは手広くやるほうが好きと言えるでしょう。
デュエマにおいては、新パックや新カードの情報をそわそわして待ち、発売と同時にカードを揃えたりデッキアイデアを出したりするタイプのプレイヤーがこのタイプに多いと思います。幸いにも、デュエマというゲームはほぼ一か月に一回というハイペースで何かしらの新製品が投入されるゲームです。新しいもの好きのダイバーシティ・ゲーマーにはうってつけな商品なわけですね。
ダイバーシティ・ゲーマー向きのデッキですが、こちらもデッキそのものを求めないタイプなので一概に「これ!」とは言えません。強いて言えば「次に出るパックのカードを使ったデッキ」ですかね。裏を返せば、あらゆるデッキがダイバーシティ・ゲーマーが求める対象になり得ます。
出典:デュエル・マスターズ
アドレナリン・ゲーマー:「予測できない」は楽しい
アドレナリン・ゲーマーは、常に予測できない展開のゲームをプレイすることを「楽しい」と感じるプレイヤーです。そのため、劇的なドローや、状況によって何が起きるかわからないカードといったものを好む傾向にあります。要するに、ゲームにスリルや興奮を求めているのです。見たことのないものを求めるのはダイバーシティ・ゲーマーと同じですが、それを新しいカードによってではなくプレイの中に見出そうとしているわけですね。
デュエマにおいては、実はルール側にすでにこのアドレナリン・ゲーマーを喜ばせる要素が入っています。シールド・トリガーですね。一発逆転を狙えるシステムがゲームに内包されているので、常に緊張感をもって遊べるわけです。他にも、山札からのランダム踏み倒しやガチンコ・ジャッジ、ジャンケンや《レアリティ・レジスタンス》などの「100%何が起こるか決まっていないカード」がデュエマには豊富です。
アドレナリン・ゲーマー向けのデッキですが、これはわかりやすいですね。【連ドラ】【無限オーケストラ】などの、何がめくれるか分からないスリルが味わえるデッキです。また、あえていわゆるハイランダー構築にすることで「何が引けるか」「どう動くか」といった要素の再現性を減らして常に新鮮なゲームを求めるのも向いているかもしれません。
出典:デュエル・マスターズ
ジョニー:ゲームに「自己表現」を求める者
ジョニーは、ゲームに「自己表現」を求めるプレイヤーです。そしてTCGで最も自己表現できる部分と言えば、デッキ構築です(もちろん、これ以外にも自己表現の術はたくさんあります)。デッキビルダーと呼ばれる人種の多くがこのジョニーに属しています。ジョニーは総じて自分の創造性と創造物に愛着と自信を持ち、個性を尊重する傾向にあります。
「自己表現」というとちょっと堅苦しいかもしれませんが、要するに「自分のやったことを見てほしい」ということです。 「自分の手で形にしたものをみんなに見てもらいたい」という欲求あるいは自己顕示欲が、ジョニーの原動力です。ゲーム内なら誰も見たことのないコンボ、背景ストーリーの再現、だれも見向きもしないカードの発掘で。ゲーム外でも、スリーブやプレイマットといったサプライ品で自分の選択をアピールできます。極端な話をすれば、クソデッキの記事を書いて公開することだってジョニー的行動です。言ってて不安になってきた。
ジョニーの好むカードを一言でまとめると、「使い方、活かし方を自分で決められるカード」です。例えばティミーの項で述べた《勝利宣言 鬼丸「覇」》はカードとしては超強力ですが、カード単体での使い方は「出たら追加ターンが入っておおむね勝ちになる重いフィニッシャー」の域を出ません。しかし例えば《音奏 ハイオリーダ/音奏曲第三番「幻惑」》のようなカードは、「このカードと組み合わせよう!」などと明示されていない組み合わせによって、単独での性能を遥かに超えるデッキのエンジンになり得ます。このような「自分で組み合わせを発見できるカード」が、ジョニーの好むカードになります。
