【執筆ライター】西川航平
目次
「プロというのは、寝ても覚めても仕事のことを考えている。
生活すべてが仕事。そこがアマチュアとの絶対差だ。」
控室で選手たちの様子を見ていた私の中に浮かんできたのは、昭和、平成を代表する書家「相田みつを」がかつてプロについて語った言葉だった。
「昨日のGPは○○がすごかった」
「あのギミックにはまだまだ可能性がある」
「今はあの人が強い、一緒に勉強したい」
「こんなデッキを作ったんだけどどう思う?」
皆一様に、デュエルマスターズについて語り続けている。
デッキをいじり、対戦を始める者もいた。
ドルマゲドンよろしく世界最後の日が来ようとも、この人たちはこうしているのではないかと感じさせるほどに彼らは熱中していた。
それにのめりこむことがプロの必要条件であるならば、ここにいる全員が間違いなくそれを満たしている。
だが、それだけでは足りない。プロたり得ない。
棋士がアマ名人を駒落ちで倒すように、Jリーガーが一度も相手にボールを触れさせることなくゴールを決めるように。
プロフェッショナルである以上、圧倒的な強さが求められるのだ。
戦わなければ生き残れない世界で日々研鑽を積む者こそ、プロと呼ばれるにふさわしい。
そのことは、集った12人全員が重々承知だろう。
日本一経験者、グランプリ覇者、新たなデッキを生み出したイノベイター。
最強中の最強だけが集ったこのプロリーグでの勝利は、何よりの強さの証明となり、最高峰の栄誉となる。
誰も辿り着いたことのない高みを目指して。
今、舞台の幕が上がる。
【第1試合】ASAKURA(緑t青ジョラゴンジョーカーズ)VS dotto(シータミッツァイル)
対戦に移る前に、このプロリーグの独特のルールについて確認しておく必要があるだろう。
本大会では、選手をスポンサードしている企業別に2人のコンビを組み、勝ち抜けで2本先取したコンビの勝利となる。
また、コンビ内で同名カードは合計4枚まで、制限カードは1枚までという特殊ルールの下デッキを構築する必要がある。
(2人のデッキに《轟轟轟ブランド》を入れるということはできない。Aのデッキに《単騎連射マグナム》、Bのデッキに《音精ラフルル》を入れる、ということは可能)
似たようなデッキを2人で使うということはできず、多種多様なデッキの活躍が期待されるフォーマットとなっている。
また、リストが事前に公開されるため相手のデッキを完全に把握したうえでの対局となる。
これらのルールがどう作用するかも注目ポイントになるだろう。
記念すべき第1回目のプロリーグ。
その初戦を飾るのはASAKURA選手(COMPOFF Pros所属)とdotto選手(CardRushPros所属)だ。(以下敬称略)
プロになってから今まで以上に礼儀、マナーに気を付けお互い気持ちの良い対戦ができるよう心掛けているというASAKURA。
早々に超次元ゾーンの確認を終えると、笑顔を浮かべたままデッキをカットしていく。
対するdottoは、万に一つの勘違い、ミスが無いよう念入りに相手の超次元ゾーンを確認し、ピリッとして表情で慎重にデッキをカットしていく。
所作の一つ一つにも、両者の違いが現れる。
シールドと手札のセットを終え、試合開始の時を静かに待つ両選手。
その隣では両者のパートナー、MGR( COMPOFF Pros所属)とばんぱく(CardRushPros 所属)が落ち着いた表情で対局を見守っている。
そこには、パートナーへの確固たる信頼が見て取れた。
しかし、どれほどの強者同士の戦いであろうと、勝つのは一人。
激戦の気配を感じ取った観客の目線にも熱がこもっていく。
先攻をとったのはdotto。《鼓動する石板》をチャージする。
確実に次のターンにはブーストを撃てる動きだ。
先手を取られた上に初動もしっかり撃たれてはやや苦しくなるが、「シータミッツァイル」にも強く出れると判断して「ジョラゴンジョーカーズ」を採用したASAKURAだ。
このくらいならそう気にするほどでもない。
《ジョリー・ザ・ジョルネード》をチャージして力強くターン終了を告げる。
dottoは《Dの牢閣メメント守神宮》をチャージし《鼓動する石板》をプレイ。
マナに落ちたのは《DROROOON・バックラスター》