また、あまりに大きなデメリットがあったり、何がしたいのかわからないような珍しいテキストだったり、そもそも見るからにおかしいテキストをしているカード(《超越男》とか)など、「このカードを使いこなせるかな?」という開発部の挑戦のようなカードも好む傾向にあります。公式が投げかけた「問い」に対する「解答」を探すのに必死になるのもまた、ジョニーです。
加えて、行き着くところまで行ったジョニーが目をつけるのが「見捨てられたカード」ですね。前述のものと少し被りますが「効果は独特だが弱いカード」「環境に食い込めなかった古いカード」「今では型落ちしてしまったかつてのカード」「起源神」などといったカードを発掘し、救済・再生を試みるのです。ほとんどのアイデアは虚無に消えていきますが、《天雷王機ジョバンニⅩ世》など、たまに本当に再生させてしまった例もあります(あっという間にプレミアム殿堂になりましたが)。
全てのプレイヤーが持っているジョニー的要素として、「プレイングや構築などの小さな発見を「誰かに披露したい」と思う瞬間」などがあります。自分の思いついたことや行った結果を見てもらいたい、聞いてもらいたいという感情そのものが、ジョニーの根源的な感情なのです。
出典:デュエル・マスターズ
ジョニーの中でもさらに詳細なジャンルとして、「どうやって自己表現を行うか」という点で細分した以下の四つが提唱されています。
コンボ・プレイヤー:「探索」を見てほしい
コンボ・プレイヤーは、カードの組み合わせによって表現を行うプレイヤーです。名前通り、コンボを考えたい人ですね。このタイプのプレイヤーは、カード同士の相互作用によって芸術的な組み合わせを生み出すことを望んでいます。無数にあるカードのテキストに目を通し、やっと見つけた最高の組み合わせを探す「探索者」と言えるジョニーです。
コンボ・プレイヤーの好むカードは、「何か悪いことができそうなカード」です。コスト踏み倒しや軽減、派手な領域間の移動、極端に多用途なカードなどはコンボ・プレイヤーの大好物です。最近で言えば墓地の呪文次第でいくらでも悪用ができる《サイバー・K・ウォズレック/ウォズレックの審問》や、一気に踏み倒しを行える《生命と大地と轟破の決断》などでしょうか。
デュエマにおいては、しばしば派手なコンボデッキが環境に登場します。これらを実際に実戦投入可能な域まで磨くのは後述のスパイクの仕事ですが、その原案となるものはしばしばこういったコンボ・プレイヤー気質を持つプレイヤーによって作られます。【ロマノフワンショット】のような、ルートが長大かつ絶大な威力のコンボデッキはまさにコンボ・プレイヤーの意志の結晶と言えるでしょう。
出典:デュエル・マスターズ
オフビート・デザイナー:「発明」を見てほしい
オフビート・デザイナーは、奇抜なアイデアを実現することで表現を行うプレイヤーです。いわゆるアイデアマンですね。コンボ・プレイヤーとよく似ていますが、最大の違いは「カードより先にデッキそのもののアイデアが先行すること」です。コンボ・プレイヤーがカードを「探索」するなら、こちらはデッキを「発明」するイメージですね。どっちかというと北白河はこっちです。
オフビート・デザイナーはカードよりアイデアからスタートするため、典型的な「好むカード」は厳密に言えばありません(そりゃさすがに準バニラとかよりはいろいろできるほうが好きでしょうが)。強いて言えば、「何かできそうだけど結局できなかったカード」とかですね。過去に不可能だったアイデアが、思わぬカードの追加で完全な形になることも少なくありません。
デュエマにおいては、昨今では公式からのデザイナーズデッキが一定の強度を持っていることなどからやや肩身の狭いポジションではありますが、たまにとんでもないものが「発明」されることがあります。記憶に新しい例としては2018年末に何の前触れもなく突然現れた【青単ムートピア】などがありますね。あれはまさにオフビート・デザイナー的な発想によって「発明」されたデッキと言えるでしょう。
出典:デュエル・マスターズ
デッキ・アーティスト:「デッキそのもの」を見てほしい
デッキ・アーティストは、カードテキスト以外の要素をも重視したカード選択により表現を行うプレイヤーです。要するに、フレーバーやイラスト、アニメでのキャラクターとの連動といった要素、ひいては独創性を重要視するタイプです。前の二つが「探索」と「発明」で実用品に至ろうとしていたのに対し、こちらはデッキそのものを材料に己の独創性を示す芸術品を作り上げるイメージですね。
デュエマにおいてはあまり見ないタイプですが、それでも「好きな種族で統一」「特定のイラストレーター統一」「絵柄がかわいいカードで統一」「特定のキャラクター(モルトやテスタ・ロッサなど)のカードを全投入」などの明確な目的をもってデッキを作成するプレイヤーは存在します。また、通常のデッキ構築においても「デッキをハイランダー構築にする」「逆に4×10の純正構築を崩さない」など、各自の美学に沿ってデッキを作るプレイヤーもこの気質に近いと言えます。
目指す方向性の都合上、アーキタイプ名が付くような環境デッキになることはあまりありませんが、実用性とデッキ・アーティスト性が組みあったようなデッキとしては赤単バイクとしての強度とアイラのキャラクター性を両立した【アイラバイク】などがあります。あと、強いて言えば【シザー・愛】とかでしょうか。使ってる人見たことありませんが。
出典:デュエル・マスターズ
ユーバー・ジョニー:「誰もやらなかったもの」を見てほしい
ユーバー・ジョニーは、従来不可能とされていたことや、他の誰もやらなかったことを実現することで表現を行うプレイヤーです。他のジョニーが触れなかったものにあえて触れていく人とも言えます。具体的には、「クリーチャーが絶対に出ない構築で勝つ」「マナチャージをせずに勝つ」といった困難に挑戦したり、全てのプレイヤーが見捨てるようなカスレアや起源神といったカードを活かそうとすることなどですね。
ユーバー・ジョニーの好むカードは、誰も見ていないカード、あるいは全てのカードです。極端な話をすれば「どんなクソカードや不可能そうな困難でも解決策を見つけてやる」、転じて「何の目的にも使えないカードなんてない」というスタンスですからね。ジョニーの冒頭でも言っていた「カードの救済・再生」という目的に最も近いプレイヤーとも言えます。
デュエマにおいてユーバー・ジョニーらしいデッキが環境入りしたことは、私の記憶の限りではありません。しかし、挑むべき困難のサンプルとして先ほど言及した「マナチャージをせずに勝つデッキ」というデッキなら、《ルナ・コスモビュー》の入った【カウンターヒャックメー】、通称【ドローゴー】という実例があります。最近のカードでこのコンセプトに挑戦してみるのもありかもしれませんね。俺はこの前やった。
出典:デュエル・マスターズ
スパイク:ゲームに「挑戦」を求める者
スパイクは、ゲームに「困難な挑戦」を求めるプレイヤーです。TCGにおいて挑戦する相手といえばもちろん対戦相手のことであり、勝利のことです。つまり、スパイクとは勝つために全力を尽くすストイックなプレイヤー、誤解を恐れず言い換えれば「ガチ勢」に近いプレイヤーのことです。勝利することで自分の力を示すことが、多くのスパイクの目的であり傾向です。
スパイクが「ガチ勢」と親和性が高いことは前述の通りで、実際にトーナメント上位プレイヤーの多くがスパイク的な気質を持っているとされています。ただし、トーナメントプレイヤー以外にもスパイク的な要素を持つプレイヤーは存在します。「困難な挑戦を乗り越えて自分の力を示す」という目的があれば、目指すのがゲームの勝利でなくともその精神はスパイクのものなのです。具体例を一個挙げると「一番得票数の多い記事を書こうとする」とかもスパイク的な行動ですね。たぶん。