搭載枚数の都合上、不足しやすい光と火がマナに確保された。
これは非常にプレイがしやすくなるだろう。
声には出さないものの、dottoの口元がわずかに緩む。
返すターン、ASAKURAは《タイク・タイソンズ》をチャージして《ヤッタレマン》を召喚。
自然を採用している「ジョラゴンジョーカーズ」の初動としては《タイク・タイソンズ》が最も強い動きだが、残念ながら他に自然文明のカードがない。
新カード《スゴ腕プロジューサー/りんご娘はさんにんっ娘》の採用で以前より自然文明の不足は気になりにくくはなったものの、それでもこういう事態は起こりうる。
限られた選択肢の中でベターなものを探すのもまたデュエルマスターズ。
《ヤッタレマン》プレイも決して弱い動きではない。
及第点というには十分すぎるムーブだ。
マナをチャージし、dottoは《フェアリー・ライフ》をプレイ。
次のターンには5マナとなり、GRクリーチャーの真の力が解放される。
ASAKURAは軽減能力を利用して2体目の《ヤッタレマン》、《ポクチンちん》をプレイ。
次のターンの布石をうち、《ダダダチッコ・ダッチー》《マリゴルドⅢ》ににらみを利かせながら相手のブースト呪文を戻し、ドローを弱める強力な動きを見せる。
dottoのターン。先ほどの《ポクチンちん》のせいかは定かではないものの、ドローしたカードは《フェアリー・ライフ》
マナゾーンのクリーチャーを充実させるためにも、そのまま埋めるのではなく《フェアリー・ライフ》を詠唱して山札の上のカードをマナに送る。
置かれたのは《知識と流転と時空の決断》
ドローしたいカードが落ちてしまった。
続けて《奇天烈シャッフ》を召喚し、1を宣言。
サーチカード《ジョジョジョ・ジョーカーズ》を止める。
しかしこれはdottoにとって、到底満足いく動きではなかっただろう。
dottoの初手は、ブーストカードこそ充実していたもののそこからつなげるカードがなかったのだ。
こうなると、ASAKURAが攻撃する必要のある《タイク・タイソンズ》をプレイできなかったことがプラスにも思えてくる。
勝負というのは何がどう作用するかわからない。
運命の神様は移り気なのだ。
停滞するdottoを後目に、ASAKURAは《メイプル超もみ人》を召喚、さらに切札《ジョット・ガン・ジョラゴン》が現れる。
千変万化の力を自在に使いこなすドラゴンの銃口が、dottoのシールドを射抜かんと強い存在感を放つ。
しかしASAKURA、ここで立ち止まってしっかりと考える。
dottoの手札は1枚。さっきのターンの動きを踏まえると、現状活躍するようなカードではない可能性が高い。
攻撃するメリットとデメリットを、落ち着いて秤にかける。
ASAKURAの手札にある有効打は《キング・ザ・スロットン7/7777777》1枚のみ。
このままターンを終了して次のターンのドローをしても、現状をさらに有利にできるカードを引ける可能性は高くない。
ターンを渡してリソース補充カードを引かれ、さらにその次のターン、あるいはそのターン中に大きく動かれる可能性もある。
それからまた少し考えて、ASAKURAは攻撃を宣言した。
《アイアン・マンハッタン》《キング・ザ・スロットン7/7777777》《ジョリー・ザ・ジョルネード》《ガヨウ神》など、場に出て活躍するクリーチャーがめくれる可能性は高く、第三者的な視点で見てもこの判断は正しかったように思う。
《ジョット・ガン・ジョラゴン》の効果でドローしたのは《タイク・タイソンズ》
小さくため息をついて、手札にあった《キング・ザ・スロットン7/7777777》を捨てる。
だが、しかし。
《タイク・タイソンズ》《メイプル超もみ人》《メイプル超もみ人》
歴戦のガンマン自慢の銃は、ここ一番で不発弾を放った。
運が大きく関与するデュエルマスターズにおいては、攻守妙手が一瞬にして悪手へと変わる。
ASAKURAの放った不発弾は、世界を揺るがす核弾頭《BAKUOOON・ミッツァイル》となって魔王dottoの手に渡った。
笑みを浮かべたdottoは、自身のターンが始まると迷わず《知識と流転と時空の決断》をプレイ。
《続召の意志 マーチス》《 天啓 CX-20 》《マリゴルドⅢ》、《マリゴルドⅢ》の効果で《κβバライフ》と《ダダダチッコ・ダッチー》。