スパイクの好むカードを一言でまとめると、身も蓋もないことを言えば「強いカード」です。その中でもただ強いだけでなく「プレイヤーの腕前やその場に合った選択によってより強くなるようなカード」が特にスパイク向けだとされています。例えば、多くの超次元呪文は状況に応じたサイキック・クリーチャーを呼び出すことができます。何も考えず一番重いものを出すよりも、状況に応じて最適なものを出したほうが強いですよね。こういった自分の腕が出る選択で相手の上を行くことで、己の力を証明できるカードが真のスパイク向けカードと言えるでしょう。
全てのプレイヤーが持っているスパイク的要素として、「持てる最善を尽くして勝ちに行こうとする瞬間」などがあります。ただまっすぐに勝とうとすること、そしてその結果として勝ちを手に入れることのカタルシスが、スパイクの根源的な感情なのです。
出典:デュエル・マスターズ
スパイクの中でもさらに詳細なジャンルとして、「どうやって勝ちに行くか」という点で細分した以下の四つが提唱されています。
イノベイター:「先んじて」勝ちに行く
イノベイターは、誰よりも早く強いカードや戦略を発見することで勝利を目指すプレイヤーです。どこからどう見ても強いタイプの新カードもありますが、一見目立たず評価も低いけれども実は隠れたぶっ壊れであるカードをいち早く発見し、それをもって一気に環境を支配して勝ちに行くタイプです。最初に新環境を定義するデッキを作るプレイヤー、とも言い換えられるでしょう。
「誰よりも早く新しいものを作る」「誰も強さを見抜けなかったカードを使う」という点においてはジョニーに近いとも言えますが、こちらは「一番乗りして勝つ」という非常に明確で大きな目標があることが最大の違いです。アイデアをまとめるスピードやそれを踏まえた仮想敵の予測など、イノベイターにしか要求されない能力もたくさんありますね。
デュエマにおいてイノベイターが活躍した事例と言えば、やはり《"轟轟轟"ブランド》の発見劇でしょう。効果判明当初は「ただ凡庸なSAアタッカーを出すだけ」などと酷評されていたこのカードですが、実際に発売されてイノベイターの手で使われ出すと「どんな色でも使える」「ドローでさらに詰めに行ける」「連鎖するとゲームが終わる」などの数々の利点から環境を急激に高速化させ、双極編初の殿堂入りカードになるまでその活躍は続きました。
出典:デュエル・マスターズ
チューナー:「最適化して」勝ちに行く
チューナーは、既存のデッキを自分の手で調整し、完成度を高めることで勝利を目指すプレイヤーです。カード選択や採用枚数など、そのデッキの「最適解」といえる構築ができるまでデッキを調整していく、環境が固まっていくまでの過程で絶対に必要になるプレイヤーですね。イノベイターが新デッキの雛型を一通り世に知らしめた後に活躍するタイプと言えます。
メインデッキ枚数が40枚と比較的少なめのデュエマでは、カードを数枚入れ変えただけでデッキの動きやパワーに劇的な変化が生じます。それを見極めて評価するには途方もないテストプレイの回数と、問題点を洗い出し解決する思考が必要になります。ひたすらデッキを磨き続け、ついに到達した完成形は、もはや一種の芸術品と言えるでしょう。
デュエマにおいてチューナーが活躍した事例と言えば、記憶に新しいのがGP8th殿堂構築部門優勝の【メタリカミッツァイル】です。DMRP発売から二週間ほどしか経っていない環境初期にも関わらず、新ギミックであるGR召喚や新カード《BAKUOOON・ミッツァイル》を最大限に駆使して極限まで練り上げられたそのデッキは、「カバレージを担当していた伊藤敦さん(デュエマでは「研究仙人まつがん」としても有名)がデッキリストを見てそのあまりの美しさに涙を流した」という逸話を残すほどの完成度を誇っていました。
出典:デュエル・マスターズ
アナリスト:「メタを読んで」勝ちに行く
アナリストは、メタゲームに注目し今現在の環境を理解することで勝利を目指すプレイヤーです。「最速」で答えを見つけ出すイノベイターと「最強」のデッキを磨きぬくチューナーと違い、現環境の「最良」のデッキを選び出す感じですね。チューナーの手で環境がおおむね固まってきた後に活躍するタイプと言えるでしょう。
スパイクの小分類の前者二つは自分のデッキとひたすら取り組みましたが、アナリストは環境全てのデッキを知り尽くす必要があります。その上でデッキ相性や想定されるプレイヤー比、対策の方法などあらゆる可能性を検討し、最後に使用するデッキを決定します。もちろんそのデッキも想定した環境で勝ち抜くための専用のチューンが施されていることがほとんどです。他にはない能力を要求される、用意周到な人が向いているタイプです。
デュエマにおいてアナリストが活躍した事例……というよりも、実を言えばトッププレイヤーはほとんどこのメタゲームを考慮したデッキ選択を行っています。3~4戦勝ち抜けば終わる店舗大会などと違い、ほぼ負けられないうえ延々と続く連戦を勝ち抜くには、当たるデッキを推測するような的確な環境の読みが必須です。トッププレイヤーがしばしば調整チームを組む理由の中には、「有能なアナリストのチームメイトの知恵を共有するため」という理由も確実に存在するでしょう。
出典:デュエル・マスターズ
ナッツ・アンド・ボルト:「プレイングで」勝ちに行く
ナッツ・アンド・ボルトは、ひたすらプレイングを磨いてミスを減らし、相手プレイヤーと差をつけることで勝利を目指すプレイヤーです。前述の三つはデッキ構築や選択を重視していましたが、こちらはよりストイックにゲームプレイをを極めようとします。ちなみに名前の意味は「ネジとボルト」で、熟語としてはおおむね「基本的かつ実践的な」とかそういう意味合いです。強引に意訳すると「(ゲームの基本である)プレイングを実践する人」みたいな感じでしょうか。
長丁場の連戦においては、最高のプレイよりも負けに直結するミスを避けるプレイが重要です。それゆえに、ナッツ・アンド・ボルトは練習の際、勝っても負けても「どこがダメだったか」をひたすら考えます。これはネガティブなのではなく、より改善点を見出すために必要な手段なのです。スパイクの中でも特にストイックで求道的なタイプと言えるでしょう。
デュエマにおいてナッツ・アンド・ボルトが活躍した事例ですが、これもほとんどのトッププレイヤーは大なり小なりナッツ・アンド・ボルト的なプレイングの練習を行っています。どこまで行ってもゲームの勝敗に運が絡むのと同じように、プレイングの差も勝敗に絡んできます。運は人間にはどうにもなりませんが、プレイングと知識はどこまでも深めることができます。同じくらい磨かれたデッキを相手にする際にその差で競り勝つべく、彼らは日夜練習しているのです。
出典:デュエル・マスターズ
3つのタイプと、おまけの話
ざっくり3つの大分類と12個の小分類を紹介してきましたが、前述のように「一人につきどれか一つしか当てはまらない」わけではなく、複数のタイプの特徴を併せ持つことがほとんどです。この場合、基本的には要素が強い順に「ジョニー/ティミー」というように表記します。わざわざ表記する例はあまりありませんが小分類も同じように「オフビート・デザイナー/ダイバーシティ・ゲーマー」などと表記できますね。自分がどのタイプであるかを把握することは、ゲームをより楽しむ上で確実に助けになります。今まで記事を読んできて、「自分はこれかもしれないな」と思ったものがあれば、ぜひそれを続けてください。
ここからは余談というか私見の話になるのですが、最近の最高レアカード(特に新章デュエル・マスターズ以降)は明確に三つのタイプ全てに好まれるようにデザインされているように感じます。「雑に使っても派手で強く、組み合わせ次第で様々な相互作用を生み、使いこなせばさらに強い」という感じですね。この傾向を特に顕著に感じるカードを一つ挙げるとすれば《ジョット・ガン・ジョラゴン》ですね。アンタップ効果や大型の出た時効果を踏み倒すだけでも強く、やろうと思えば他の手札を捨てる行為と組み合わせて悪用したり、勝利確定のループまで作ることができます。他にも《Wave all ウェイボール》《"轟轟轟"ブランド》《煌世主 サッヴァーク†》などにもこの傾向を強く感じますね。