《ダダダチッコ・ダッチー》の効果は不発に終わったものの、クリーチャーの数は十分。
デュエルマスターズという世界を滅ぼさんばかりの力を持った最強の兵器《BAKUOOON・ミッツァイル》が、ついにその姿を現す。
《続召の意志 マーチス》《マリゴルドⅢ》《ダダダチッコ・ダッチー》……
まるで楽器を弾くかのような鮮やかな手つき、魔法のような手順でdottoのバトルゾーンにはクリーチャーが次々と並んでいく。
《オコ・ラッタ》《DROROOON・バックラスター》が相手のクリーチャーを一掃し、《ハリケーン・クロウラー》がマナを回復させ、《奇天烈シャッフ》がシールドトリガーを封じる。
2枚の《奇天烈シャッフ》で3と6を宣言すると、dottoは迷わず攻撃を開始した。
相手のデッキを事前に把握できるこの大会で、サプライズカードのどんでん返しはあり得ない。
すべてのシールドトリガーを封じられたASAKURAにできるのは、敗北の瞬間を待つことのみであった。
WINNER:dotto
【第2試合】MGR(墓地ソース)VS ばんぱく(緑単ネイチャー)
COMPOFF Prosチームは、敗北による流れを変えようと選手を交代。
墓地ソースを駆るMGRが対戦に臨む。
対するばんぱくが使うは【緑単ネイチャー】
《生命と大地と轟破の決断》で《カラフル・ナスオ》《侵革目パラスラプト》の2枚を出して一気にマナを加速、場にクリーチャーを大量に並べた後に《無限銀河ジ・エンド・オブ・ユニバース》に進化させてエクストラウィンを狙う、新弾が出て新たに生まれたデッキタイプだ。
キーパーツである《生命と大地と轟破の決断》がマナから使えるため、核となるカードを気軽にマナに置けるという大きな強みを持っている。
どちらも最速キルターンは4ターン。
となると先攻が確定しているMGRに軍配が上がるだろうか。
だが、ばんぱくに不安の色はない。
聞けば、ばんぱくはかつて全国大会でMGRに敗北したとのこと。
雪辱を果たすべく気合は十分だ。
対戦相手の熱気、闘志を感じ取ったか、MGRの表情にも真剣さが増す。
同じ相手に負けるわけにはいかないばんぱく。
チームの敗北を何としても回避したいMGR。
絶対に負けられない試合が始まる。
先手MGRはデッキに5枚しかない多色カード《サマー・オジサマー/ムーン・オジサマー》をチャージ。
余った1マナで《龍装鬼 オブザ08号》と《暴走龍5000GT》のどちらでも好きな方を出せる、後々役に立ちそうなマナだ。
ばんぱくは《バングリッドX7》をチャージしてターンを終了する。
2ターン目、MGRは《百万超邪 クロスファイア 》をチャージして《アフロ行きま~す!》をプレイ。
《一なる部隊イワシン》を2枚捨て、一気に墓地を4枚増やす。
ばんぱくも《霞み妖精ジャスミン》のブーストを決める。
のちに必要となるコンボパーツ《侵革目パラスラプト》がマナゾーンに充填される。
両者上々の滑り出しといえるだろう。
3ターン目、《ほめほめ老句》と《一なる部隊 イワシン》で大型クリーチャー召喚の準備を終えたMGRは《 百万超邪 クロスファイア 》を召喚し、迷いなくWブレイク。
このWブレイクというのが絶妙で、《逆転のオーロラ》で加速できるマナを減らしつつ《侵革目パラスラプト》の効果も発動させない丁度よいラインなのだ。
《龍装者バルチュリス》がなくとも《暴走龍5000GT》と合わせてダイレクトアタックまで決められ、相手にプレッシャーを確実に与えられる点も見逃せない。
そのブレイクでトリガーしたのは《カブラ・カターブラ》
場に出すだけにとどめ、マナ回収効果は使わないことを選択する。
ダイレクトアタックの脅威が頭をよぎる中、ばんぱくは2コストブーストカードを3連打し、マナを7まで伸ばしてターンエンド。
この過程で《生命と大地と轟破の決断》がマナに埋まり、生き残ることができればビッグアクションが期待できる。
次のターンには《生命と大地と轟破の決断》を撃たれることが確定しているこの状況、なんとしてもこのターン中に決着をつけたいMGR。
《ほめほめ老句》を撃ち、《暴走龍5000GT》を探しに行く。
マナゾーンと墓地、合わせて12枚の公開領域の中に見えている目当てのカードは1枚のみで、3枚の手札の中にも当然ない。
この場面を切り取って考えると、引き込める確率は33%。