追加の2タイプ:ヴォーソスとメルヴィン
「ゲームに何を求めるか」という点で分類されるジョニー・ティミー・スパイクの3タイプとは別に、「ゲームのどこに注目するか」という観点で作られた2つのタイプが存在します。なぜこの二つが分けられているかというと、この二つは直接ゲームをプレイすることと関係のない場所にあるからです。逆に言えば、この2タイプの存在は「直接プレイしていない間もデュエマは楽しめる」という証明でもありますね。この2タイプを、「イラストやフレーバーなどを評価する」ヴォーソスと、「カードテキストやゲームルールを評価する」メルヴィンと呼びます。 原語ではVorthos・Melvin。それぞれ英語圏のありふれた人名)
ヴォーソスとメルヴィンは別に対立する概念ではありません。両方併せ持つプレイヤーや、熱心にゲームプレイはするがどちらの傾向も薄いプレイヤーも存在します。以下、手短ではありますが解説していきます。
ヴォーソス:カードテキスト以外をも評価する者
ヴォーソスは、イラストやフレーバー、キャラクター性やストーリー等のゲームとは直接関係のない部分にも注目・評価するプレイヤーのことです。テキスト単体で見れば特筆すべきことのないカードでも、フレーバーやイラストといったそれぞれの注目するものが良ければ、ヴォーソスは評価します。ただし、同じヴォーソスでも、注目する点が違えば評価も変わることを留意しておいてください。背景ストーリー好きのヴォーソスとイラスト好きのヴォーソスでは当然評価は変わってきます。
ヴォーソスが必ずしもカードテキストを見ないかというとそんなことはなく、例えば《終焉の禁断 ドルマゲドンX》の「このカードがバトルゾーン以外のゾーンにあれば、クリーチャーをすべて破壊し、自分はゲームに負ける。」というテキストの「クリーチャーをすべて破壊し」の部分は一見蛇足に見えるかもしれませんが、ヴォーソス的に解釈すれば「革命ファイナルのクライマックスの『《終焉の禁断 ドルマゲドンX》が《龍の極限 ドギラゴールデン》との最終決戦で敗れた際、最後に膨大なエネルギーを放って全てのドラゴンを絶滅させた』という背景ストーリーの再現」と受け取ることができます。このように、ヴォーソスはカードの中から自分の興味を持てる全て(もちろん、テキストも含めて)を俯瞰し、それが好きかどうかを解釈します。そうして納得のいったカードが存在することそのものに、ヴォーソスは喜びを感じます。
出典:デュエル・マスターズ
メルヴィン:カードテキストを深く評価する者
メルヴィンは、カードテキストやゲームのルールといったプレイ上で使うテキスト部分に強く注目・評価するプレイヤーです。ジョニーやスパイクと違うのは、そのテキストやカードが強いかどうかは関係なく、純粋にそのカードの機能が理にかなっているかや、他のカードとの組み合わせでルールの未定義領域に踏み込んでいないかなどを考えます。詰めデュエマやパズルなどとの親和性も高いですね。
メルヴィンは機能を重視します。先ほどの《終焉の禁断 ドルマゲドンX》の「クリーチャーをすべて破壊し」というテキストをメルヴィン的に考察すると、「もし《終焉の禁断 ドルマゲドンX》を出しているプレイヤーが同時に《不敗英雄 ヴァルハラ・グランデ》のような敗北回避能力持ちクリーチャーを出していた場合、相互作用で「《終焉の禁断 ドルマゲドンX》が場を離れているのにゲームが続いている」というおかしな状況になってしまうのを防ぐために破壊している」というように解釈できるでしょう。