成功報酬がダイレクトアタックであるならば、悪い賭けではないだろう。
プロになってからの変化もなく、どんな大舞台でも気負ったり特段意識することはないと語ったMGR。
その言葉通り彼は、この重要な局面においても、まるでフリー対戦の1ターン目のドローをするかのような気負わぬ手つきで3枚のカードを引いた。
どんな時にも自分のやるべきことを淡々とこなす。
それも確かなプロフェッショナルの形の1つであり、とどのつまりMGRとはそのようなプロなのだろう。
3枚のカードにアクセスしたMGRだったが、そこに彼の探す龍の姿は見えない。
ここで攻撃を仕掛けても、メリットはあまりにも少ない。
そう判断し、静かにターン終了を告げる。
デュエルマスターズに取り組むうえで最も大切にしているのは「とにかく楽しむこと」であると語るばんぱく。
MGRとは対照的に、ターンが戻ってきたことにほっと一息つくと、万感の思いを込めてカードをドローする。
そしてついに、環境に激震をもたらしたばんぱくの切り札、《生命と大地と轟破の決断》がプレイされる。
選択するのは当然、マナからの特殊召喚だ。
現れるのは《カラフル・ナスオ》と《侵革目パラスラプト》のコンビ。
《カラフル・ナスオ》の効果で墓地が増えると、それらのカードは即座に《侵革目パラスラプト》により再びマナに送られる。
ばんぱくのマナが一気に13、使える残りマナも回復する。
《リーフストーム・トラップ》で《 百万超邪 クロスファイア 》と《カラフル・ナスオ》をマナに送ると、再び《生命と大地と轟破の決断》をプレイ。
たった今マナに送った《カラフル・ナスオ》と2体目の《侵革目パラスラプト》を場に出し、さらにマナを増やす。
しかし、このターンにできるのはここまでだった。
豊富なマナ、そして手札には《バングリッドX7》
再びターンが渡ってくれば今度こそ、ばんぱくは特殊勝利を決められるだろう。
だが、彼の対峙する男はそう何度もチャンスをくれるほど甘くはないのだ。
MGRは淡々と《プライマル・スクリーム》をプレイすると、墓地から切札《暴走龍5000GT》を回収しそのまま召喚、温存していた2枚目の《百万超邪 クロスファイア》を展開する。
「暴走」の名とは裏腹に、ただただ粛々と、目の前の敵を葬り去るためのTブレイクが炸裂する。
祈るようにシールドを確認していくばんぱくだったが、そこに彼を救うトリガーは眠っていなかった。
百万超邪ですら手に余らせるほどの価値を持つ勝利を、MGRがもぎ取った。
勝者:MGR
【第3試合】ASAKURA (緑t青ジョラゴンジョーカーズ) VS ばんぱく (緑単ネイチャー)
両チーム1勝1敗で迎えた最終戦。
個人の勝利が直接チームの勝利となる、極めて重い一戦だ。
ASAKURAとばんぱくは初手合いだが、互いのプレイを間近で見ている。
リストだけでなくそのプレイの癖、傾向もなんとなく感覚でつかんでいるだろう。
もっとも、実際に対局するのと傍から見るのでは大きく違うのも事実。
相手の動きを探りながらの対局になるか。
両者念入りにデッキをカットしていく。
一戦目では手早くカットしていたASAKURAだが、最終戦にかかるプレッシャーはさらに重いということか。
最終戦の先手後手はじゃんけんで決まる。
《ジョット・ガン・ジョラゴン》の《アイアン・マンハッタン》がばんぱくを縛りあげるか、《 生命と大地と轟破の決断 》のビッグアクションにASAKURAが苦しめられるのか。
このじゃんけんの結果は果てしなく重い。
大きな声でじゃんけんを先導するのはばんぱく。
幸運の女神がその姿勢に打たれたか、見事先手を獲得した。
パートナーのdottoも一安心の様子だ。
幸運の女神の心を射止めたのはばんぱくかもしれない。
だが、勝利の女神は勇者に微笑むという。
ASAKURA、この不利を覆す勇者となれるか。
ばんぱくが《イチゴッチ・タンク》でブーストを決めれば、ASAKURAは《タイク・タイソンズ》を展開し、両者ともに最高のスタートを決める。
だが続く3ターン目、先手後手の差がもろに出てしまう。
ばんぱくの《バングリッドX7》が《タイク・タイソンズ》を討ち取る。
ブーストしつつマナからの召喚権を得る、実においしい動きだ。
だが、《タイク・タイソンズ》もただでは倒れない。