しかしその次には「このとき、何らかの効果で《不敗英雄 ヴァルハラ・グランデ》が場を離れなくなっていたらどうなる?」「そうなった場合、場を離れた《終焉の禁断 ドルマゲドンX》のパーツはどうなる?墓地ならまだしも、手札や山札に混ざったらどうなるのか?もしシールドに送られたなら、それは表向きのシールドなのか裏向きのシールドなのか?」と言ったように、より深いルールの穴に突っ込んでいくことになります。このとき、「いや《終焉の禁断 ドルマゲドンX》と《不敗英雄 ヴァルハラ・グランデ》は同じデッキに入らないだろ」という野暮な突っ込みはメルヴィンの思考を止める理由にはなりません。このように、ルールとカードの相互作用について思考することそのものがメルヴィンにとっての喜びなのです。
出典:デュエル・マスターズ
おわりに:自分のスタイルを見つけよう
というわけで、ジョニー・ティミー・スパイク(それと、ヴォーソスとメルヴィン)でした。北白河がはじめてこの概念に触れた時、「自分の好きなことを説明するのにこんな便利な言葉があったのか!」と衝撃を受けたのを覚えています。デュエマ復帰後に調べ物をしていてデュエマプレイヤー向けにこの概念を説明した文章が一ページたりともなかったことをきっかけに、この概念を周知する記事を自分で書くことを思い付き、それから長い年月が経ってやっと今それを形にすることができました。もし勝てなかったとしても、この記事が公開されて残る時点で書いた意義はあったと思います。まあ勝算がないとは思ってないんですが。
今回の記事を読んだあなたが自分の好きなことや得意なことに気付けたなら、これほどうれしいことはありません。もし見つからなかった場合も、「ティミーのように楽しみ、ジョニーのようにデッキを組み、スパイクのように真剣になる」みたいな目標を立てて楽しくプレイすれば、自分のスタイルが見えてくるかもしれません。確固とした自分のスタイルを持っててそれを崩さない人って、やっぱりかっこいいんですよ。
クソデッキ記事を期待されていた方には申し訳ありません。思いついたデッキをひたすら羅列するような記事もちょっと考えましたが、「魂の一記事」という観点からして邪道かなと思って、あえて避けました。クソデッキについては専用のブログを始めましたので、よろしくお願いします。三日坊主にならないように気を付けます。
最後に、第三回トレカライターコロシアムという機会を設けてくださったガチまとめ運営の皆さんと、この記事を読んでくれた皆さん全員に感謝を。それでは、またどこかで。ジョニー/ティミーにしてオフビート・デザイナー/ダイバーシティ・ゲーマーの北白河でした。
参考
「Timmy,Johnny,and Spike」(ウィザーズ社・Mark Rosewater著)https://magic.wizards.com/en/articles/archive/making-magic/timmy-johnny-and-spike-2002-03-08
「Timmy,Johnny,and Spike Revisited」(ウィザーズ社・Mark Rosewater著) https://magic.wizards.com/en/articles/archive/making-magic/timmy-johnny-and-spike-revisited-2006-03-20
「Melvin and Vorthos」(ウィザーズ社・Mark Rosewater著)https://magic.wizards.com/en/articles/archive/making-magic/melvin-and-vorthos-2007-05-07-0
「ヴォーソスとメル(メルヴィン)」(ウィザーズ社・Mark Rosewater著・米村薫訳) https://magic.wizards.com/ja/articles/archive/making-magic/20150831