ASAKURAに貴重な1マナを授け、後続を援護する。
ASAKURAは少し考えると、《ポクチンちん》をプレイ、相手の墓地をリセットした。
トップドロー、《侵革目パラスラプト》の効果を弱め、《 生命と大地と轟破の決断 》で出たクリーチャーを山札に強制送還する。
次のターンのジョラゴン召喚にはつながらないものの、相手の動きを抑制する妙手だ。
だがこれに対し、ばんぱくはそれを上回る絶妙な一手を打つ。
《 生命と大地と轟破の決断 》をプレイ。
選ばれたのは、マナ加速とアンタップキラー。
踏み倒し能力が強力でそこにばかり注目しがちだが、このカードは残る2つの能力も十分強力なのだ。
《ポクチンちん》を《バングリッドX7》が打ち破り、ばんぱくは除去しながらの2ブーストを決めた。
これには苦しい表情を浮かべるASAKURA。
再び《ポクチンちん》を召喚する。
少し考えて、効果対象は相手プレイヤーを選択。
《 生命と大地と轟破の決断 》が山札に戻っていく。
ドローしたカードを見つめながら、しばし黙考するばんぱく。
ゲームをリードしてきたに思えるばんぱくだが、気づけば次のターンは《ジョット・ガン・ジョラゴン》の召喚圏内。
もう、猶予はない。
小さくため息をつくと、《リーフストーム・トラップ》をプレイ。
《バングリッドX7》を巻き込んで《ポクチンちん》の除去を行う。
軽く深呼吸すると、覚悟を決めたようにばんぱくは宣言した。
「《逆転のオーロラ》発動、対象はすべてのシールドで」
それは、コンボが成功しなかった場合、《ジョット・ガン・ジョラゴン》《 キング・ザ・スロットン7/7777777 》《アイアン・マンハッタン》など、あらゆるスピードアタッカーにとどめを刺されてしまうようになる勝負手。
ばんぱくを守るはずだったシールドトリガーが、マナゾーンに埋まっていく。
ただし、複数のコンボパーツを共にして。
《 生命と大地と轟破の決断 》
切札の名の通り、勇気ある決断を下したばんぱくに、デッキは応えて見せた。
《侵革目パラスラプト》と《カラフル・ナスオ》のペアが、さらにマナを増やす。
再度唱えられる《 生命と大地と轟破の決断 》
次に現れたのは《バロン・ゴーヤマ》と《侵革目パラスラプト》だ。
《カラフル・ナスオ》の前に《バロン・ゴーヤマ》をはさむことで、マナの調整、使用できるマナをさらに増やすことが可能となる。
シールドがなくなったことで発動可能となった《侵革目パラスラプト》のマナからの召喚能力で《ダンディ・ナスオ》が現れ、《バロン・ゴーヤマ》をマナにセット。
そして、最後の決断が下される。
《 生命と大地と轟破の決断 》によって現れたのはまたしても《侵革目パラスラプト》と《バロン・ゴーヤマ》。
だが、ことここに至っては、現れたクリーチャーにはそこまでの大きな意味はなかった。
三度下された決断の先には、次元の嵐が吹き荒れる。
このターンばんぱくがプレイした呪文は、《リーフストーム・トラップ》《逆転のオーロラ》そして《 生命と大地と轟破の決断 》が3回。
呪文カウント5。
これを聞けば、大半のプレイヤーがこのカードを想像するだろう。
環境の台風の目となり続けた、デュエマ界最大の嵐を。
《次元の嵐スコーラー》が、マナゾーンより現れる。
追加ターンを獲得し、マナと《侵革目パラスラプト》の召喚能力を回復させたばんぱくは、10体のクリーチャーを進化元に、《無限銀河ジ・エンド・オブ・ユニバース》を召喚した。
勝者:ばんぱく
勝利コンビ:dotto×ばんぱく
決着がついた瞬間、4人の健闘を称えるように観客から拍手が上がった。
プロには強さが必要不可欠であることは前述した。
この4人は、疑いようもなくその強さを持ち、それを今ここに証明した。
だが、プロにはそれ以上に求められるものがある。
それは、見るものを惹きつける輝きだ。
プロ野球の試合を見て野球選手を志すように、役者が観客をフィクションの世界に没入させるように、アイドルがファンに希望を与えるように、奨励会員がタイトル戦を見て涙を流すように。
試合を見た全員が、彼らに羨望のまなざしを向け、そして今すぐ自分もデュエマをしたいと胸を高鳴らせていた。
彼らの放つ輝きは、デュエルマスターズのさらなる繁栄を確信させるに十分なものだった。
文責:西川航平